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7.エクトルとの対話(ジルベール)
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シャルがお腹を空かせていたし、
早く食事にしてやりたかったのだが。
ため息をつきながらエクトルに向き合う。
酒を飲んでいたらしく近づくと臭う。
「さて、何の用だ。
わざわざ、この宿で俺が来るのを待ち伏せしていたのか?」
「ええ、ジルベール様が避暑を楽しむとは思えません。
用が終わればすぐに王都に戻るでしょうから」
「まぁ、それはそうだな」
エクトルは王都から連れてきたから、
俺たちが帰りもこの宿を利用するとわかっていた。
避暑地での俺の用が済んだのもわかっているだろうし、
待ち伏せしていたのは賢い選択ではある。
だが、話したところで結果は変わらないのだが。
「どうしても納得できません。
どうして俺が辞めさせられるのですか?」
「決まっている。お前では役に立たない。
邪魔になるだけの助手は必要ないだろう」
「っ!」
怒ったのか、酔って赤くなっていた顔がますます赤くなる。
これくらいで感情を揺らすなんて、魔術師失格だな。
まぁ、中級一の位でぎりぎり魔術院に入れたものなんてこんなものか。
中級の魔力さえあれば、たいていの魔術は使いこなせる。
一の位では苦労するだろうけど、無理ではない。
だが、エクトルが使えるのは風属性の魔術だけ。
相性のいい魔術だけ伸びるというのはよくあることだけど、
魔術院の魔術師なら最低でも三属性は使いこなせるように修行すべきだ。
俺の助手になりたいというのなら、その後だ。
「お前はそれほど才能があるわけじゃない。
なのに、努力もしてこなかっただろう」
「そんなことはないです!」
「本当に?他の者より修行したと言えるか?」
「……」
聞き返されたくらいで黙るのなら、嘘を言わなきゃいいのに。
「もう一度、魔力の制御訓練からやり直せ」
「ですが!ジルベール様は助手が必要でしょう!」
「別にいなくても困らないんだが」
「魔術院からつけるように言われているの知ってますよ!
俺が辞めたら、もう助手志望の者はいなくなります!」
「やっといなくなったか」
「は?」
魔術院の院長から散々言われていた。
独り立ちした特級の魔術師には助手がつけられることになっていると。
そう決められていると言われても、ルールを決めたのは俺じゃない。
断り続けるのにも疲れ、試しに助手をつけることになったが、
誰が来ても同じようなものだ。
せめて上級の者でなければ使い物にならないが、
所属している上級の五人は俺の助手という立場に興味がない。
才能があるものは、自分の研究に忙しいのだから当然ではあるが。
助手志望がいなくなるか、院長があきらめるか、
どちらが先だろうと思っていたが。
「……院長にどう説明するのですか!」
「院長には俺が自分で育てるからいらないと言っておけ」
「は?育てる?」
「俺の助手になる者は見つけた。
だから、もう助手志望の者を送ってこなくていい」
「まさか!さっきのガキですか!?」
「お前には関係ないな。もう出ていけ」
「待ってください!話はまだ」
「ルイ、ルナ、話は終わった。エクトルは帰してくれ」
「「かしこまりました」」
まだしつこく名前を呼んでいたが、後はもういいだろう。
いくら丁寧に説明したところで納得はしない。
エクトルは俺の助手になる以外の結論は受け入れないから。
シャルとマリーナたちは部屋に入っただろうか。
馬車の旅で疲れているだろうから、早めに食事をして、
風呂にいれて、ゆっくり休ませないとな。
そんなことを考えていた自分の唇が笑っているのに気がついて、
本当にどうかしていると思う。
拾ってきたおかしな黒猫がシャルリーヌだと気がついた時は驚いた。
まさか見たことがない魔術で変化されている婚約者だとは。
契約結婚するつもりだったんだがな。
「くくく。本当にどうかしている」
解呪した時に、シャルの魔力にふれた。
純粋な魔力のかたまりのような、原石を見つけた気分だった。
最低でも上級。もしかしたら特級かもしれない。
王都に帰って魔術院に連れて行くのは解呪のためだけじゃない。
院長に会わせて、俺の助手だと認めさせよう。
部屋に入ったらシャルはソファに座り、
マリーナから飲み物を受け取って飲んでいるところだった。
「あ、ジルベール様。おかえりなさい」
「ああ」
「……大丈夫だったんですか?」
「何も問題ないよ」
俺を見てほっとした顔をしたけれど、話は信じてなさそうだな。
黒色だからと、ずっと伯爵家に閉じ込められて育ったシャル。
助け出すつもりで婚約したけれど、こんな風に保護することになるとは。
「あ……」
小さな手でコップを持つのが難しかったのか、
シャルがオレンジジュースをワンピースに派手にこぼしている。
「シャル様、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。服を汚してしまいました」
反省したシャルの猫耳がぺこんと下がっている。
本当にわかりやすいと思わず笑ってしまう。
こんな風に人の行動を見て、笑みがこぼれてしまうことなんて、
俺の人生の中であっただろうか。
「シャル、どうせ着替えるのなら食事の前に風呂に行くか」
「え?」
ソファに座っていたシャルを抱えて風呂に向かうと、
シャルがじたばたと無駄な抵抗を始めた。
「ほら、あきらめろ。どうせ一人じゃ入れないんだ」
「そうですけど!」
「濡れたままだと風邪ひくだろう」
「マリーナさん~!」
「ふふふ。いってらっしゃいませ。着替えを用意しておきますね」
「……みぃぃぃ」
マリーナに助けを求めても無駄なのに。
笑顔で見送られ、あきらめたシャルが身体の力を抜いた。
