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60.王弟殿下

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目の前に新しいお茶が出され、人払いがされる。
それを確認して学校長は話し始めた。


「俺が生まれた時、まだ数名の光属性が王族にいた。
 だから、それほど俺に価値があったわけじゃなかった。
 最初から兄上が国王になると決まっていたし、
 俺は臣下になって兄上を支える気しかなかった。
 俺にできるのは魔術だけ。だから、魔術師として仕えようと思っていた。
 兄上が即位して、俺が王宮魔術師長になった頃だった。
 同じ王宮魔術師の一人と恋仲になった。レイラという子だ。
 とても愛らしくて才能があったが、平民の子だった。
 それでも結婚したかった俺はレイラを貴族の養女にして結婚することを考えて、
 そのまま兄上に相談したんだ。
 それを他の貴族に聞かれていることに気が付かずに。
 …レイラは殺されてしまった。
 俺に自分の娘を嫁がせたい貴族たちの仕業だったが、
 最後までどの家が主犯なのかわからなかった。」


学校長の過去を知って、相槌も打てなかった。
ただ黙って話すのを聞くしかできなかった。

「兄上にも謝られた。
 王宮内を盗聴されていたことに気が付かなかったと。
 レイラが殺されたのは自分のせいだと…。

 悪いのは兄上ではない、そんなことはよくわかっている。
 だけど、王宮内で働くことはもう無理だった。
 王宮魔術師を辞めたが、この国のために何かしたい気持ちは残っていた。
 その思いでこの学校を作った。平民をもっと魔術師に育てるために。」

この学校がどうして平民ばかりなのか、ようやくわかった。
学園に入れない下位貴族もごくまれに入学してくるけれど、ほとんどは平民だ。
利益なんてないに等しい。学校長が私費で運営しているのだ。
そこまでしてどうして、とは思っていた。

「俺が教会に誓約して結婚しないと言ったのは、
 どの家がレイラを殺したのかわからなかったからだ。
 もしレイラを殺した家と結婚してしまったら、俺は自分を許せないだろう。
 兄上にそう話したらあきらめて許してくれた。」

「どうして、そこまでして学校長と結婚させたかったのでしょうか?」

確かに王弟殿下という立場にこだわるのはわかる。
だけど、貴族たちが結束して王弟殿下の恋人を殺すなんて。
単独であればわからないでもないが…
結束したということは政治的な判断があったはずだった。

「俺が王族で唯一の光属性になったからだ。」

思わず息を呑んだ。唯一の。
さっき生まれた時には何人かいたと言っていた。
そのすべてが亡くなって、学校長が唯一になったということか。
王家の血を持つ光属性。その重みを知ってるのは王族と公爵家のみ。
そのどれかが指示して、学校長の恋人を殺した…。

「俺がロージーとユリアスを後見下に入れたのもそういう理由だ。
 無理な結婚を強いられないように、恋人を殺されないように。
 そのために後見下に入れることを陛下も認めている。

 二人が結婚すれば、ユリアスは次期公爵になる。
 できれば学校長はロージーに継いでもらいたい。
 二人にお願いしたいのは二つ。
 平民の魔術師を守り育ててほしい。
 それと、光属性の子が困っていたら保護してくれ。」

「わかりました。俺にできることはします。」

「私もです。学校長に助けてもらわなかったら今ごろどうなっていたか。
 平民の魔術師を育てることは私の夢でもありますし。
 出来る限りの努力をいたします。」

「ああ、よかった。
 まだ俺はしばらく頑張れるだろうけど、その後は頼んだよ。
 それと、仕事途中以外はお義父様って呼んでくれるとうれしいな~。」

「ふふっ。わかりました。お義父様。」

「義父上、これからもよろしくお願いします。」

深刻な話をしていたはずなのに、最後の最後はのんびりした学校長に戻って、
思わず笑ってしまう。
でもそうか。学校長も苦しんで苦しんで、今があるんだ。
その思いを私とユリアスも受け継いで守っていかなければ。

「あ…それはそうと。
 ユリアス、告白したと思ったら、手を出すの早すぎじゃないか?
 子爵領に行ったら、殴られるの覚悟しておきなよ~。
 俺はさすがに殴ったりはしないけど~本物の父親は怖いよ?」

「え…あ、そうですね…はい。殴られるの覚悟していきます。」

「…。」

どうして全部わかってるんだろう…。
真っ赤になってしまった顔はしばらく戻らず、
その顔で行くなと止めるユリアスと言い合いになり、
授業に行くのが少し遅れてしまった。

私がいなかった間の授業は他の水属性を持つ先生が分担してくれていたらしい。
久しぶりの授業に張り切って向かうと、生徒たちが笑顔で待っていてくれた。



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