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聖女の世界
8.心の角度
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抱き上げられたまま神官宮まで戻ってくると、そのまま部屋まで連れて行かれる。
部屋のソファに座らされると、キリルがお茶を淹れてくれる。
温かいミルクティを一口飲むと、紅茶の香りと甘さが口の中に広がる。
一口一口癒されるように飲んでいると、ようやく気持ち悪さがおさまってきた。
「良かった。少しは顔色が戻ってきた。」
「うん、ありがとう。
もう気持ち悪さはおさまった。」
「そっか。
まだ辛そうだし、俺に寄り掛かってて。」
「うん。」
まだつらかったから遠慮なくキリルに寄り掛からせてもらう。
つないだままの手とふれているところから体温が伝わる。
具合が悪いからか、私の身体が冷えていたようだ。
そのまま何もない時間だけが過ぎていく。
会話もなくキリルの隣でぼんやりと考える。
あれは本当だったんだろうか。
話していた律の顔に黒い影は見えなかった…
ということは、律の中ではあれは本当の理由だったってこと?
少なくとも私を裏切ったり騙すようなつもりは無かったってことだ…。
一花を練習のためだけに抱いていた?ありえない。
「はぁぁぁぁぁ。」
苦しくて何かを吐き出したくて、長いため息をつく。
少しも気は楽にならない。何かが重くのしかかるように感じる。
どうしてこんなことになったんだろう。
あんなに一緒にいたのに、二人のことがちっともわからない。
「…理解できないことは、無理に理解しなくていいと思う。」
「キリル?」
「世の中の人間の考えていることは、すべて同じ角度じゃないんだ。」
「角度?」
「あぁ、こちらでの言葉だな。なんていうか、コトワザ?」
「どういうもの?」
「こちらでは人間の感情を宝石に例えたりする。
そういう意味で、光の屈折は人それぞれ、みたいな例えがあるんだ。
おなじ光を受け止めるにしても、角度が違う、って。」
「角度が違う…。あぁ、なんとなくわかる。
人によって考え方も反応も違うって言いたいのかな。」
「そう。まっすぐ、と言っても、同じようにまっすぐにはならない。
だから、絶対に理解し合えない者たちだっている。
無理して自分の角度に当てはめて考えようとしてもダメなんだ。」
「そっか…あぁ、うん。
私の常識ではありえなくても、あの二人の常識ではありえるんだ。
そんなの…わかりあえるわけないなぁ。」
そんなの一生かかっても理解できるわけがない。
そうなんだ、と思ったとしても、受け入れるのは別の問題だ。
あの二人がしたことを許せる日が来るとは思えなかった。
「わかりあえないもの同士が平和に暮らすためには、
関わり合わないのが一番だと思う。
それでもそばにいたいとお互いに願うのなら違うけど。」
「うん、関わらなくていい。
…変なことに巻き込んでごめんね、キリル。」
「いや、大丈夫。なんだか、他人事に思えなくて。」
「え?」
「…俺も一年くらい前、婚約者に浮気されてて。」
「ええ??」
突然のキリルの告白に、また心臓がドキドキしてきた。
婚約者に浮気された?
って、キリルに婚約者がいたの?
婚約者って、この世界ではこれが普通なのかもしれないけれど…。
あまりの衝撃に聞きたいことがあふれ出しそうになる。
それがわかったのか、キリルは私の髪を取って撫でるようにした。
「そんなに驚かなくても。」
「驚くよ!?」
「それもそうか。
俺に婚約者ができたのは十七歳の時。
向こうのほうから何度も婚約の申し入れが来て、
断り続けるのも難しくなって仕方なく受けたんだ。
向こうは五歳年下で、当時はまだ十二歳だった。
俺に一目ぼれしたらしくて、どうしても結婚したいって。」
あぁ、わかる。キリルって目立つタイプじゃないけれど、目を引く感じ。
派手じゃないけど、他にない魅力があるっていうか。
いつもニコニコしているけれど、真面目な顔したら少し冷たそうな顔に見える。
だからこそ、こんなキリルを独占して、自分だけに優しくしてもらえたら…
なーんて妄想する女子は多いんじゃないかと思ってしまう。
「その婚約者が、婚約して三年したくらいからおかしくなっていった。
向こうが十五歳を超えたくらいからかな。
夜会デビューしたっていうこともあるんだろうけど、
エスコートして入場しても、途中でどこかに消えるようになったんだ。」
部屋のソファに座らされると、キリルがお茶を淹れてくれる。
温かいミルクティを一口飲むと、紅茶の香りと甘さが口の中に広がる。
一口一口癒されるように飲んでいると、ようやく気持ち悪さがおさまってきた。
「良かった。少しは顔色が戻ってきた。」
「うん、ありがとう。
もう気持ち悪さはおさまった。」
「そっか。
まだ辛そうだし、俺に寄り掛かってて。」
「うん。」
まだつらかったから遠慮なくキリルに寄り掛からせてもらう。
つないだままの手とふれているところから体温が伝わる。
具合が悪いからか、私の身体が冷えていたようだ。
そのまま何もない時間だけが過ぎていく。
会話もなくキリルの隣でぼんやりと考える。
あれは本当だったんだろうか。
話していた律の顔に黒い影は見えなかった…
ということは、律の中ではあれは本当の理由だったってこと?
