32 / 142
聖女の世界
15.本当の姿
しおりを挟む
「お茶飲んだらちょっと見て欲しいものがあるんだ。」
「ん?見て欲しいもの?」
食後のお茶を飲み終わってソファでまったりしていた私を、
キリルが両手を取って立ち上がらせる。
どこに行くのかと思っていたら、浴室の脱衣所の奥に扉があった。
その扉を開けると中は思ったよりも広く、壁際にたくさんの服がかけられている。
「ここは?」
「ここは衣裳部屋。
いつもここからユウリの服を選んでいるんだけど、
見て欲しいのは服じゃない。」
衣裳部屋の窓際に大きな鏡が立てかけられていた。
壁に立てかける鏡としては大きすぎるんじゃないかと思うけど、
ドレス着て全身を見るのにはこれくらい必要なのかもしれない。
縦横2mずつくらいありそう。
ここで服を着替えた時に見るんだろうけど、
わざわざ私を鏡にの前に連れてきたのはどうしてなのかな。
「ユウリ、自分の姿を確認してくれる?」
「あ。色が変わっているんだよね。髪と目の。
そういえば確認してなかった。」
神の住処で身体を作り変えてもらったけれど、
それから一度も自分の姿を確認していなかった。
前の自分の身体にも思い入れはなかったし、
必要が無いのに鏡を見るような習慣もなかった。
自分の身体が変化したのはわかっていたけど、
そこまで変わらないと言われたのもあってあまり興味を持てなかった。
何の取り柄もない顔、どこにでもいるような女の子。
平均と変わらない身長に、長くも短くもない手足。それが、私だ。
がっかりするほどでもないけれど、鏡を見ても面白くない。
でも、一度くらいはちゃんと確認しておかないとダメか。
そのためにここに連れ来られたんだろうし。
ゆっくりと大きな鏡に近づくと、少しずつ自分の姿が見えてくる。
プラチナブロンドの髪が腰まで伸びていて…あれ。
わたし…こんな顔してた?変化してもあまり変わらないんじゃなかった?
「うそ…。」
「嘘じゃない。今見えているのが真実。
鏡の中にいるのは、ちゃんとユウリだよ。」
「だって、これじゃ…。」
綺麗すぎるという言葉は何とか飲み込んだ。
自分で自分のことを綺麗すぎるだなんて言ったら頭がおかしいと思われる。
だけど、どうしてこんなにも違うの?
「これが寄生されていた弊害だよ。」
「弊害?」
「二人がユウリの魔力を吸い上げてたせいで、
ユウリは普通の人間よりも力が足りない状態だったんだ。
力っていうのは、魅力でもある。
ユウリの魅力をあの二人が奪っていたせいで、
ユウリはずっとパッとしないように見えてたはずだ。」
「力…が無いせいで?」
「そう。同じ顔、同じ表情でも、外に向けられている力、
魅力があるか無いかで評価は変わるものだから。
ユウリが変わったんじゃない。
もとからユウリは綺麗だったんだ。
ただ、力が無いせいでそのことに気が付かなかった。
力を奪っていた律と一花はユウリの綺麗さに気が付いていただろうけど。
その力に魅かれて奪い続けていたんだから。」
「…変化したから顔が変わったわけじゃないの?」
「違うよ。髪と目の色が違うから印象は大きく違うだろうけどね、
顔のつくりや体型はそれほど変わらないはずだよ。」
「そんな…。」
もう一度鏡の中にいる自分を見る。
光るような髪はさらっさらで、前髪があごのあたりで内側に軽くカールしている。
頬に髪がかかっている顔は小さくて、ぱっちりとした大きい目は緑色。
鼻筋はとおっているし、唇なんてメイクもしてないのに桃色でぷるんとしている。
眉毛も整っているし、まつげも長くてハーフの子みたい。
真っ白い肌は変わらないように見えるけど、こんなに透明感ある感じじゃなかった。
もっとくすんだ感じの肌に見えていたし、目の下のクマも無くなってる。
身体のほうも手足が細く見えるし、何より胸が大きく見える。
緑色のシンプルなドレスを着ているけれど、それがまたよく似合っている。
…だから、今日はワンピースじゃなくてドレスだったんだ。
「寄生されている二人から切り離して、
力を戻してあげないうちに見ても多分ダメだったんだ。
きっと向こうにいる時と同じように自分は平凡な顔だって感じたはずだよ。
おそらく自分自身の力を感じることも難しかっただろうから。
力が満ちてようやくユウリは自分のことをちゃんと感じられる。
その姿が本当のユウリの姿なんだ。」
「…鏡の中にいるのが自分だっていうのはわかったんだけど、
まだ信じられない…だって、自分は平凡なんだってずっと思ってた。
律と一花と比べられて、どうして自分だけ平凡なんだろうって。
それも最近ではあまり考えなくなるくらい、それが当たり前だったから。」
「わかってる。急に意識を変えるのは難しいって。
だから、ゆっくりでいい。慣れていこう?
