上 下
49 / 62

49.逃げ場所

しおりを挟む
目の前にいる騎士団長に遠慮なく剣ごと体当たりすると、
熊のような体が後ろに吹っ飛んでいった。
認識阻害をかけなくなってから、その分の魔力も身体強化にまわせている。
速度を上げる風魔術も使いたいだけ使える。

結果、騎士団でまともに戦える相手はいなくなっていた。

「ユリアス~もう少し手加減してくれないと訓練にならない。」

「…すみません、団長。
 どうにも手加減が難しくて。魔力が有り余ってる感じなんです。」

「認識阻害だったっけ。それを使わなくなったせいか?
 俺はまったく気が付いてなかったよ。
 そういえばあの時も治癒使ってたなぁくらいしか。
 光属性だったなんてなぁ。」

「団長~のん気ですね。
 光属性もそうですけど、こんな顔隠してたなんてずるいよ!
 見て!今日も女官と侍女でいっぱいだよ!
 こんなに観客いることなんて、今まで無かったよね!?」

「あー騒がしくてすまん。
 明後日にはいなくなるから静かになるだろう。」

「それなー。寂しくなるよ。
 お前も少しは寂しいって思ってんだろう?
 ここ最近、ずっと暗い顔してんじゃん。
 今日くらいは一緒に飲むか?」

「…いや、やめておくよ。
 ロージーの護衛で来てるんだ。
 最後まで油断したくないから。」

「まぁ、それもそうか。」

騎士団の訓練も終わり、
動けないものは治癒係がミルフェ王女の待機場所まで引きずって連れて行く。
ミルフェ王女が治癒しにくるようになって、ロージーは来なくなってしまった。
せっかくミルフェ王女が頑張っているのだから、と言っていたが。

俺としても他の奴にロージーが近づくのは面白くないし、
騎士団に来なくなったのはかまわなかった。

精霊の滝での一件以来、自分のふがいなさに落ち込んで、
騎士団の訓練の時間を増やしていた。
身体を動かしている間は忘れていられるのと、
王宮内で騒がれるのが面倒になってしまったのも原因だった。

ロージーと一緒に目立てばいいなんて簡単に言ったけれど、かなりめんどくさい。
帰国したらこうなるんだなという意味ではいい経験になった。
王弟殿下の後見下に入っておいて本当に良かったと思う。
きっと王弟殿下は俺が認識阻害かけていたのに気が付いていたはずだ。
それでも何も言われなかったのは、こういう面倒な思いを知っているからだろう。
王族で唯一の光属性が騒がれないはずはないのだから。


…いくら騒がれてもむなしいだけなんだけどなぁ。
ロージーと話している時でも女官たちが会話に参加しようとしてくるのも困る。
俺はロージーとだけ話したいのに。
ロージーはその思いには気が付かずに女官や侍女を受け入れてしまう。
だけど俺はぐいぐい来る女性たちの相手をするのはごめんだった。
結果、こうして騎士団に逃げ込んでいる。

明後日には帰れる。
大変なことが待っているかもしれなくても、
帰るまでの間はまた二人旅ができるのがうれしかった。
少しでも近くで、二人で、静かな所ですごしたい。

…帰りはもう少しゆっくり馬を走らせようかな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

【完結】聖女の妊娠で王子と婚約破棄することになりました。私の場所だった王子の隣は聖女様のものに変わるそうです。

五月ふう
恋愛
「聖女が妊娠したから、私とは婚約破棄?!冗談じゃないわよ!!」 私は10歳の時から王子アトラスの婚約者だった。立派な王妃になるために、今までずっと頑張ってきたのだ。今更婚約破棄なんて、認められるわけないのに。 「残念だがもう決まったことさ。」 アトラスはもう私を見てはいなかった。 「けど、あの聖女って、元々貴方の愛人でしょうー??!絶対におかしいわ!!」 私は絶対に認めない。なぜ私が城を追い出され、あの女が王妃になるの? まさか"聖女"に王妃の座を奪われるなんて思わなかったわーー。

悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多
恋愛
 妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。  そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。  その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。  しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。  断罪した者は次々にこう口にした。 「どうか戻ってきてください」  しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。  何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。 ※小説家になろう様でも連載中です。  9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」 わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。 ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。 驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。 ※話自体は三人称で進みます。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

処理中です...