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43.始まりの地

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「観光、ですか?」

「ええ。もうすぐ帰ってしまうのだし、
 少しぐらいこの国を観光してもいいんじゃないかと思って。
 ルーニアには、アステカニア王国の始まりの地があるのよ。」

「アステカニア王国の始まりの地、ですか?ルーニア国に?」

「ええ。アステカニア王国の初代国王と聖女は、
 もとは遠い国の貴族令息と聖女だったそうよ。
 王族との結婚を嫌がった聖女を連れて逃げてきたのだけど、
 その時にルーニアを通ってアステカニアへと行っている。
 旅の途中で寄った聖なる滝で愛を誓って、二人は結婚したの。
 だからアステカニア王国の始まりの地と呼ばれているのですって。
 涼しいし、あまり人はいないし、綺麗な所だし、せっかくだからどう?」

「ここから、どのくらいの距離ですか?」

「馬で一時間ってところかしら。遠乗りくらいの距離?」

「ユリアスはどう思う?」

「俺は行ってみてもいいと思う。
 そう何度も他国へと来れるわけじゃないし、
 アステカニア王国の始まりの地だというなら見てみたい。」

「そうね…涼しそうだし、行ってみてもいいかも。」

「ふふふ。とてもいいところよ。
 私もこの国に来てすぐに陛下に連れて行ってもらったのだけど、
 とても素敵な場所だったわ。
 二人も楽しんできてね。」


そう言われてマリージュ様に送り出され、
王宮の裏側から王家専用の道を使って聖なる滝へと向かった。





「見えてきた…って、思ったよりも大きいな。」

「滝が見えるけど、その下がまるで湖みたいね。
 川だと思ってたけど、湖なのかしら。」

聖なる滝というから、崖の上から滝が流れてきている川なのかと思っていた。
それが、山の上から滝になっているのは予想通りだが、どこにも川が見当たらない。
湖に滝が落ちてきている状態で、この水はどこへ流れて行っているのだろうか。

ユリアスの手を借りて馬から降りると、思った以上に湖が大きいのがわかる。
近づいて見ると、澄んだ水が綺麗で、湖の底の方まで見えた。
魚がいないことも考えると、綺麗すぎて生き物が住めないのかもしれない。
聖なる滝という名からしても、精霊が宿っている場所なのだろう。


「ロージー、マリージュ様が水属性なら願いを叶えられるって言ってた。
 水の精霊が宿っている場所らしい。
 ロージーが願えば聞いてもらえるんじゃないか?」

「…願い事?祈ればいいのかしら。」

湖を見渡すと、きらめいている湖面が少しだけ震えるように見えた。
あぁ、本当に精霊が来ているのかもしれない。
湖のすぐ近くまで行って、跪いて祈りをささげる。
精霊への感謝を捧げた後、願い事を思う時に少しだけ胸が苦しくなった。

何事もなく、平穏な生活に戻れますように…。
そう願った瞬間、湖から伸ばされた大きな手のひらに捕まえられ、
そのまま水の中へとさらわれた。

「ロージー!!」

あわてたユリアスが私を掴もうとした手は届かず、
そのまま引きずりこまれるように、音もない湖の底に連れて行かれた。

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