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42.ミルフェ王女(2)

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ロージー様のそばで何度か治癒をかけるのを見て、
それが水属性が基本となってかけているのがわかった。
光属性の効果もあると思うけど、あれはほとんどが水属性の魔力だ。
じゃあ、私が使えるって本当なんだ。

覚えた治癒を騎士にかけるために外に出ると、そこではユリアスが治癒をかけていた。
ユリアスは光属性で治癒をかけている。
だけど効果で言えば、水属性のロージー様の方が優れている。
…光属性が聖女だって、私の勘違いだったのだろうか?


真剣な顔しているユリアスは少し怖く感じた。
そばに行くのはためらって、
少し離れたところで寝ている騎士に治癒をかける。
血が止まっていない傷口をゆっくりとふさいでいく。
少ない魔力でも続けていけばそれなりに効果は出る。
そう思って焦らずに治癒をかけ続ける。



ふとユリアスが騎士に話しかけられているのが聞こえた。
治癒しながら話をしているようだ。

「なぁ、ユリアス。
 ロージー様と一緒にこの国で生きればいいじゃないか。
 帰国するなんて言わないでくれよ。」

「無理かな…確かにこの国は居心地いいし、
 騎士団のみんなともうまくやっていけると思う。」

「じゃあ、何でだよ。」

「ロージーは、光属性を持っているからこの国でも大事にされるだろう。
 だけど、ロージーが目指しているのはそんな立場じゃない。

 ロージーは魔術師学校の講師だ。
 光属性も研究しているけど、教えているのは主に水属性だ。
 しかも生徒は貴族じゃなく、普通の平民たちなんだ。

 ロージーは貴族なのに、毎日のようにぼろぼろになるまで練習していた。
 おそらく水属性ならすべての魔術が使えるようになってる。
 ロージーいわく、水属性は万能だそうだ。
 結界を作ることも水刃のように攻撃することもできる。
 治癒をかけることも、田畑を潤すこともできる。
 国を豊かにする力だって言うんだ。
 ロージーはそんな教え子が一人でも多くなるように努力している。
 その夢を叶えるためにも、帰国しなきゃいけないんだ。
 あの国はまだ苦しんでいる民が多いからな…。」

知らなかった。
光属性を持っているのに、水属性をそんな風に思っていたなんて。
だから、水属性を持っている私をここへ呼んだのね。

王女として間違えているのは途中からわかっていた。
だけど、そこからどう直せばいいのかわからなくて、ただ癇癪を起していた。
私は…私にできることをすればよかったんだ。
聖女だなんて無理に大きく見せようと思わずに、
こうしてゆっくり治癒をかける自分でいれば良かったんだ。

「すみません…姫さま。ありがとうございます。」

何人かの騎士にそうお礼を言われ、逆に申し訳なくなる。
もっと上手に治癒が出来れば、痛い思いをする時間を短くできるのに。

そうだ…ロージー様もユリアスももうすぐ帰国してしまう。
そうしたら、次にこんなことがあっても助けてもらえない。
…少しでもロージー様のように助けられるようにならなくては。

次の日から騎士団に顔を出すと、
今までは嫌な顔をしていた騎士団長が笑顔で迎えてくれた。

「騎士団長…私、これから毎日ここに来るわ。
 ユリアスに会いにじゃないわよ。
 少しでも治癒を練習したいから。」

遅いけど、ようやく自分が何をしなきゃいけないのか、わかった気がした。

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