2 / 29
2.第一王女はどっち
しおりを挟む
満足そうにうなずく陛下に礼をして謁見室から出る。
そこで待ち構えていたのは目を吊り上げた。
本来なら第一王女のミリーナだった。
ほっそりとして背が高いミリーナは、
栗色の髪をゆるく巻いて胸を隠すようにしている。
ドレスのデザインは胸元が開いているのが基本なので、
真っ平な胸を見せたくないらしい。
私にしてみたらどうでもいいことだけど、
本人にとってはどうでもよくないのだろう。
「どういうことよ!あんたが王女として嫁ぐって!」
「私にはわかりません。陛下の命令ですので」
「後宮で生まれただけで、お父様の子じゃないのでしょう!?」
「そうだと思いますが、陛下は王女として嫁がせたいのでしょう」
私の母は後宮へ貢物として出された侯爵家の妾の娘だった。
黒髪黒目だったけれど、産まれた私は金髪青目だった。
この国で金髪青目は王家か高位貴族しかいない。
後宮に出入りを許された者の誰かが父親なはずだけど、
実際に誰なのかはわからない。
一応は後宮なのだから、陛下の子として認められている。
栗色の髪と緑目のミリーナは公爵家出身の王妃にそっくりで、
血筋は高貴なのだが王家の色ではなかった。
それもあって金髪青目の私を王女として認めたのだろう。
最初から何かの時はミリーナの代わりに王女として使うつもりで。
それをミリーナは納得してないのか、こうしてからまれることが多い。
「それに!どうしてイザーク様があんたなんかを選ぶのよ!」
「イザーク様とは?」
「イザーク・イルミール様よ!
お父様がイザーク様に私とあんたの釣書を一緒に送ったって!
どう考えても選ばれるのは私の方なのに、どうしてあんたが選ばれるのよ!
私は夜会で何度も踊ったことがあるのに!」
あぁ、なるほど。
何を怒っているのかと思ったら、公爵はミリーナの想い人だったのか。
あいかわらず好き勝手に生きているらしい……。
王女として生まれたのなら、政略結婚に使われるのが当たり前だというのに。
だが、陛下の考えもわかる気がした。
ミリーナを選んだのなら、ミリーナが公爵夫人となることで、
義息子になる公爵をいいようにするつもりだったのだろう。
その反対で私を選んだのなら、
実娘を振った腹いせも兼ねて殺させるつもりだったと。
あのクズ国王が考えそうなことだ。
これ以上ミリーナに関わりたくなくて、すっと横を通り過ぎる。
明日には公爵領に向かって出発する。こんなことに使う時間はない。
「私には何も言うことはありません。
陛下の命令通りに嫁ぐだけです」
「このっ!」
頭に血が上ったのか、ミリーナが扇子をふりあげて私を叩こうとした。
さすがにこれはまずいと思い、鉄扇でそれを止めた。
「なんで止めるのよ!黙って叩かれなさい!」
「死にたいのですか?」
「え?」
「以前に言ったと思いますが、私の血は毒です。
頬を扇子で叩かれて出血した場合、近くにいるあなたは死にますよ?」
「……っ」
そのことをようやく思い出したのか青ざめて後ずさる。
「ミリーナ様、あのものに近づいたら危ないですわ。もうおやめください」
「ええ、このような化け物は関わってはいけません。
お部屋にお戻りください」
「……わかったわよ。
どうせ女性嫌いのイザーク様なら形だけの結婚でしょうし!」
まだ怒り足りなかったのか、私をにらみつけながら部屋に戻っていった。
公爵が女性嫌いだとは国王は言っていなかったけれど。
形だけの結婚となると初夜で殺せなくなるし、そうなったら面倒かも。
ため息をつきながら後宮に戻ると、入ってすぐのところでレオナが待っていた。
「ラディア!遅かったわね」
「うん……レオナ。部屋に戻ってから話そうか」
「嫁ぐことになった。といっても、初夜で殺してすぐに戻って来いって」
「は?どこの国よ」
「国じゃなかった。どこからも断られたみたい。
行き先は、イルミール公爵家」