明日からは一緒にここに来て、一緒に服を選ぼう。
それで鏡の前で確認する時間を作ろう。…いつか違和感なく見れる日が来るよ。」
「うん…ありがとう。」
「ん?見て欲しいもの?」
食後のお茶を飲み終わってソファでまったりしていた私を、
キリルが両手を取って立ち上がらせる。
どこに行くのかと思っていたら、浴室の脱衣所の奥に扉があった。
その扉を開けると中は思ったよりも広く、壁際にたくさんの服がかけられている。
「ここは?」
「ここは衣裳部屋。
いつもここからユウリの服を選んでいるんだけど、
見て欲しいのは服じゃない。」
衣裳部屋の窓際に大きな鏡が立てかけられていた。
壁に立てかける鏡としては大きすぎるんじゃないかと思うけど、
ドレス着て全身を見るのにはこれくらい必要なのかもしれない。
縦横2mずつくらいありそう。
ここで服を着替えた時に見るんだろうけど、
わざわざ私を鏡にの前に連れてきたのはどうしてなのかな。
「ユウリ、自分の姿を確認してくれる?」
「あ。色が変わっているんだよね。髪と目の。
そういえば確認してなかった。」
神の住処で身体を作り変えてもらったけれど、
それから一度も自分の姿を確認していなかった。
前の自分の身体にも思い入れはなかったし、
必要が無いのに鏡を見るような習慣もなかった。
自分の身体が変化したのはわかっていたけど、
そこまで変わらないと言われたのもあってあまり興味を持てなかった。
何の取り柄もない顔、どこにでもいるような女の子。
平均と変わらない身長に、長くも短くもない手足。それが、私だ。
がっかりするほどでもないけれど、鏡を見ても面白くない。
でも、一度くらいはちゃんと確認しておかないとダメか。
そのためにここに連れ来られたんだろうし。
ゆっくりと大きな鏡に近づくと、少しずつ自分の姿が見えてくる。
プラチナブロンドの髪が腰まで伸びていて…あれ。
わたし…こんな顔してた?変化してもあまり変わらないんじゃなかった?
「うそ…。」
「嘘じゃない。今見えているのが真実。
鏡の中にいるのは、ちゃんとユウリだよ。」
「だって、これじゃ…。」
綺麗すぎるという言葉は何とか飲み込んだ。
自分で自分のことを綺麗すぎるだなんて言ったら頭がおかしいと思われる。
だけど、どうしてこんなにも違うの?
「これが寄生されていた弊害だよ。」
「弊害?」
「二人がユウリの魔力を吸い上げてたせいで、
ユウリは普通の人間よりも力が足りない状態だったんだ。
力っていうのは、魅力でもある。
ユウリの魅力をあの二人が奪っていたせいで、
ユウリはずっとパッとしないように見えてたはずだ。」
「力…が無いせいで?」
「そう。同じ顔、同じ表情でも、外に向けられている力、
魅力があるか無いかで評価は変わるものだから。
ユウリが変わったんじゃない。
もとからユウリは綺麗だったんだ。
ただ、力が無いせいでそのことに気が付かなかった。
力を奪っていた律と一花はユウリの綺麗さに気が付いていただろうけど。
その力に魅かれて奪い続けていたんだから。」
「…変化したから顔が変わったわけじゃないの?」
「違うよ。髪と目の色が違うから印象は大きく違うだろうけどね、
顔のつくりや体型はそれほど変わらないはずだよ。」
「そんな…。」
もう一度鏡の中にいる自分を見る。
光るような髪はさらっさらで、前髪があごのあたりで内側に軽くカールしている。
頬に髪がかかっている顔は小さくて、ぱっちりとした大きい目は緑色。
鼻筋はとおっているし、唇なんてメイクもしてないのに桃色でぷるんとしている。
眉毛も整っているし、まつげも長くてハーフの子みたい。
真っ白い肌は変わらないように見えるけど、こんなに透明感ある感じじゃなかった。
もっとくすんだ感じの肌に見えていたし、目の下のクマも無くなってる。
身体のほうも手足が細く見えるし、何より胸が大きく見える。
緑色のシンプルなドレスを着ているけれど、それがまたよく似合っている。
…だから、今日はワンピースじゃなくてドレスだったんだ。
「寄生されている二人から切り離して、
力を戻してあげないうちに見ても多分ダメだったんだ。
きっと向こうにいる時と同じように自分は平凡な顔だって感じたはずだよ。
おそらく自分自身の力を感じることも難しかっただろうから。
力が満ちてようやくユウリは自分のことをちゃんと感じられる。
その姿が本当のユウリの姿なんだ。」
「…鏡の中にいるのが自分だっていうのはわかったんだけど、
まだ信じられない…だって、自分は平凡なんだってずっと思ってた。
律と一花と比べられて、どうして自分だけ平凡なんだろうって。
それも最近ではあまり考えなくなるくらい、それが当たり前だったから。」
「わかってる。急に意識を変えるのは難しいって。
だから、ゆっくりでいい。慣れていこう?
明日からは一緒にここに来て、一緒に服を選ぼう。
それで鏡の前で確認する時間を作ろう。…いつか違和感なく見れる日が来るよ。」
「うん…ありがとう。」
63
お気に入りに追加
2,699
あなたにおすすめの小説
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる