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15.黒と愚か者
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「お前、ふざけているのか。顔も見せないで、生意気だ!」
何か魔術を使われたと気がついた時には遅かった。
びゅうっと前から風が吹いて、フードがめくれあがった。
ぱさりと後ろに落ちて、隠していた顔があらわれる。
「あっ」
「黒髪?お前、魔女なのか!?」
「違う!」
「黒髪なんだから、魔女に決まっているだろう。
しかも変な耳の化け物め!
どこから忍び込んだんだ!早く出ていけ!」
「出ていくのはエクトル、あなたよ!」
「お前も魔女の手先なのか!
そうか。ジルベール様は騙されているんだな!?」
「そんなわけないでしょう!」
どうしよう。黒髪を見られちゃった。
今さらフードをかぶっても意味がない。耳までわかられている。
マリーナさんが言い返してくれているけれど、どうしよう。
ジルベール様に迷惑をかけてしまった……
「俺は騙されてなんていないぞ」
「「ジルベール様!」」
ジルベール様?顔を見る前に抱き上げられる。
あぁ、本当にジルベール様だ。院長様と話が終わったんだ。
ほっとして抱き着いたら、優しく頭をなでられる。
「ぅぅ……ごめんなさい」
「泣くな、心配しなくていい」
「でも……」
「大丈夫だ」
頬をぽろりと涙がこぼれたら、ジルベール様が唇で拭ってくれた。
「安心していい。本当に大丈夫だ」
「……はい」
抱きしめられるように、ジルベール様の胸に顔を隠される。
これ以上、黒髪や猫耳を見せないようにってことかな。
「ジルベール様、早くその化け物から離れてください」
「この子は化け物ではない。
今、精霊と融合している状態だ」
「は?精霊?」
「そうだ。守護精霊がいたらしい。
身を守るために同化しているが、回復中のため分離できない」
「……耳はそうだとしても、黒髪は精霊のせいではないでしょう!」
「黒髪は生まれつきだ」
「ほら、やっぱり魔女だ!」
胸が痛い……黒髪は不吉だ、呪われる。
だから、お前は外に出しちゃいけないんだ。
そう言われ続けていたけれど、
こうして他人から責められるのは初めてだ。
お義母様とドリアーヌの言うとおり、
本当に黒髪は外に出てはいけなかったんだ……。
「黒髪が魔女だなんて、誰が言ったんだ?」
「え?」
「そんな研究結果はどこにもないが、誰が調べた結果だ?」
「いや、研究とかじゃなく、昔から知られていることじゃないですか」
「それは真実なのか、お前が調べたのか?
読んだものなのだとしたら、その研究発表はいつされたものだ?」
「……いえ、……でも」
魔術院の魔術師らしい言葉に、エクトル様は黙った。
「三十年前、王家から発表された黒と魔女は関係ないという研究結果。
それは院長が調べたものだ」
「え」
「院長が黒色の人間、動物を調べ、魔力を検査した。
総じて魔力が他の者よりも高かった。
だから、黒髪の女性は魔女になれる能力があった。
黒い動物は魔女の使い魔になれる素質があった。
ただ、それだけのことだ」
「ですが……」
「研究結果に反論するのであれば、
きちんと調べて論文として発表しろ。
ただの噂に惑わされて信じているようでは魔術院にいる資格はない。
だから、お前は助手として失格だと言われたんだ」
「……」
完全に黙ってしまったエクトル様。
これで納得してくれたんだろうか。
ジルベール様が塔へ行こうと方向を変えた途端、
叫ぶ声が聞こえた。
「だが、黒が世間から嫌われているのは事実だ!
俺を助手にしなければ、
ジルベール様は黒に呪われたと言いふらしますよ!」
「好きにすればいい。自分が愚かだと思われるだけだ」
「っ!俺は本当に言いふらすぞ!」
最後、ジルベール様の腕の隙間から見えたエクトル様は、
怒りのあまりわなわなと震えていた。
どう見ても、納得してないようだ。
ジルベール様が黒に呪われているだなんて言いふらされたら。
世間での評価が悪くなってしまう?
ジルベール様の迷惑になりたくないのに。
「シャル、愚か者のことを信じるなよ」
「だって」
「俺は院長の研究結果を信じている。
お前は魔女じゃない。ただ黒髪で生まれただけだ。
俺たちは黒を嫌ってなんていない」
「そうですよ、シャル様。
そのきれいな黒髪を貶すなんて、信じられません。
つやつやで光り輝いていて、しっとりしていて……」
「マリーナ、そのくらいにしておけ。
シャルの髪が好きなのはわかったが、脱線している」
「あ、失礼しました。
シャル様は何も悪くないとだけわかっていただければ」
「ありがとう……ジルベール様、マリーナさん」
ジルベール様とマリーナさんが気にしていないのはわかった。
だけど、エクトル様は本当に言いふらす気がする。
助手を辞めさせられて腹が立っているのもあるし、
自分を守るためにもジルベール様が黒に呪われているから、
だから助手を辞めさせられたと言い訳しそうなきがする。
その噂が広まってしまった時、
二人はまた気にしないでいいと笑ってくれるんだろうか。
何か魔術を使われたと気がついた時には遅かった。
びゅうっと前から風が吹いて、フードがめくれあがった。
ぱさりと後ろに落ちて、隠していた顔があらわれる。
「あっ」
「黒髪?お前、魔女なのか!?」
「違う!」
「黒髪なんだから、魔女に決まっているだろう。
しかも変な耳の化け物め!
