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38.謁見

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「本当に世話になった。」

「いいえ、こちらこそ、王宮でお世話になっている身ですから。
 少しでもお役に立てて良かったですわ。」

公式にお礼をと言われたが、こちらとしては駆け落ちしてきているわけで、
大事にされても困ってしまう。
そうミラージュ様に伝えた結果、非公式で謁見することになった。
国王が一度会ってみたいとおっしゃったらしい。
銀髪に茶色の目の国王は、おそらく無属性と土属性なのだろう。
そうすると、亡くなった王妃様は水属性を持つ方だったのだろうか。

「いや、本当にミルフェのことでは助かった。」

「ミルフェ王女ですか?」

その言葉に首を傾げそうになり、国王の前だと思いじっと待つ。
あの時は緊急時だといえ不敬なことをしたので、
国王からお叱りの言葉を受けるかもしれないと思っていた。

「あの日以来、ミルフェは騎士団に治癒しに行くようになった。
 まだ下手らしいがな、できることはしたいと言っていると聞いた。
 しかも…自分のことを聖女だと言わなくなった。
 おそらくロージー嬢を見て、本物の聖女というものを知ったのだろう。」

「あの…わたくしはただの光属性なだけで、聖女ではありませんけど…。」

国王にまで聖女扱いされては困ると、不敬になるかもと思いながら否定する。
もしこの国でまで誤解されるようなことになれば、帰国しても問題になるかもしれない。

「ああ、気にするな。
 聖女というものがおとぎ話なのは知っておる。
 だが、民衆の中では確かに息づいているのだよ。
 その思いを受け止めてあげなさい。
 ロージー嬢が自ら聖女と名乗っているわけではないのは、よく知っている。
 マリージュからも話は聞いているからな。」

「そうでしたか…。」

聖女と誤解されているわけではないとわかり、少しだけほっとする。
受け止めてあげなさいと言われても、それは難しいと思いながら。


「来週には帰国してしまうのか?
 もう少しこの国にとどまってくれてもいいのだぞ?」

「ありがとうございます。
 ですが、あちらでの問題を片付けない限り落ち着きません。
 義父からも帰ってくるようにと言われております。」

「そうか…。
 もし、向こうでの問題が落ち着かなかったら、
 我が国はいつでもロージー嬢を受け入れよう。
 もちろん、護衛騎士も一緒に、だ。
 いつでも歓迎して迎え入れるので、何かあったら頼ってほしい。」

「そうよ、ロージー様。
 叔父様の保護でも難しいことがあれば、こちらに逃げてきて。
 陛下と私が、どんなことをしても守るって約束するわ。」

「ありがとうございます。」

最初はマリージュ様が後妻に入ると知って、少しだけ可哀そうと思っていた。
父親と同じ年頃の国王に嫁ぐなんて、大変なことだろうと。
その上、マリージュ様よりも年上の息子までいるのだから。
だけど、こうして国王に寄り添っているマリージュ様を見ると、意外とお似合いで。
何気ない瞬間に微笑み合っているのを見て、幸せそうだなと感じた。

あの王子が王太子になることはないかもしれない。
この様子なら、マリージュ様がお子を生む日も近いような気がしている。
そしたら、国王はマリージュ様のお子を後継に選ぶのではないだろうか。

20歳をこえても王太子に指名されていない時点で、
ベージェ王子もあきらめているのかもしれない。
その考えが正しかったと思ったのは、次の日のことだった。


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