上 下
9 / 11

9.帝国とバファル国

しおりを挟む
この国に母のレベッカ皇女が嫁いできたのは特殊な事情があった。
帝国とは比べ物にならない小国。
潰しても構わないものであったが、
バファル国を境に反対側には敵国のタイカン国が存在した。
先の皇帝はタイカン国から攻められることを考え、
バファル国に帝国の軍事拠点を置くことにした。

それでも、バファル国を帝国に組み込むのは帝国貴族からの反対が多かった。
それほど身分差がひどかったからだ。
小国の貴族をそのまま帝国の貴族にするのは嫌だったのだろう。
そこで皇帝が考えたのは末娘の王女を嫁がせて属国化することだった。
産まれつき足が不自由だったレベッカ皇女は旅がしたい、
異国に行ってみたいという気持ちが強く、
見たことも聞いたこともない小国のバファル国へ嫁ぐことを承諾する。

この時、バファル国では王太子が暴れていた。
もうすでに恋人と結婚寸前で別れるつもりがなく、
レベッカ皇女を正妃にすることを嫌がったのだ。
バファル国に着いたレベッカ皇女は嫌がる王太子に驚いたが、
王太子の容姿にも才能にも言動にも惚れる要素が一つも無かったため、
代案として示された公爵家の嫡男と結婚することを選んだ。
予定外の行動に皇帝は難を示したが、
結局は娘の「王太子とだけは嫌です。」の一言で公爵家に嫁ぐことを認める。

ただし、属国にするのが目的の婚姻だ。
レベッカ皇女の身分は皇女のままとされ、
公爵家夫人でありながらレベッカ皇女がバファル国で一番の身分となった。
この婚姻とレベッカ皇女の存在のおかげか、
危機感を感じたタイカン国は帝国に同盟を申し込んでくる。
帝国に有利な条件での同盟はすぐさま結ばれることになった。

レベッカ皇女は陛下になった王太子ではなく、結婚相手の公爵でもなく、
カインの父親の宰相と手を組んでバファル国の王政を担った。
もともと小国なうえに腐った王族しかいないバファル国は、
レベッカ皇女と宰相でなんとか国として保っていた。
それが5年前レベッカ皇女の死で少しずつ崩壊を始める。

レベッカ皇女が亡くなったことで、
バファル国は王族を廃し、帝国に組み込まれることになった。
それを必死で止めたのは宰相で、ミルティアとフォレッド王子を婚約させ、
将来的にはミルティアを女王とする契約を結ぶことでバファル国の存続を願い出た。
ミルティアは想い合っていたカインとの婚約解消に嫌がったが、
カインのいる国を守るためだと説得され、泣く泣く承諾することにした。
確かにミルティアが帝国に帰ってしまえば、
バファル国は王族以外の貴族もすべて廃されてしまうだろう。
小国の貴族にすぎないカインを帝国に連れて行くのも難しい話だった。



契約を承諾した帝国も、少なくともミルティアが女王になるのだから、
立場もあり大事にされていると考えていた。
しかし、皇女亡き後ただ一人で王政を担っていた宰相が過労で急死したことで、
愚かな王族に歯止めをかけるものがいなくなった。
それにあわせるように公爵もつけあがり、愛人だった女と再婚し、
レミアを公爵家の養女にしたのだ。
最初から何も知らされていないフォレッド王子とレミアが暴走し始めるのには、
そう時間はかからなかった。
そしてあの夜会の事件が起きたのだが…


「まぁ、それもそうか。騎士団長を置いていくから、そのうち綺麗になるだろう。
 それで、どうする?ミルティア、この国の女王になるか?」


「嫌です。こんな国いりません。お義兄様と一緒に帝国に帰ります。
 しばらくは皇女でいなければいけないでしょうけど、
 将来的には伯父様の跡を継ごうかと思ってます。」

「ああ、ナジェール公爵家か。そういえば後継ぎいなかったな。
 わかった。じゃあ、もう少し騎士団長に指示したら一緒に帰るか。」

「はい。」

「お義姉様!では私も一緒に連れて帰ってください!」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

婚約を破棄したら

豆狸
恋愛
「ロセッティ伯爵令嬢アリーチェ、僕は君との婚約を破棄する」 婚約者のエルネスト様、モレッティ公爵令息に言われた途端、前世の記憶が蘇りました。 両目から涙が溢れて止まりません。 なろう様でも公開中です。

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!

しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

手癖の悪い娘を見初めた婚約者「ソレうちの娘じゃないから!」

音爽(ネソウ)
恋愛
わたくしの婚約者はとても口が悪い人。 会う度に「クソブス!」と罵ります。 それでも初恋相手です、惚れた弱みで我慢する日々です。 お慕いしていれば、いつか心を開いてくださると哀願し耐えておりました。 塩対応に耐え忍日々を送っていたある日、婚約者様は、あろうことか洗濯メイドを公爵家令嬢の妹と勘違いをして……。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

婚約者の密会現場を家族と訪ねたら修羅場になりました

Kouei
恋愛
伯爵家の次女である私フォルティ・トリエスタンは伯爵令息であるリシール・ナクス様と婚約した。 しかしある問題が起きた。 リシール様の血の繋がらない義妹であるキャズリーヌ様から嫌がらせを受けるようになったのだ。 もしかして、キャズリーヌ様ってリシール様の事を…… ※修羅場・暴言・暴力的表現があります。  ご不快に感じる方は、ブラバをお勧めします。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

処理中です...