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聖女としての働き

10.キリルの不在

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今日はキリルが王宮に国王との話し合いをしに行くというので、
美里とカインさんと一緒に行動することになっていた。

いつも通りに朝起きると着替えて食事をして、
今日一日の予定を確認しながらお茶を飲む。
めずらしく表情が曇っていたキリルは嫌そうにしながらも、
「早く帰ってくるから。」と気合を入れなおしていた。

そんなに嫌でも国王との話し合いは必要なようで、
キリルが心配になって一緒についていこうかと思ったけれど、
どうやら私がその場にいてはまずいことがあるようだ。

一緒に行こうかと尋ねたら、うれしそうに笑った後困った顔をした。

「一緒にって言ってくるのはうれしいけど、一人で何としてくるよ。」

そう言って微笑みながら頭を撫でたキリルに、それ以上のわがままは言えなかった。

キリルが王宮に行く時に私を美里たちの部屋まで送ってくれ、
そこから三人で訓練場まで移動した。
訓練場ではもうすでにたくさんの隊員たちが訓練を始めていた。



少し前から美里とカインさんも神剣を作れるようになっていて、
今日は私とキリルが作らない分、美里が張り切って作ると言いだした。

「今日は私とカインが頑張るから!」

「ふふ。頼りになるね~。じゃあ、箱に入れるのはまかせて。」

「うん、お願いね!」

出来た神剣は一本ごと長細い木の箱に詰める。
空の箱を開けると中には布が入っていて、その布で神剣を包んで箱に入れる。
入れ終わった箱が積み重なるようになったら、武器庫に置きに行く。

いつもなら隊員さんがやってくれる作業だけど、今日の私は暇で仕方なかった。
美里とカインさんの作業を見ているだけなのはつまらないし、
それよりもこうして体を動かしていたほうが楽しい。

神剣が入った箱を四つほど重ねて武器庫へ運ぶ。
最初は心配そうに見ていた隊員さんもいたが、慣れてくると安心して訓練に戻っていった。
隊員さんたちも遠征前でいろいろと忙しいはずだ。
一人で仕事をしているほうが気が楽だった。

そうやって何度目に運んだ時だろうか。
武器庫を出てすぐ、声をかけられた。知らない女の人だった。
その服装が王宮に行ったときに見かけたのを思い出し、王宮の人なのかと思う。
だけど、ここは外とはいえ、神官宮のエリアだ。
王宮の人は許可なく立ち入れないと聞いていた。なのに、どうして?

「ユウリ様でしょうか?」

「はい。」

「今、謁見室にいらっしゃるキリル隊長様がお呼びです。
 なにやら聖女様でなければ確認できないことがおきたそうで、
 すぐにユウリ様をお連れするようにと命じられました。」

言っていることは理解できる。
今日、キリルが謁見室に行っているのも正しいし、
二人いる聖女のうち私に悠里かと確認したのもあってる。
だけど、この女性の顔が真っ黒に見えた。

訓練場のほうに戻るには、この女性に近づかなければいけない。
そちらに行けば美里たちや隊員がいるのはわかっているが、
この不審な人物に近づきたくはなかった。

「わかりました。ついていけばいいですね?」

「ええ、案内いたします。」

その女性が王宮のほうへと私に背をむけ歩き始めたのを見て、
ついていかずに反対側へと走り出す。

「え?ユウリ様!?」

驚いて引き留める声がしたが、そのまま走って逃げた。
神官宮の入り口を入って廊下をまっすぐに進む。
このまま私室に戻って、キリルが来るまで閉じこもろう。
もしかしたら美里たちや隊員さんが異変に気が付いてくれるかもしれない。

あと少し…逃げ切れる!
そう思って角を曲がったところで、悲鳴をあげそうになる。
王宮の衛兵服を着たその人物は、ここにいるはずがなかった。

「律!どうしてここにいるの!?」

「…昔から悠里は疑い深かった。
 ああやって怪しいものに声をかけさせたら、反対側に走って逃げると思っていた。
 まずはあの場所から悠里を遠ざけないと、話もできないから。」

「…!!」

あの女性の怪しさが私を捕まえるための罠だったのか。
まさかそんなことを思ってもいなかったから、人のいないほうに逃げてしまっていた。
どうしよう。このままだと、あの女性にも追いつかれる。

じりじりと後退する私に、律はこれ以上ないほどの笑顔で近づいてくる。

「悠里、ようやく会えた。
 ここから一緒に逃げよう?」

「嫌よ。」

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