上 下
9 / 29

9.企み

しおりを挟む
次の日から学園にもアロルドを連れて行く。
一時間しか離れられないのだから、学園でもずっと一緒にいることになる。

授業はどうしようかと思っていたら、
アロルドは自分の席から椅子を持ってきて、私の机を借りるように隣に座った。
あまりにも大胆に動くのでハラハラしてしまったが、
周りの学生たちはアロルドを避けるように動いている。
ここでも呪いの力は働いているようだ。

そのことにほっとしながら自分の席に座る。
できるかぎり近くにいたほうがいいと、一つの教科書を二人で見て授業を受ける。

入学時から首席のアロルドは誤解されがちだが、
最初から何でもできる人ではないと知っている。
勉強も魔術も努力でここまで来ている。

真面目なアロルドが一週間も休んでしまったのは不本意だろう。
久しぶりの授業を熱心に受けている横顔に、
私はどれだけ努力したら追いつけるのかと思う。
私は……アロルドの隣にいるのにふさわしい人になれているだろうか。





昼休憩の時間、いつもの食堂ではなく個室を借りることにした。
アロルドが食堂で食べても誰も気がつかないかもしれないが、
私が話しかけるのが大丈夫なのかはわからなかったからだ。

個室に入ると、食事は二人分用意されていた。
給仕係に出て行くようにお願いして、
二人きりになったのを確認してから食べ始める。

「……便利と言えば便利だけど、不思議ね」

「そうなんだよな。人から見えないだけで、それほど困っていないんだよな。
 あぁ、このまま消えたらそれは困るけれど」

「でも私と一緒にいれば消えないのでしょう?」

「うん。だから、しばらくはこのままでいいかと思い始めている」

「え?」

私がそう思っているのを見透かされたのかと思って、聞き返してしまった。
それには返事がなく、話題を変えられてしまう。

「日中は少しなら離れられても大丈夫って言ってたよな。
 後で様子を見てこようと思うんだ」

「様子って?」

「ベッティル王子とイザベラだよ。
 あいつらが何を企んでいるのか、聞いてこようと思って」

「……それは確かに気になるけど」

「大丈夫、すぐに戻るよ。
 もし、一時間しても戻らないようだったら精霊にお願いして戻してくれる?」

「わかった。無理はしないでね?」

もうすでに決めたようだったから強く反対するのはやめた。
きっと私のためにしてくれているのだと思うし。



それからアロルドは何度かベッティル様たちの様子を見に行った。
ただいちゃついていることが多かったようだが、十日ほどした時に思わぬ報告を受けた。

「個室でベッティル王子とイザベラの他に、ブランカが同席していた」

「え?ブランカが?」

一学年のブランカとどこで知り合ったのだろう。今まで接点はなかったはずなのに。

「どうやら、エルヴィラとの婚約を破棄しようとしているらしい。
 エルヴィラの有責で」
 
「それはなんとなく気がついていたけれど、ブランカはなぜそこにいたの?」

「王子たちの行動を指示しているのはブランカのようだ」

「どうしてブランカが……」

ベッティル様とイザベラの恋を応援して、ブランカに良いことがあるのだろうか。
学年も違うブランカがどこでイザベラと接点があったのか考えてもわからなくて、
もしかしたら妾の子という立場が同じだから応援しているのかと思いついた。
イザベラとブランカはそう考えたら似ているかもしれない。





ブランカが公爵家に来たのは私が六歳の時だった。
お母様が亡くなって一年が過ぎ、喪が明けた次の日、お父様は愛人とブランカを連れてきた。

正確に言うと、連れてきたのはいいけれど、敷地内に入れなくて私を呼び出した。

「おい!これはどういうことだ!」

「……どういうことだと言われましても。その方たちはどなたですか?」

「お前の新しい母親と妹だ」

私の新しい母親。理解できない言葉に思わず首をかしげる。
あぁ、この方がお母様が言っていたお父様の愛人ね。
これから夜会にでも行くのかと思うような濃い化粧に派手なドレスを着ている。
一緒にいる女の子がその愛人が産んだという娘。
癖っ気のある赤髪を気にしたように引っ張っている女の子は、
なぜかうれしそうに私を見ている。

「お父様、その方はお父様の愛人であって私の母ではありません」

「なんだと!」

「籍を入れていないのでしょう?
 まぁ、籍を入れたとしても私とは家族ではありませんけれど」

そう言うと図星だったのか黙り込む。
お父様は私の父親として公爵家の籍に残っているだけ。
もし再婚するようなことがあればお父様は公爵家の籍から外れる。
元は侯爵家の二男ではあるが、お父様自身に爵位はない。
再婚すれば元貴族の平民になってしまう。
さすがにそんなことはしないだろう。

「……お父様は私が成人するまで当主代理となると決まっています。
 その間だけなら本宅に住んでかまいません。
 ただ、その愛人と娘はお父様の客人という扱いになります。
 きちんとわきまえてください。他の貴族から笑われることになります」

「……わ、わかった」

六歳の娘がそこまでわかっているとは思わなかったのかもしれない。
無理やりにでも公爵家に住ませることができれば公爵夫人として扱えると。
きっとそう思って私に何も言わずにつれて来たのだろう。

だが、私は三歳から公爵家の当主としての教育が始まっている。
そう……お父様の裏切りを知ったお母様は生きていたくないと、
自分が死んでもいいように私への教育を始めたのだ。

残された私がお父様に良いようにされないようにという心配と、
自分のように甘やかされた結果何もできない女にならないようにと。

こうして私がお父様の要求をはねのけた結果、
愛人とその娘は客人の扱いのまま本宅で生活をしている。
平民なので夜会に連れて行くことは許されず、お茶会にも呼ばれない。
何度か不満を言っていたようだが、それが変わることはない。

ブランカは自分が平民だということが理解できていないのか、
私と血がつながっているから特別だと思っているのか、
たびたび離れに来ようとして精霊に嫌われていた。

本宅の使用人から手紙が届けられ、ブランカが会いたがっているのは知ったが、
成人したら出て行ってもらうことになっている。
下手に仲良くなることは避けたかった。
公爵家の当主と仲が良い平民の女など、攫われて利用されてしまう可能性が高い。
何の力もないお父様が愛人と娘を守れるとは思わなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

処理中です...