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16.罪悪感
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馬車に乗ると当たり前のようにゼル様は私に向かって手を広げた。
その腕の中に飛び込んでいくとゼル様がふわっと笑った気がした。
「やっぱりこうしていると落ち着く。
朝アンジェを教室まで送った後、手がさみしくて。
授業中もなんだか落ち着かなかったよ。」
「私もです。
なんだか、あるべきものがないような気がして…。」
「ふふ。一緒だ。」
まるでしまい込むように抱きしめられ、頭のすぐ上からゼル様の声が聞こえてくる。
その声が耳に届くたびにうれしくて、もっと声が聞きたくなる。
「今日はどうだった?
教室は騒がしくなかった?」
「友人二人には騒がれました。いつも一緒にいる子たちです。
他の方は気になってはいたようですが、普段からあまり話さないので、
さすがに聞いてくることもなかったです。」
「そう?あまり他の人と話さないの?
意外だな…。」
ゼル様が第二王子と来ていた時は、私の隣にはダイアナとユミールしかいなかった。
教室内で話して周りに迷惑をかけないようにと、すぐに廊下に出ていたから、
他の人の反応がわからなかったのかもしれない。
「あの…去年は大変だったんです。
令息たちが私に求婚しに押しかけてきて…。
その中には婚約者がいる令息も何人かいまして。
おかげで令嬢たちには嫌われてしまって。
ダイアナとユミールは私のせいじゃないってかばってくれたのですけど。」
「はぁぁ。そんなことがあったのか。
フランツ様が教室を訪ねた時、周りからの視線が変だなとは思ったけど、
あれはそういうことだったのか。
それじゃあ、なおさらフランツ様が訪ねていくのは嫌だっただろう。
ごめんな。もっと強く言ってやめさせれば良かったよ。」
「ゼル様のせいじゃないですから。
それに…そのおかげでゼル様に会えたのですから…。
今は第二王子には特に何も思っていません。
あ、第二王子から何か言われました?」
「いや、今日は会ってない。
それに今日はそれどころじゃなくて…。」
「え?」
なんとなく言いにくそうにしているゼル様に、気になって見上げてみる。
もしかして何か隠そうとしている?
言うまで待つつもりでじっと見つめていると降参と小さくつぶやかれた。
「いや、剣技の授業があったんだけど、急に模擬戦にされて。
どうしてかと思ったら、リュリエル以外の全員から戦いを挑まれた。」
「ええ?」
「運命の乙女を手に入れるなんてずるい!ってさ。
多分、アンジェに求婚して弾かれた奴もいるんだと思うけど…。」
「リュリエル様以外全員ですか?
そんなに戦って…大丈夫なんですか?」
「ああ。大丈夫。さすがに疲れはしたけど、全部勝ったよ。
アンジェの名を出された勝負なら、負けるわけにはいかないからね。」
「ごめんなさい…。」
「あぁ、ほら。そう言うと思ったから言わないでおこうと思ったんだ。
アンジェが悪いんじゃないよ。
まぁ、こういう風に挑まれるのは嫌いじゃないし、
リュリエルが二十人とかならきついけど、
リュリエルじゃない奴らが束でかかってきても勝てるから。」
だから気にしないでと頭を優しくなでてくれたけれど、
やっぱり申し訳なさは消えなかった。
「こんな風に苦労してたんだな。
一方的に思いを寄せられ続けて、人に迷惑をかける。
それを全部自分のせいだって思ってたんだろう?