そんなに嫌がらなくても、ちゃんと優しくしてやるのに。
本当にシャルは面白い。
早く食事にしてやりたかったのだが。
ため息をつきながらエクトルに向き合う。
酒を飲んでいたらしく近づくと臭う。
「さて、何の用だ。
わざわざ、この宿で俺が来るのを待ち伏せしていたのか?」
「ええ、ジルベール様が避暑を楽しむとは思えません。
用が終わればすぐに王都に戻るでしょうから」
「まぁ、それはそうだな」
エクトルは王都から連れてきたから、
俺たちが帰りもこの宿を利用するとわかっていた。
避暑地での俺の用が済んだのもわかっているだろうし、
待ち伏せしていたのは賢い選択ではある。
だが、話したところで結果は変わらないのだが。
「どうしても納得できません。
どうして俺が辞めさせられるのですか?」
「決まっている。お前では役に立たない。
邪魔になるだけの助手は必要ないだろう」
「っ!」
怒ったのか、酔って赤くなっていた顔がますます赤くなる。
これくらいで感情を揺らすなんて、魔術師失格だな。
まぁ、中級一の位でぎりぎり魔術院に入れたものなんてこんなものか。
中級の魔力さえあれば、たいていの魔術は使いこなせる。
一の位では苦労するだろうけど、無理ではない。
だが、エクトルが使えるのは風属性の魔術だけ。
相性のいい魔術だけ伸びるというのはよくあることだけど、
魔術院の魔術師なら最低でも三属性は使いこなせるように修行すべきだ。
俺の助手になりたいというのなら、その後だ。
「お前はそれほど才能があるわけじゃない。
なのに、努力もしてこなかっただろう」
「そんなことはないです!」
「本当に?他の者より修行したと言えるか?」
「……」
聞き返されたくらいで黙るのなら、嘘を言わなきゃいいのに。
「もう一度、魔力の制御訓練からやり直せ」
「ですが!ジルベール様は助手が必要でしょう!」
「別にいなくても困らないんだが」
「魔術院からつけるように言われているの知ってますよ!
俺が辞めたら、もう助手志望の者はいなくなります!」
「やっといなくなったか」
「は?」
魔術院の院長から散々言われていた。
独り立ちした特級の魔術師には助手がつけられることになっていると。
そう決められていると言われても、ルールを決めたのは俺じゃない。
断り続けるのにも疲れ、試しに助手をつけることになったが、
誰が来ても同じようなものだ。
せめて上級の者でなければ使い物にならないが、
所属している上級の五人は俺の助手という立場に興味がない。
才能があるものは、自分の研究に忙しいのだから当然ではあるが。
助手志望がいなくなるか、院長があきらめるか、
どちらが先だろうと思っていたが。
「……院長にどう説明するのですか!」
「院長には俺が自分で育てるからいらないと言っておけ」
「は?育てる?」
「俺の助手になる者は見つけた。
だから、もう助手志望の者を送ってこなくていい」
「まさか!さっきのガキですか!?」
「お前には関係ないな。もう出ていけ」
「待ってください!話はまだ」
「ルイ、ルナ、話は終わった。エクトルは帰してくれ」
「「かしこまりました」」
まだしつこく名前を呼んでいたが、後はもういいだろう。
いくら丁寧に説明したところで納得はしない。
エクトルは俺の助手になる以外の結論は受け入れないから。
シャルとマリーナたちは部屋に入っただろうか。
馬車の旅で疲れているだろうから、早めに食事をして、
風呂にいれて、ゆっくり休ませないとな。
そんなことを考えていた自分の唇が笑っているのに気がついて、
本当にどうかしていると思う。
拾ってきたおかしな黒猫がシャルリーヌだと気がついた時は驚いた。
まさか見たことがない魔術で変化されている婚約者だとは。
契約結婚するつもりだったんだがな。
「くくく。本当にどうかしている」
解呪した時に、シャルの魔力にふれた。
純粋な魔力のかたまりのような、原石を見つけた気分だった。
最低でも上級。もしかしたら特級かもしれない。
王都に帰って魔術院に連れて行くのは解呪のためだけじゃない。
院長に会わせて、俺の助手だと認めさせよう。
部屋に入ったらシャルはソファに座り、
マリーナから飲み物を受け取って飲んでいるところだった。
「あ、ジルベール様。おかえりなさい」
「ああ」
「……大丈夫だったんですか?」
「何も問題ないよ」
俺を見てほっとした顔をしたけれど、話は信じてなさそうだな。
黒色だからと、ずっと伯爵家に閉じ込められて育ったシャル。
助け出すつもりで婚約したけれど、こんな風に保護することになるとは。
「あ……」
小さな手でコップを持つのが難しかったのか、
シャルがオレンジジュースをワンピースに派手にこぼしている。
「シャル様、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。服を汚してしまいました」
反省したシャルの猫耳がぺこんと下がっている。
本当にわかりやすいと思わず笑ってしまう。
こんな風に人の行動を見て、笑みがこぼれてしまうことなんて、
俺の人生の中であっただろうか。
「シャル、どうせ着替えるのなら食事の前に風呂に行くか」
「え?」
ソファに座っていたシャルを抱えて風呂に向かうと、
シャルがじたばたと無駄な抵抗を始めた。
「ほら、あきらめろ。どうせ一人じゃ入れないんだ」
「そうですけど!」
「濡れたままだと風邪ひくだろう」
「マリーナさん~!」
「ふふふ。いってらっしゃいませ。着替えを用意しておきますね」
「……みぃぃぃ」
マリーナに助けを求めても無駄なのに。
笑顔で見送られ、あきらめたシャルが身体の力を抜いた。
そんなに嫌がらなくても、ちゃんと優しくしてやるのに。
本当にシャルは面白い。
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