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36.裏側

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また呆然としてこちらを見なくなったジャンヌを置いて部屋を出る。

キュリシュ侯爵を連れて執務室に戻ったが、宰相はまだ来ていなかった。

「仕組んだのはお前か?」

「仕組んだとは人聞きが悪いですね。」

「その通りなんだから、違いないだろう。」

「私はちょっと世間話をしただけですよ。薬師室でね。
 そういえばハインツ様は幼いころにマニヌラの根を飲んだために、
 今でも痛覚がないんだよねと。
 もしかしたら痛覚が無ければ運命の乙女にさわれるかもしれないなと。
 ちょっと考え付いたことを口にしただけですよ。」

「ほらみろ。お前が仕組んだんじゃないか。」

飄々としているキュリシュ侯爵を軽く睨みつけるが、
この男がそんなことでひるむとは思っていない。
だが、文句を言うくらいは許されるだろう。

「なんで仕組む前に相談しないんだよ。
 うまくいかなかったらどうするつもりだったんだ。」

「いや、思った以上にうまくいって驚きましたよ。
 ハインツ様はさすがですね。
 フランツ様の状態を見ただけで、マニヌラの根を思い出してくれるとは。
 あの場はわからないまま終わって、
 後からフランツ様の診察に行ってわかったことにしようと思ってたんです。
 夜会の最中に私が出ていくのは難しいですからね。」

「ハインツは何度も毒殺されかかっているからな。
 自分でも毒に詳しくなろうと薬師の勉強もしているようだ。」

「ただでさえ公務を手伝わされて忙しいでしょうに。
 本当にハインツ様は優秀ですね。
 …これで王太子の指名もできますし、毒を盛られることもなくなるでしょう。」

「ジャンヌがいなくなれば、マリアやハインツが狙われることも無くなるだろう。
 …あぁ、これでようやくマリアを王妃に戻せる…。」

まさかこんな風にすべて片付くとは思わなかった。
フランディ国との関係も、ジャンヌがいなくなれば現国王は問題ないし、
マリアが王妃にハインツが王太子になれば、公務も問題なくなる。
フランツを廃籍すると王子がハインツだけになることも、
ジョーゼルを第三王子に戻したことで問題はなくなった。

「それにしても王妃は本当に愚かですね。
 ハインツ様に飲ませた時には猛毒だと聞いて飲ませたはずなのに、
 その同じ毒をフランツ様に飲ませるだなんて。
 あぁ、もう王妃じゃなくなるんでしたね。
 ようやく解放されると思うと清々します。」

「はっきり言うなぁ。
 まぁ、わからないでもないけどな。
 あの前国王さえいなければ、すぐにでも返してやりたかったが。」

フランディ国との関係を考え、あきらめてジャンヌを王妃として娶ってみたが、
初夜の際に純潔じゃなかったことがわかったうえ、
婚姻から半年後にフランツを産んだ。
早産というわりにフランツは普通の赤子と大差なく産まれ…、
どう考えても身ごもった上で嫁いできていた。
フランツの出自があやしいことにはあえて触れずにいたが、
父上やキュリシュ侯爵たちはそのことに気が付いていた。

だからこそ、リオナの相手に俺の名が出た時に父上は止めなかったのだろう。
何かあった時のためにハインツの代わりになる者が必要だと。
ジョーゼルが第二王子だという事実は、言わなくても伝わっていただろう。
年々王妃の力が弱まるとともにフランツの周りに人が寄らなくなっていた。
側近候補が集まらなかったのも、それが理由だった。
フランディ前国王の後見がなくなれば、王妃も終わりだと。
この国の王族の血をひいていないフランツが王太子になるわけがないと。

「これでようやく私の仕事も落ち着きますね。
 あぁ、ハインツ様の担当はジョーゼルにする予定です。
 卒業後は王宮薬師になると言ってましたから。
 私は陛下とマリア様の担当だけでも忙しいですからね。
 そろそろ休ませてください。」

「そうか。そういえば卒業後は薬師になると言ってたな。
 ハインツとの仲もいいし、問題ないだろう。」

確かにキュリシュ侯爵は休みをとることなく、
王宮薬師長としてずっと王宮内に寝泊まりしていた。
ジャンヌが王妃になった時から、俺だけでなくマリアとハインツも担当していた。
毒耐性スキルを持っている王宮薬師はキュリシュ侯爵、一人だけだった。
ジョーゼルが卒業後に薬師になってくれればその負担も減るだろう。
…働かせすぎだったかと、さすがに反省した。


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