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聖女としての働き

9.愚かな王子

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謁見室から神官宮へ戻ろうと通路を歩いていると、待ち伏せている者に気が付く。
金の髪を束ねた王族衣装。足音で俺が来たことがわかるとパッと顔をあげた。
その顔を見て、やはり理解していないんだなと思った。


「キリル。やっと会えた。」

「ダニエル、何の用だ。」

「何度も神官宮に行ってるのに、聖女に会わせてもらえないんだ。
 お前から許可を出してくれよ。」

やはりそのことか。
大きなため息をついている間もダニエルは話続けている。

「ひどいんだぞ、お前のとこの隊員たち。
 わざわざ王都で有名な菓子店に買いに行っているのに、
 差し入れ一つ認めてくれないんだ。可哀そうに思わないのか?」

「誰がかわいそうなんだ?」

「イチカに決まっているだろう。
 あんなに聖女に会いたがっているのに、一度も会わせてもらえない。
 ユウリとかいう聖女は甘いものが好きなんだろう?
 だからイチカと焼き菓子やケーキを買いに行っているのに、
 一度も受け取ってくれないんだ。」

「おい、ちょっと待て。イチカを外に連れ出しているのか?」

まさかイチカを連れて街に買い物に行っているのか!?
王宮の客室に幽閉して監視しているのを、
許可なく神官宮の入り口まで連れて来るだけでも問題だというのに。

「ああ、ずっとあんな部屋に閉じ込めておけないだろう。
 ちょっとくらい外出してもいいじゃないか。俺がついているんだし。
 イチカ、あれから毎日泣いているんだぞ。
 ユウリに差し入れる菓子を買いに行く時だけはうれしそうなんだ。
 なぁ、会わせてやれよ。

 喧嘩したのかもしれないけど、それまでは仲良かったんだろう?
 家族みたいに育ってきたって言うじゃないか。
 俺たちで仲直りさせてやろうぜ。」

聖女を害するものを勝手に連れ出した挙句に、聖女に会わせろとは。
しかも、ユウリを害するという意味を全く理解していない。
あれを喧嘩や仲たがいですませてしまうとは信じがたい。
今からダニエルに教育をやり直しても無理だろうな…。

もうダニエルは王族から外れたほうが幸せかもしれない。
そんなにイチカがいいのなら、一緒に離宮にでも閉じ込めるか。
…あれ、そういえば。

「ダニエル、ちょっと聞きたいんだが、
 お前はイチカをどうするつもりなんだ?
 お前、婚約者いなかったか?
 この間の夜会で連れてなかったが、どうしたんだ?」

こいつには婚約者がいた。王妃候補として育てられた令嬢が。
ダニエルの五つ下だったと思ったが、この前の夜会では見なかった。
本来なら、王族側で一緒に出迎えなきゃいけない立場だろう?

「ん?婚約者?いるよ?
 この間の夜会はエスコートできなかったけど、仕方ないだろう。
 あの夜会に連れて行かなきゃイチカを聖女に会わせることができなかったから。
 ちゃんと婚約者には連絡しておいたから大丈夫だよ。

 婚約者のことも大事にするつもりだけど、イチカのことも放っておけないんだ。
 イチカもできれば妃にしてやりたい。」

それは婚約者を正妃に、イチカを側妃にするつもりなのか…。
確かに王太子ならば複数の妃を娶ることも可能ではあるけれど。

「…ダニエル、お前は王族でいられなくなる可能性が高い。
 王妃候補だった婚約者とは婚約解消になるだろう。
 イチカを娶るのなら、間違いなく貴族ですらいられない。
 それでもいいんだな?」

「は?どういうことだ?」

「王妃候補として育てられた婚約者は、ハイドンの婚約者になるだろう。
 ハイドンと歳が近いし、王妃候補として教育されているのなら理解するだろう。
 まぁ、夜会にエスコートされていない時点で向こうは見限っているだろうが。」

「なんでそうなるんだよ?」

「お前が今している行動は、そういうことだ。
 王妃候補の婚約者を夜会でエスコートしないなんて、
 その時点で王太子になる資格なんてない。ありえないって気がつけよ。

 イチカという女は聖女に害があるって何度も説明したよな?
 あれは異世界人ではあるが聖女ではない、貴族でもない。
 貴族と平民と結婚は認められていないのを知らないのか?

 これ以上イチカを連れ出すのはやめるんだ。
 あれは幽閉しているものだ。王子だからといって連れ出していいわけないだろう。
 それに何度面会に来たとしても、答えは一緒だ。会わせるわけがない。
 これ以上は自分で考えろ。」

「ちょっと待てって。
 なんでそんなに怒ってんだよ。」

これ以上はつきあいきれないから戻ろうと思った時、腕の蛇が熱を持った。
いつもは緑目なのに何かを知らせるように赤く光っている。

まさかユウリに何かあったのか!

「おい、キリル。」

「うるさい、お前にかまってる場合じゃない。」

すぐに走り出したが、神官宮が遠く感じた。
しまった。ユウリと一時でも離れるんじゃなかった。








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