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2章 旅の始まり

10.怒りの種

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ジョエルがマジックハウスを訪ねてきたのは、深夜になってからだった。
おそらくその日のうちに話しに来るだろうと思って待っていたが、
ここまで遅い時間だとは思っていなかった。
みんなが眠そうな顔をしているのを見て、眠気覚ましのお茶の準備を始めた。

「ごめんね…なかなか抜け出せなくて。」

「ああ、あの男がしつこかったんだろう?
 もうマジックハウスには入れないように設定してあるし、
 入れない人間には見つけることもできない。
 ここにいる間は安心していいぞ。」

「はぁぁ。良かった。少し休ませて…。」

よっぽど疲れているのだろう。
ジョエルはソファに横たわると、そのまま顔だけ上を向けて話し始めた。

「黒い布が獣に巻き付いて消えたって言っただろう?
 黒い布を使う魔術の話は聞いたことがあるんだ。
 リンドー公爵の下に、黒い布を使う魔術師がいるって。
 実際にその魔術師を見たことは無いが、いることには間違いない。」


「じゃあ、今回の事件はその公爵が裏で関わっているってことか?」

「ああ。僕がここに来たのも議会の誘導だって言っただろう?
 もしかして、今回の件の目的はリリーかもしれない。」

「私?」

急に話を振られ、用意していたお茶をこぼしそうになる。
シーナに慌てて支えられ、お茶のセットを渡す。

「僕を無理にでもこの国に来させる用事なんて、
 リリーのこと以外無いだろう。」

「俺とリリーなら事件の対応に来ると予想されてたってことか?」

「多分ね。
 この国の魔術師は少ないし、来る可能性は高い。
 実際に二人は来ただろう?
 それに王宮から出てるから、今ならリリーを狙えると思ったんじゃないかな。」

「そうか…
 じゃあ、次はそんなことを考えないように、
 その魔術師を徹底的にたたかないとな。」

ねらいは私…。この事件も?
獣が暴れた馬小屋を思い出す。ぼろぼろに崩れた屋根。傷ついて倒れていた馬。
もう少し逃げるのが遅かったら、人が傷ついていたかもしれない。
それが全部、私を隣国に連れて行くために仕組まれていた?

「…許せない。」

「あ、やばいな。リリーが怒ってる。」

「姫さん、こういうの嫌うからな…。」

「…姫様から目を離しちゃダメですね。おそらく暴走しますよ。」

「え?僕、言わない方が良かった?」

早く見つけて捕まえないと。
自分のことが原因で傷つくのは許せない。
それに、意思を無視してジョエルの正妃に迎えようだなんて。

絶対に捕まえて、そんな考え全部つぶしてやるんだから。


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