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聖女としての働き
12.助け
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今が逃げられる最後のチャンスかもしれないと思いつつ、
決断できずに迷っていた。
前を歩く二人とは少しずつ離れていく。気が付かれてしまえば終わりだ。
…逃げよう、そう思った時だった。
「ユウリ!!」
後ろからキリルの声がして、考えることなく走り出した。
捕まることなんて考えずに、ただキリルに向かって走り出す。
キリルも私に向かって走ってくる。
「キリル!!」
「ユウリ!良かった…何があった?」
「律があらわれて、連れて行かれそうになってた。
キリルが来てくれて…良かった。どうなるかと思った…。
……律は…いない?」
キリルに抱き着いて説明して、後ろを見たらもう誰もいなかった。
律も女性も、最初からそこには誰もいなかったかのように。
「…遠くから人影は見えていた。あれはリツだったのか。
リツと一緒にいたのは誰だ?」
「わからない。王宮から迎えに来ましたって、女の人だった。
見たことない人。名前は名乗らなかった。」
「そうか……とにかく、間に合ってよかった。
ヘビがユウリの危機を知らせてくれたんだ。」
「蛇が?」
思わず左腕の蛇を見ると、目が光っている。
キリルの蛇も光っているのを見て、こうやって連絡できるのかと思う。
「蛇…ありがとう。連絡してくれたんだ。
キリルが来なかったら、そのまま連れて行かれてたかもしれない。
本当にありがとう。」
二匹の蛇にお礼を言うと、瞬くように点滅して光は消えた。
役目は果たしたとでもいうのだろうか。
「…とにかく、部屋に戻ろう。
カイン兄さんには連絡しておいた。」
「うん…なんか疲れちゃった…。
安心したら…力が入らない…。」
「そのままぐったりしてていい。
部屋に行こう。」
言うなり抱き上げて私を運ぶキリルに、そのまま体を預けた。
律にふれられそうになって、本当に嫌だった。
私にさわるのはキリルじゃないとダメだと思った。
腕の中にいるのが心地よくて目を閉じた。
ゆっくりと息を吐いてキリルの匂いにつつまれる。
今自分がいるのがキリルの腕の中だという安心感でいっぱいになる。
部屋に戻ってもキリルはそのままで、膝に抱かれたままでソファに座った。
「大丈夫?魔力が乱れているのがみえる。
やっぱり短時間でも一人にするんじゃなかった…ごめん。」
「大事なお仕事だったんでしょ?
私も油断して隊員さんをそばにいさせなかったのが悪いんだ。
隊員さんたちがいればこんなことにならなかったのに。」
「それでも、ごめん。
もう絶対に一人にしない。」
「うん。」
どっちが悪いとかじゃなく、言うなら運が悪かったのかもしれないけれど、
これ以上謝り合っていても仕方ないと思った。
次からは気を付けよう…。
「律は貴族牢から逃げ出したの?」
「今、何があったのか確認させている。
王宮の貴族牢だから、王宮の騎士に任せていたんだ。」
「律が協力者がいるって言ってた。
この神官宮から出るのも、協力者がいるから大丈夫って。」
「なんだと…協力者か…。」
この神官宮の隊員に裏切者がいるとは思いたくなかった。
だけど、聞いた情報はそのまま伝えなきゃいけない。
この日わかったのは、律が貴族牢から逃げ出し行方不明だということと、
王宮からこちらに来た女性の使用人はいない、ということだけだった。
決断できずに迷っていた。
前を歩く二人とは少しずつ離れていく。気が付かれてしまえば終わりだ。
…逃げよう、そう思った時だった。
「ユウリ!!」
後ろからキリルの声がして、考えることなく走り出した。
捕まることなんて考えずに、ただキリルに向かって走り出す。
キリルも私に向かって走ってくる。
「キリル!!」
「ユウリ!良かった…何があった?」
「律があらわれて、連れて行かれそうになってた。
キリルが来てくれて…良かった。どうなるかと思った…。
……律は…いない?」
キリルに抱き着いて説明して、後ろを見たらもう誰もいなかった。
律も女性も、最初からそこには誰もいなかったかのように。
「…遠くから人影は見えていた。あれはリツだったのか。
リツと一緒にいたのは誰だ?」
「わからない。王宮から迎えに来ましたって、女の人だった。
見たことない人。名前は名乗らなかった。」
「そうか……とにかく、間に合ってよかった。
ヘビがユウリの危機を知らせてくれたんだ。」
「蛇が?」
思わず左腕の蛇を見ると、目が光っている。
キリルの蛇も光っているのを見て、こうやって連絡できるのかと思う。
「蛇…ありがとう。連絡してくれたんだ。
キリルが来なかったら、そのまま連れて行かれてたかもしれない。
本当にありがとう。」
二匹の蛇にお礼を言うと、瞬くように点滅して光は消えた。
役目は果たしたとでもいうのだろうか。
「…とにかく、部屋に戻ろう。
カイン兄さんには連絡しておいた。」
「うん…なんか疲れちゃった…。
安心したら…力が入らない…。」
「そのままぐったりしてていい。
部屋に行こう。」
言うなり抱き上げて私を運ぶキリルに、そのまま体を預けた。
律にふれられそうになって、本当に嫌だった。
私にさわるのはキリルじゃないとダメだと思った。
腕の中にいるのが心地よくて目を閉じた。
ゆっくりと息を吐いてキリルの匂いにつつまれる。
今自分がいるのがキリルの腕の中だという安心感でいっぱいになる。
部屋に戻ってもキリルはそのままで、膝に抱かれたままでソファに座った。
「大丈夫?魔力が乱れているのがみえる。
やっぱり短時間でも一人にするんじゃなかった…ごめん。」
「大事なお仕事だったんでしょ?
私も油断して隊員さんをそばにいさせなかったのが悪いんだ。
隊員さんたちがいればこんなことにならなかったのに。」
「それでも、ごめん。
もう絶対に一人にしない。」
「うん。」
どっちが悪いとかじゃなく、言うなら運が悪かったのかもしれないけれど、
これ以上謝り合っていても仕方ないと思った。
次からは気を付けよう…。
「律は貴族牢から逃げ出したの?」
「今、何があったのか確認させている。
王宮の貴族牢だから、王宮の騎士に任せていたんだ。」
「律が協力者がいるって言ってた。
この神官宮から出るのも、協力者がいるから大丈夫って。」
「なんだと…協力者か…。」
この神官宮の隊員に裏切者がいるとは思いたくなかった。
だけど、聞いた情報はそのまま伝えなきゃいけない。
この日わかったのは、律が貴族牢から逃げ出し行方不明だということと、
王宮からこちらに来た女性の使用人はいない、ということだけだった。
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