どこから忍び込んだんだ!早く出ていけ!」
「出ていくのはエクトル、あなたよ!」
「お前も魔女の手先なのか!
そうか。ジルベール様は騙されているんだな!?」
「そんなわけないでしょう!」
どうしよう。黒髪を見られちゃった。
今さらフードをかぶっても意味がない。耳までわかられている。
マリーナさんが言い返してくれているけれど、どうしよう。
ジルベール様に迷惑をかけてしまった……
「俺は騙されてなんていないぞ」
「「ジルベール様!」」
ジルベール様?顔を見る前に抱き上げられる。
あぁ、本当にジルベール様だ。院長様と話が終わったんだ。
ほっとして抱き着いたら、優しく頭をなでられる。
「ぅぅ……ごめんなさい」
「泣くな、心配しなくていい」
「でも……」
「大丈夫だ」
頬をぽろりと涙がこぼれたら、ジルベール様が唇で拭ってくれた。
「安心していい。本当に大丈夫だ」
「……はい」
抱きしめられるように、ジルベール様の胸に顔を隠される。
これ以上、黒髪や猫耳を見せないようにってことかな。
「ジルベール様、早くその化け物から離れてください」
「この子は化け物ではない。
今、精霊と融合している状態だ」
「は?精霊?」
「そうだ。守護精霊がいたらしい。
身を守るために同化しているが、回復中のため分離できない」
「……耳はそうだとしても、黒髪は精霊のせいではないでしょう!」
「黒髪は生まれつきだ」
「ほら、やっぱり魔女だ!」
胸が痛い……黒髪は不吉だ、呪われる。
だから、お前は外に出しちゃいけないんだ。
そう言われ続けていたけれど、
こうして他人から責められるのは初めてだ。
お義母様とドリアーヌの言うとおり、
本当に黒髪は外に出てはいけなかったんだ……。
「黒髪が魔女だなんて、誰が言ったんだ?」
「え?」
「そんな研究結果はどこにもないが、誰が調べた結果だ?」
「いや、研究とかじゃなく、昔から知られていることじゃないですか」
「それは真実なのか、お前が調べたのか?
読んだものなのだとしたら、その研究発表はいつされたものだ?」
「……いえ、……でも」
魔術院の魔術師らしい言葉に、エクトル様は黙った。
「三十年前、王家から発表された黒と魔女は関係ないという研究結果。
それは院長が調べたものだ」
「え」
「院長が黒色の人間、動物を調べ、魔力を検査した。
総じて魔力が他の者よりも高かった。
だから、黒髪の女性は魔女になれる能力があった。
黒い動物は魔女の使い魔になれる素質があった。
ただ、それだけのことだ」
「ですが……」
「研究結果に反論するのであれば、
きちんと調べて論文として発表しろ。
ただの噂に惑わされて信じているようでは魔術院にいる資格はない。
だから、お前は助手として失格だと言われたんだ」
「……」
完全に黙ってしまったエクトル様。
これで納得してくれたんだろうか。
ジルベール様が塔へ行こうと方向を変えた途端、
叫ぶ声が聞こえた。
「だが、黒が世間から嫌われているのは事実だ!
俺を助手にしなければ、
ジルベール様は黒に呪われたと言いふらしますよ!」
「好きにすればいい。自分が愚かだと思われるだけだ」
「っ!俺は本当に言いふらすぞ!」
最後、ジルベール様の腕の隙間から見えたエクトル様は、
怒りのあまりわなわなと震えていた。
どう見ても、納得してないようだ。
ジルベール様が黒に呪われているだなんて言いふらされたら。
世間での評価が悪くなってしまう?
ジルベール様の迷惑になりたくないのに。
「シャル、愚か者のことを信じるなよ」
「だって」
「俺は院長の研究結果を信じている。
お前は魔女じゃない。ただ黒髪で生まれただけだ。
俺たちは黒を嫌ってなんていない」
「そうですよ、シャル様。
そのきれいな黒髪を貶すなんて、信じられません。
つやつやで光り輝いていて、しっとりしていて……」
「マリーナ、そのくらいにしておけ。
シャルの髪が好きなのはわかったが、脱線している」
「あ、失礼しました。
シャル様は何も悪くないとだけわかっていただければ」
「ありがとう……ジルベール様、マリーナさん」
ジルベール様とマリーナさんが気にしていないのはわかった。
だけど、エクトル様は本当に言いふらす気がする。
助手を辞めさせられて腹が立っているのもあるし、
自分を守るためにもジルベール様が黒に呪われているから、
だから助手を辞めさせられたと言い訳しそうなきがする。
その噂が広まってしまった時、
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