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10.常識の通じない国

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「お義姉様!では私も一緒に連れて帰ってください!」




え?と思って振り返ってみると、レミアが残っていた。
国王とフォレッド王子、父親の公爵が捕縛されたというのに、
なぜレミアが残されているの?
もしかして、騎士から見て公爵家の令嬢だと思われなかった?

今日のレミアのドレスは深紅で、両肩が出ているだけではなく、
胸元も背中も広く開いている。
いや、開き過ぎて、胸の谷間どころか先まで出てきそうなほどだ。
夜会のドレスだとしても度を超してしまっている。
…これを見て公爵家の令嬢だなんて思わないわよね。


「ねぇ、お義姉様は帝国に帰るのでしょう?
 だったら、私も連れて帰ってくれますよね?」

わざと返事をしなかったのに、ニヤニヤと笑いながら近づいてくる。
カインが私を隠すように庇ってくれるので、それに甘えて後ろに隠れた。

「お前は公爵家の養女だったな。なぜ帝国に行けると思うのだ?」

「だってぇ、私はお義姉様の妹ですもの。あらぁ?
 お義姉様がレンバード様の妹なら、私も妹ですよね?
 お義兄様ぁ、仲良くしてくださいますよね?
 そうだわ!お義兄様の妃にしてくださってもいいですわよ?」

…あ、お義兄様が固まった。
帝国の貴族がしっかりしているから、こういう令嬢は初めて会ったのだろう。
どう対応するんだろう。あ、騎士団長を呼んだ…相手する気がないのか。

「あれもちゃんと捕縛しろ。
 公爵家の養女でミルティアを害そうとした女だ。」

「はっ。」

「え?え?やだ、助けてお義姉様、どうして?
 お義兄様!レンバード様!助けてください!」

「レミア、あなたが私のことを仲の良い姉だって言うなら、
 私はあなたに媚薬を飲ませて放置させた方がいいのかしら?
 だって、それがあなたの言う姉妹のつきあいかたなのでしょう?」

そう言うと、後ろから小瓶が一つ差し出された。カインからだった。

「欲しいならどうぞ?あの時の媚薬と同じものだよ。
 かなり強力だから、全部飲ませたらまともな状態には戻らないと思うけど。」

「ひっ。」

腰を抜かしてしまったのか、レミアが座り込んでしまった。
中庭の土がついて、ドレスがぐちゃぐちゃに汚れるのが見える。

「ふふっ。いらないわ。
 薬で正気を無くすよりも、正気でいたほうが辛いこともあると思うし。
 今のレミアに媚薬を飲ませてもご褒美にしかならないわ。」

「それもそうだね。」

もういいと騎士団に目で合図を送ると、騎士たちがレミアを無理やり立たせる。
捕まえて連れて行こうとするのだが、あまり引っ張ると胸が出てしまうからなのか、
騎士たちもどう連れて行ったらいいか困っているようだ。

「おい、お前ら。遠慮はいらん。担いででも連れていけ。
 どうぜ王族も貴族も廃すから、全員一般牢に入れてしまっていいぞ。」

お義兄様のその言葉に火が付いたように反応したレミアに、
騎士たちは近くにあったテーブルの大きな布をとって、
レミアをぐるぐるに巻いて担いでいった。

「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。たすけぇてぇぇえええええ!
 やだってば、ねぇ、いやぁぁぁぁ!ごめんなさい、ごめんなさいぃ!
 たすけて!ねぇぇええぇえええええ!」

あまりの叫び声にお義兄様が困った顔をしている。
帝国の皇太子のこんな表情はめったに見れないだろう。

「ミルティア、あの女が急に態度が変わったのは何かあるのか?」

「それはですね…この国が腐ってるのは王族や貴族だけではないので、
 一般牢は無法地帯になっています。
 牢の中にいるものよりも、牢の外にいるものの方が凶暴だとも言われてます。
 つまりですね、一般牢に入ったら男女問わず看守たちから襲われるってことです。」

「…なるほど。
 とりあえずミルティアを害した者たちは一般牢に入れて、
 明日にでも奴隷落ちさせて鉱山送りにするつもりだったが、
 一週間ほど一般牢に入れておくか。」

あら。思ってた以上にお怒りだったんですね、お義兄様。

「あいつらの処罰に関して、何か言いたいことはあるか?」

「いいえ?この国に未練はないですし、
 カインも一緒に帝国に帰ってくれるので満足です。」

「カインか…。ミルティア、皇女なら好きなだけ相手を選べるんだぞ?
 本当にカインで良いのか?」


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