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7.お茶の時間
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「そんなに嫌なんですか?」
ハンスにそう聞かれて、はっとする。私の行動はそう見えるのか…。
大きく息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
「ハンス、嫌がってるわけじゃないの。ただ、落ち着かないのよ。」
ため息交じりに言った言葉を、どのくらい理解してくれたのかどうかわからない。
嫌がって見えるのは、確実に自分のせいだろう。
お父様もハンスも、結婚相手を教えてくれなかったのは、
私が叔父様を嫌っていると思っているからだろう。
…嫌ってなんかいないのに。
確かに、一時期とても避けていた。
声を聞くのも嫌だと、泣いて逃げていた記憶はある…。
完全に私が悪いわ…。
だけど、どうして逃げていたのかを、誰かに言う気にはなれなかった。
「ジルバード様が来たようです。」
「わかったわ。お通しして?」
朝とは違い、騎士服だった。紺色に金線の入った、叔父様だけの騎士服。
あの頃、あんなに見たくなかった服の叔父様が目の前のソファに座る。
「遅くなって悪かった。待っていてくれてありがとう。」
「いえ、待つのは平気です。お忙しいのでしょう?」
「あぁ、忙しいと言えば忙しい。
だが、ここに来てシルヴィアとお茶する方が大事だ。」
そう言って微笑まれたのを、目をそらしてしまう。
横に控えていた侍女に助けを求める。
「お茶の用意をしてくれる?お菓子は多めに出して。」
その言葉にくすっと笑ったのが聞こえた。
「叔父様?何か笑いました?」
「いや、笑ったわけじゃない。お菓子があいかわらず好きなんだなと思って、
少しうれしくなっただけなんだ。」
言い訳をされても、笑われたことがショックで聞きたくない。
こんなに意地悪な人だったかしら。
「ルヴィ、すねないで?かわいいと思っただけなんだ。」
5年ぶりの愛称呼びに、懐かしい笑顔に、言い返せない。
どうして、そんな笑顔を私に見せるのだろう。
私は、もう…あの時あきらめたのに。
「…ダメだったか?俺は、昔のように、ジルって呼んでほしい。
ルヴィって呼んでいた頃に戻れたらと思っているんだ。」
…ジルって呼んでいいの?本当に?
でも、またあんな思いをするのは嫌だ。
「急がないよ。いつか、そう思ってくれたらいい。
まず、これからの予定を話すよ?
次の夜会、ルヴィの16歳の誕生日を祝う夜会で、
俺たちの婚約を正式発表するそうだ。
これは他国への公式発表も同時だ。おそらく抗議が来るだろう。
それでも、この婚約を無かったことにする気はない。
他国にルヴィをさらわれるようなことは、絶対に阻止する。
…次の夜会、一緒に踊ってくれるか?」
他国にさらわれる?抗議が来る?
そんな心配は必要ないだろうと思ったけど、真剣な顔で言われると、
否定するほうがおかしい気がしてきた。
「わかりました。」
「そうか。」
見るからに安心した風に息を吐き、お茶を飲み干した。
「すまん。実は会議の中、抜け出してきた。
明日は祈りの塔に行く代わりにどこか行くのか?」
「いいえ、塔に行かなければ朝に出かける予定は無いです。」
「そうか、わかった。同じ王宮内と言っても早朝だしな、少し心配で。
どこにも行かないならいいんだ。
明日のお茶の時間にまた来る。それじゃ、また。」
立ち上がると、こちらに近づき、左手を取って指に口づけた。
あまりの自然な動きに、拒否する間も無かった。
かわりに、ジルバードがいなくなった後も、
しばらくの間シルヴィアは動くことができなかった。
ハンスにそう聞かれて、はっとする。私の行動はそう見えるのか…。
大きく息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
「ハンス、嫌がってるわけじゃないの。ただ、落ち着かないのよ。」
ため息交じりに言った言葉を、どのくらい理解してくれたのかどうかわからない。
嫌がって見えるのは、確実に自分のせいだろう。
お父様もハンスも、結婚相手を教えてくれなかったのは、
私が叔父様を嫌っていると思っているからだろう。
…嫌ってなんかいないのに。
確かに、一時期とても避けていた。
声を聞くのも嫌だと、泣いて逃げていた記憶はある…。
完全に私が悪いわ…。
だけど、どうして逃げていたのかを、誰かに言う気にはなれなかった。
「ジルバード様が来たようです。」
「わかったわ。お通しして?」
朝とは違い、騎士服だった。紺色に金線の入った、叔父様だけの騎士服。
あの頃、あんなに見たくなかった服の叔父様が目の前のソファに座る。
「遅くなって悪かった。待っていてくれてありがとう。」
「いえ、待つのは平気です。お忙しいのでしょう?」
「あぁ、忙しいと言えば忙しい。
だが、ここに来てシルヴィアとお茶する方が大事だ。」
そう言って微笑まれたのを、目をそらしてしまう。
横に控えていた侍女に助けを求める。
「お茶の用意をしてくれる?お菓子は多めに出して。」
その言葉にくすっと笑ったのが聞こえた。
「叔父様?何か笑いました?」
「いや、笑ったわけじゃない。お菓子があいかわらず好きなんだなと思って、
少しうれしくなっただけなんだ。」
言い訳をされても、笑われたことがショックで聞きたくない。
こんなに意地悪な人だったかしら。
「ルヴィ、すねないで?かわいいと思っただけなんだ。」
5年ぶりの愛称呼びに、懐かしい笑顔に、言い返せない。
どうして、そんな笑顔を私に見せるのだろう。
私は、もう…あの時あきらめたのに。
「…ダメだったか?俺は、昔のように、ジルって呼んでほしい。
ルヴィって呼んでいた頃に戻れたらと思っているんだ。」
…ジルって呼んでいいの?本当に?
でも、またあんな思いをするのは嫌だ。
「急がないよ。いつか、そう思ってくれたらいい。
まず、これからの予定を話すよ?
次の夜会、ルヴィの16歳の誕生日を祝う夜会で、
俺たちの婚約を正式発表するそうだ。
これは他国への公式発表も同時だ。おそらく抗議が来るだろう。
それでも、この婚約を無かったことにする気はない。
他国にルヴィをさらわれるようなことは、絶対に阻止する。
…次の夜会、一緒に踊ってくれるか?」
他国にさらわれる?抗議が来る?
そんな心配は必要ないだろうと思ったけど、真剣な顔で言われると、
否定するほうがおかしい気がしてきた。
「わかりました。」
「そうか。」
見るからに安心した風に息を吐き、お茶を飲み干した。
「すまん。実は会議の中、抜け出してきた。
明日は祈りの塔に行く代わりにどこか行くのか?」
「いいえ、塔に行かなければ朝に出かける予定は無いです。」
「そうか、わかった。同じ王宮内と言っても早朝だしな、少し心配で。
どこにも行かないならいいんだ。
明日のお茶の時間にまた来る。それじゃ、また。」
立ち上がると、こちらに近づき、左手を取って指に口づけた。
あまりの自然な動きに、拒否する間も無かった。
かわりに、ジルバードがいなくなった後も、
しばらくの間シルヴィアは動くことができなかった。
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