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27.夜会入場

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王宮の控室での待ち時間は、ゼル様と楽しく話しているうちに過ぎていた。
係りの者に呼ばれたときにはもう?と驚いてしまったほどだった。

第三王子とその婚約者として入場すると、その次にフランツ様とハインツ様、
最後に陛下と王妃が入場することになっている。

王族しか入場しない広間の大扉が開かれると、
中にいた貴族たちの目が一斉にこちらへと向いた。
王家からの連絡でジョーゼル様が第三王子だと公表されて、
公式な場として初めてのお披露目でもある。

キュリシュ侯爵家嫡男として有名だったジョーゼル様ではあるが、
王族として初めての出席ということで注目されているのだろう。
王族席までつくと、陛下たちの入場まで立って待つことになる。
その間も、ずっと視線を感じ続けていた。

「さすがにこれだけ見られていると気になるな。
 アンジェは大丈夫?」

「…見られること自体は慣れていますが、これはすごいですね。
 でも、大丈夫です。」

今は第三王子の婚約者としてこの場に立っている。
公爵家の令嬢として見られているのとは意味が違う。
ゼル様が侮られないためにも、隣にいる私もしっかりしなければという思いだった。

「頼もしいな、アンジェ。
 でも、俺に頼ってくれてもいいんだよ?」

「それはもちろん頼ってますよ?」

「そう?なら、もう少し俺の近くにいて?」

「ええ。」

軽く手をそえるようにエスコートしていたのをぐっと引き寄せられる。
腰に手を回される親密なものに変わり、見ていたものたちからざわめきが聞こえる。
ゼル様を見上げたら、うれしそうに微笑まれて、そのまま見つめ合っていた。

「ジョーゼル、アンジェ。仲がいいのはいいけど、ほどほどにね。」

気が付いたら近くまで来ていたハインツ様に笑ってそう言われる。
今さらながら人に見られていることを理解して、恥ずかしくなる。

金髪で水色の瞳のハインツ様は、色から受ける印象が強いせいか、
見た感じはジョーゼル様とは似ていない。
だけど、こうして並んでいる様子を見ていると、
穏やかに笑う表情がとてもよく似ている。

ハインツ様が入場して、少しだけ遅れてフランツ様が入場してくる。
少しふらついているようなフランツ様にあれ?と思ったが、
そういえばフランツ様は学園をずっとお休みしていた。
どこか身体の具合が悪いのを無理して出席したのかもしれない。
収穫祭は神に感謝するもので、その夜会の出席は王族として大事な仕事のはずだ。
多少の無理をしてでも出席しなければいけないのかもしれない。

そんなことを考えているうちに陛下と王妃が入場となる。
王族として軽く頭を下げているゼル様の隣で、もう一段階深く頭を下げる。
貴族たちは最敬礼をして入場を待っている。
その中、ゆっくりと陛下と王妃が入ってきた。
本来なら側妃と三人で入場してくるはずだが、
ハインツ様の母である側妃はもう長いこと公式の場には出ていない。
王族席まで着くと、陛下の少し後ろに王妃が立つ。
陛下のあいさつの後、夜会が始まることになっていた。

「顔をあげよ。」

ざっと音がして、広間中の者が顔を上げる。
厳かな雰囲気の中、陛下が話し始めた。

「今日は収穫祭の夜会ではあるが、それと同時に大事な報告もある。
 キュリシュ侯爵家に預けていたジョーゼルが王族として復籍することになった。
 婚姻して臣下となるまでの短い間ではあるが、
 王族を抜けても息子であることには変わりない。
 今後は第三王子として扱ってくれ。」

承諾を示すように、皆がそろって頭を下げる。
陛下はそれを見渡しうなずきながら、話を続けた。

「そして、ジョーゼルだが、運命の相手に選ばれた。
 そのため、ルードヴィル公爵家のアンジェとの婚約を結ぶことになった。」

「お待ちください。」

無礼にも、夜会の挨拶中の陛下の言葉をさえぎったのは王妃だった。
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