もういいんだよ、もうそんなことはないから。
アンジェの相手は俺に決まったんだ。
これから何があっても俺が守るから…そんなふうに萎れないで。」
「でも…。」
現にまだゼル様に迷惑をかけている。
それに運命の相手が決まったとして、
それで今でのことをなかったことにしていいのだろうか。
「大丈夫、アンジェは悪くない。」
「…っ。」
両頬をはさむように押さえられ、顔を覗き込まれる。
視線をそらそうと思っても、動かしてもらえなかった。
静かな優しい目が私を見ている。
それが、運命の乙女ではなく、私を見てくれているように感じた。
その腕の中に飛び込んでいくとゼル様がふわっと笑った気がした。
「やっぱりこうしていると落ち着く。
朝アンジェを教室まで送った後、手がさみしくて。
授業中もなんだか落ち着かなかったよ。」
「私もです。
なんだか、あるべきものがないような気がして…。」
「ふふ。一緒だ。」
まるでしまい込むように抱きしめられ、頭のすぐ上からゼル様の声が聞こえてくる。
その声が耳に届くたびにうれしくて、もっと声が聞きたくなる。
「今日はどうだった?
教室は騒がしくなかった?」
「友人二人には騒がれました。いつも一緒にいる子たちです。
他の方は気になってはいたようですが、普段からあまり話さないので、
さすがに聞いてくることもなかったです。」
「そう?あまり他の人と話さないの?
意外だな…。」
ゼル様が第二王子と来ていた時は、私の隣にはダイアナとユミールしかいなかった。
教室内で話して周りに迷惑をかけないようにと、すぐに廊下に出ていたから、
他の人の反応がわからなかったのかもしれない。
「あの…去年は大変だったんです。
令息たちが私に求婚しに押しかけてきて…。
その中には婚約者がいる令息も何人かいまして。
おかげで令嬢たちには嫌われてしまって。
ダイアナとユミールは私のせいじゃないってかばってくれたのですけど。」
「はぁぁ。そんなことがあったのか。
フランツ様が教室を訪ねた時、周りからの視線が変だなとは思ったけど、
あれはそういうことだったのか。
それじゃあ、なおさらフランツ様が訪ねていくのは嫌だっただろう。
ごめんな。もっと強く言ってやめさせれば良かったよ。」
「ゼル様のせいじゃないですから。
それに…そのおかげでゼル様に会えたのですから…。
今は第二王子には特に何も思っていません。
あ、第二王子から何か言われました?」
「いや、今日は会ってない。
それに今日はそれどころじゃなくて…。」
「え?」
なんとなく言いにくそうにしているゼル様に、気になって見上げてみる。
もしかして何か隠そうとしている?
言うまで待つつもりでじっと見つめていると降参と小さくつぶやかれた。
「いや、剣技の授業があったんだけど、急に模擬戦にされて。
どうしてかと思ったら、リュリエル以外の全員から戦いを挑まれた。」
「ええ?」
「運命の乙女を手に入れるなんてずるい!ってさ。
多分、アンジェに求婚して弾かれた奴もいるんだと思うけど…。」
「リュリエル様以外全員ですか?
そんなに戦って…大丈夫なんですか?」
「ああ。大丈夫。さすがに疲れはしたけど、全部勝ったよ。
アンジェの名を出された勝負なら、負けるわけにはいかないからね。」
「ごめんなさい…。」
「あぁ、ほら。そう言うと思ったから言わないでおこうと思ったんだ。
アンジェが悪いんじゃないよ。
まぁ、こういう風に挑まれるのは嫌いじゃないし、
リュリエルが二十人とかならきついけど、
リュリエルじゃない奴らが束でかかってきても勝てるから。」
だから気にしないでと頭を優しくなでてくれたけれど、
やっぱり申し訳なさは消えなかった。
「こんな風に苦労してたんだな。
一方的に思いを寄せられ続けて、人に迷惑をかける。
それを全部自分のせいだって思ってたんだろう?
もういいんだよ、もうそんなことはないから。
アンジェの相手は俺に決まったんだ。
これから何があっても俺が守るから…そんなふうに萎れないで。」
「でも…。」
現にまだゼル様に迷惑をかけている。
それに運命の相手が決まったとして、
それで今でのことをなかったことにしていいのだろうか。
「大丈夫、アンジェは悪くない。」
「…っ。」
両頬をはさむように押さえられ、顔を覗き込まれる。
視線をそらそうと思っても、動かしてもらえなかった。
静かな優しい目が私を見ている。
それが、運命の乙女ではなく、私を見てくれているように感じた。
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