少なくとも私を裏切ったり騙すようなつもりは無かったってことだ…。
一花を練習のためだけに抱いていた?ありえない。
「はぁぁぁぁぁ。」
苦しくて何かを吐き出したくて、長いため息をつく。
少しも気は楽にならない。何かが重くのしかかるように感じる。
どうしてこんなことになったんだろう。
あんなに一緒にいたのに、二人のことがちっともわからない。
「…理解できないことは、無理に理解しなくていいと思う。」
「キリル?」
「世の中の人間の考えていることは、すべて同じ角度じゃないんだ。」
「角度?」
「あぁ、こちらでの言葉だな。なんていうか、コトワザ?」
「どういうもの?」
「こちらでは人間の感情を宝石に例えたりする。
そういう意味で、光の屈折は人それぞれ、みたいな例えがあるんだ。
おなじ光を受け止めるにしても、角度が違う、って。」
「角度が違う…。あぁ、なんとなくわかる。
人によって考え方も反応も違うって言いたいのかな。」
「そう。まっすぐ、と言っても、同じようにまっすぐにはならない。
だから、絶対に理解し合えない者たちだっている。
無理して自分の角度に当てはめて考えようとしてもダメなんだ。」
「そっか…あぁ、うん。
私の常識ではありえなくても、あの二人の常識ではありえるんだ。
そんなの…わかりあえるわけないなぁ。」
そんなの一生かかっても理解できるわけがない。
そうなんだ、と思ったとしても、受け入れるのは別の問題だ。
あの二人がしたことを許せる日が来るとは思えなかった。
「わかりあえないもの同士が平和に暮らすためには、
関わり合わないのが一番だと思う。
それでもそばにいたいとお互いに願うのなら違うけど。」
「うん、関わらなくていい。
…変なことに巻き込んでごめんね、キリル。」
「いや、大丈夫。なんだか、他人事に思えなくて。」
「え?」
「…俺も一年くらい前、婚約者に浮気されてて。」
「ええ??」
突然のキリルの告白に、また心臓がドキドキしてきた。
婚約者に浮気された?
って、キリルに婚約者がいたの?
婚約者って、この世界ではこれが普通なのかもしれないけれど…。
あまりの衝撃に聞きたいことがあふれ出しそうになる。
それがわかったのか、キリルは私の髪を取って撫でるようにした。
「そんなに驚かなくても。」
「驚くよ!?」
「それもそうか。
俺に婚約者ができたのは十七歳の時。
向こうのほうから何度も婚約の申し入れが来て、
断り続けるのも難しくなって仕方なく受けたんだ。
向こうは五歳年下で、当時はまだ十二歳だった。
俺に一目ぼれしたらしくて、どうしても結婚したいって。」
あぁ、わかる。キリルって目立つタイプじゃないけれど、目を引く感じ。
派手じゃないけど、他にない魅力があるっていうか。
いつもニコニコしているけれど、真面目な顔したら少し冷たそうな顔に見える。
だからこそ、こんなキリルを独占して、自分だけに優しくしてもらえたら…
なーんて妄想する女子は多いんじゃないかと思ってしまう。
「その婚約者が、婚約して三年したくらいからおかしくなっていった。
向こうが十五歳を超えたくらいからかな。
夜会デビューしたっていうこともあるんだろうけど、
エスコートして入場しても、途中でどこかに消えるようになったんだ。」
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