「イルミール公爵家って……竜帝国の?」
「知ってる?今の竜帝国の帝王の甥だって」
「政略結婚を向こうが承諾したと?」
なぜそんなことが気になるのかわからないけれど、
私が知っていることをレオナに伝える。
「どうやらミリーナ王女が公爵のことを好きだったみたい。
だから、ミリーナと私の釣書を送ったって。
選ばれたのは私の方だったみたいだけど、何が気に入ったのかな。顔?」
「そりゃ、ラディアは可愛いわよ。だけど、あの公爵が承諾するなんて」
「あの?」
「ううん、はっきりしないことは言わないほうがいいわね。
それで、殺した後は戻って来いって?」
「うん。まだどこかの国に私を嫁がせて、
その国を乗っ取る計画をあきらめてないみたいよ?」
「あーあきらめそうにないわね。あのクズ男ども」
これだけ国王の文句を言ったことが知られてもレオナが処刑されることはない。
殺そうにも体液が毒だということと、
レオナがいなくなったら薬を作れるものがいなくなるからだ。
薬以外に他国と貿易できる商品はほとんどなく、
これが無くなってしまえは同盟も切られるかもしれない。
それだけこの国が腐った国だと知られてしまってるからなのだが。
「すぐに戻って来るわ……どうせ逃げ出せないのだから」
自分の両腕にはまった従属の腕輪を見る。
この腕輪があるかぎり国王に逆らうことはできないし、逃げることもできない。
レオナは従属させられていないのだから、逃げられるのに。
ここにいてくれるのは私がいるからだ。
「ラディア、もし、もしよ?」
「ん?」
「あなたがイルミール公爵家から戻ってこなかったとしたら、
その時には私も追いかけていくから」
「え?」
「十日しても戻って来なかったら、私も行くわ。
だから、心配しないで」
「……うん」
イルミール公爵領までは馬車で二日ほどの距離だ。
どうせ行ってすぐに初夜にしろとか陛下が申し出ているのだろうから、
一週間もしないで戻ってこれるはずだ。
そのあいだレオナと離れるのは嫌だけど、
これが終われば別の政略結婚が決まるまでは一緒にいられる。
きっと、死ぬまで解放されることはないけれど、
こうしてレオナと穏やかに過ごす時間だけは失いたくない。
それが誰かを殺した褒美だとしても。
そこで待ち構えていたのは目を吊り上げた。
本来なら第一王女のミリーナだった。
ほっそりとして背が高いミリーナは、
栗色の髪をゆるく巻いて胸を隠すようにしている。
ドレスのデザインは胸元が開いているのが基本なので、
真っ平な胸を見せたくないらしい。
私にしてみたらどうでもいいことだけど、
本人にとってはどうでもよくないのだろう。
「どういうことよ!あんたが王女として嫁ぐって!」
「私にはわかりません。陛下の命令ですので」
「後宮で生まれただけで、お父様の子じゃないのでしょう!?」
「そうだと思いますが、陛下は王女として嫁がせたいのでしょう」
私の母は後宮へ貢物として出された侯爵家の妾の娘だった。
黒髪黒目だったけれど、産まれた私は金髪青目だった。
この国で金髪青目は王家か高位貴族しかいない。
後宮に出入りを許された者の誰かが父親なはずだけど、
実際に誰なのかはわからない。
一応は後宮なのだから、陛下の子として認められている。
栗色の髪と緑目のミリーナは公爵家出身の王妃にそっくりで、
血筋は高貴なのだが王家の色ではなかった。
それもあって金髪青目の私を王女として認めたのだろう。
最初から何かの時はミリーナの代わりに王女として使うつもりで。
それをミリーナは納得してないのか、こうしてからまれることが多い。
「それに!どうしてイザーク様があんたなんかを選ぶのよ!」
「イザーク様とは?」
「イザーク・イルミール様よ!
お父様がイザーク様に私とあんたの釣書を一緒に送ったって!
どう考えても選ばれるのは私の方なのに、どうしてあんたが選ばれるのよ!
