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45.素顔

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岸まで泳いで、地上に戻るとすぐに、
ユリアスが風を操作してドレスを乾かしてくれる。
同じように服を乾かしたユリアスを見ると、緑色の目に琥珀色が混じっていた。

「ユリアス、認識阻害が切れているわ。大丈夫?」

「え?」

「…いつもかけてる認識阻害、今は切れてるから素顔になってるわよ?」

素顔を見られたくない理由があるのだと思って、
認識阻害をかけていることを聞かないでいたのだけど、
今のユリアスは完全に素顔だ。
金色の短めの髪、緑色の目にある琥珀色の光、
少年らしさを少しだけ残したあごの線、
すっと通った鼻筋や薄いくちびる、形のいい耳まで、そのまま見えている。

「…俺、認識阻害かけてた?自分に?」

「え?…えええ?」

もしかして無自覚だった?ということは常時発動させていた?認識阻害を?
そんなことしてたら、いつ魔力切れ起こしてもおかしくないのに?
…あれ?ユリアスが魔力多いのって、そのせい?

「ユリアス、多分の話だけど、
 きっと小さいころから認識阻害かけ続けてたんじゃ…?
 魔術を覚えるより先に、自分を隠したいと願ったことない?」

「…そうかも。
 俺が魔力操作を教えてもらったのは遠征で学校長に会った時が最初だし、
 魔術を教えてもらったのはロージーのが最初。
 それまで魔力はあっても使う機会というか、使わないように言われていたから。」

「こんなに魔力多いのに使ってなかったら大変なことになってたわ。
 きっと小さいころから認識阻害を使ってて、
 そのおかげで魔力がたまりすぎることも無かったのね。
 良かったというか…なんていうか。」

「…俺の家族、父上も母上も上の兄弟二人も、魔力が無いんだ。
 母上の生家は魔力もちらしいけど、母上には魔力が無くて。
 それもあって父上と結婚したようなんだ。
 ハンドウイル家は魔力がいらないからって。
 でも、俺はこんな色で、魔力もちで産まれた。
 この髪も目も色が気に入らないって、ずっと言われていたんだ。
 …途中からあまり言われなくなったとは思ってた。
 そうか、自分で隠してたんだ。」

「そうだと思うわ。
 認識阻害、特に色を見てもわからない、記憶に残らないようにしてたようよ。
 私は光属性だから、髪色が違ってもユリアスが金髪なのはわかっていたけど、
 目の色は初めて見たわ。琥珀色が入っているのね…綺麗。
 普段は緑目に見えていたけど、
 風属性なのに緑目だったから違うのだろうとは思ってたの。
 今のユリアスは魔力を使いすぎて常時発動が切れてしまったんだわ。」

「…わかってて、聞かなかったんだな。」

「私だって認識阻害できるならするもの。
 常時発動できるだけの魔力量がないから変化の腕輪を使っていたのよ?
 気持ちがわかるのだから、わざわざユリアスに聞こうとは思って無かったわ。
 でも、気が付かないでかけているとは思ってなかったけど…。
 それで、どうする?そのままでいたら騒がれるわよ?」

「…ロージーはどうするんだ?
 帰ったら、また変化の腕輪と眼鏡をつけて姿を変えるのか?」

「…もういいかなって思うのだけど、どう?
 ルーニア国ではこのままの姿でいられたわけだし、もう王族にも知られているし。
 護衛するユリアスが大変なら、姿を変えるけれど…。」

「…そうだな。わかった。
 ロージーがそのままでいるなら、俺もこのままでいる。
 ロージーだけが目立つんじゃ困るけど、俺も目立つなら抑止力になるだろう?」

「いいの?大変になるかもよ?」

「いい。俺がロージーを守るって、そう決めたんだから。
 ロージーは黙って守られていればいいんだよ。」

また腕の中に抱き寄せられたけれど、今度は乾いた服の感触と、
柔らかな体温が伝わってくる。
耳元でささやくように言われ、素直にうなずいた。
もうアステカニア王国に戻っても大丈夫。
きっとユリアスがこうして守ってくれるから。






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