私は夜会で何度も踊ったことがあるのに!」
あぁ、なるほど。
何を怒っているのかと思ったら、公爵はミリーナの想い人だったのか。
あいかわらず好き勝手に生きているらしい……。
王女として生まれたのなら、政略結婚に使われるのが当たり前だというのに。
だが、陛下の考えもわかる気がした。
ミリーナを選んだのなら、ミリーナが公爵夫人となることで、
義息子になる公爵をいいようにするつもりだったのだろう。
その反対で私を選んだのなら、
実娘を振った腹いせも兼ねて殺させるつもりだったと。
あのクズ国王が考えそうなことだ。
これ以上ミリーナに関わりたくなくて、すっと横を通り過ぎる。
明日には公爵領に向かって出発する。こんなことに使う時間はない。
「私には何も言うことはありません。
陛下の命令通りに嫁ぐだけです」
「このっ!」
頭に血が上ったのか、ミリーナが扇子をふりあげて私を叩こうとした。
さすがにこれはまずいと思い、鉄扇でそれを止めた。
「なんで止めるのよ!黙って叩かれなさい!」
「死にたいのですか?」
「え?」
「以前に言ったと思いますが、私の血は毒です。
頬を扇子で叩かれて出血した場合、近くにいるあなたは死にますよ?」
「……っ」
そのことをようやく思い出したのか青ざめて後ずさる。
「ミリーナ様、あのものに近づいたら危ないですわ。もうおやめください」
「ええ、このような化け物は関わってはいけません。
お部屋にお戻りください」
「……わかったわよ。
どうせ女性嫌いのイザーク様なら形だけの結婚でしょうし!」
まだ怒り足りなかったのか、私をにらみつけながら部屋に戻っていった。
公爵が女性嫌いだとは国王は言っていなかったけれど。
形だけの結婚となると初夜で殺せなくなるし、そうなったら面倒かも。
ため息をつきながら後宮に戻ると、入ってすぐのところでレオナが待っていた。
「ラディア!遅かったわね」
「うん……レオナ。部屋に戻ってから話そうか」
「嫁ぐことになった。といっても、初夜で殺してすぐに戻って来いって」
「は?どこの国よ」
「国じゃなかった。どこからも断られたみたい。
行き先は、イルミール公爵家」
「イルミール公爵家って……竜帝国の?」
「知ってる?今の竜帝国の帝王の甥だって」
「政略結婚を向こうが承諾したと?」
なぜそんなことが気になるのかわからないけれど、
私が知っていることをレオナに伝える。
「どうやらミリーナ王女が公爵のことを好きだったみたい。
だから、ミリーナと私の釣書を送ったって。
選ばれたのは私の方だったみたいだけど、何が気に入ったのかな。顔?」
「そりゃ、ラディアは可愛いわよ。だけど、あの公爵が承諾するなんて」
「あの?」
「ううん、はっきりしないことは言わないほうがいいわね。
それで、殺した後は戻って来いって?」
「うん。まだどこかの国に私を嫁がせて、
その国を乗っ取る計画をあきらめてないみたいよ?」
「あーあきらめそうにないわね。あのクズ男ども」
これだけ国王の文句を言ったことが知られてもレオナが処刑されることはない。
殺そうにも体液が毒だということと、
レオナがいなくなったら薬を作れるものがいなくなるからだ。
薬以外に他国と貿易できる商品はほとんどなく、
これが無くなってしまえは同盟も切られるかもしれない。
それだけこの国が腐った国だと知られてしまってるからなのだが。
「すぐに戻って来るわ……どうせ逃げ出せないのだから」
自分の両腕にはまった従属の腕輪を見る。
この腕輪があるかぎり国王に逆らうことはできないし、逃げることもできない。
レオナは従属させられていないのだから、逃げられるのに。
ここにいてくれるのは私がいるからだ。
「ラディア、もし、もしよ?」
「ん?」
「あなたがイルミール公爵家から戻ってこなかったとしたら、
その時には私も追いかけていくから」
「え?」
「十日しても戻って来なかったら、私も行くわ。
だから、心配しないで」
「……うん」
イルミール公爵領までは馬車で二日ほどの距離だ。
どうせ行ってすぐに初夜にしろとか陛下が申し出ているのだろうから、
一週間もしないで戻ってこれるはずだ。
そのあいだレオナと離れるのは嫌だけど、
これが終われば別の政略結婚が決まるまでは一緒にいられる。
きっと、死ぬまで解放されることはないけれど、
こうしてレオナと穏やかに過ごす時間だけは失いたくない。
それが誰かを殺した褒美だとしても。
154
お気に入りに追加
1,181
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
私が妊娠している時に浮気ですって!? 旦那様ご覚悟宜しいですか?
ラキレスト
恋愛
わたくしはシャーロット・サンチェス。ベネット王国の公爵令嬢で次期女公爵でございます。
旦那様とはお互いの祖父の口約束から始まり現実となった婚約で結婚致しました。結婚生活も順調に進んでわたくしは子宝にも恵まれ旦那様との子を身籠りました。
しかし、わたくしの出産が間近となった時それは起こりました……。
突然公爵邸にやってきた男爵令嬢によって告げられた事。
「私のお腹の中にはスティーブ様との子が居るんですぅ! だからスティーブ様と別れてここから出て行ってください!」
へえぇ〜、旦那様? わたくしが妊娠している時に浮気ですか? それならご覚悟は宜しいでしょうか?
※本編は完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる