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35.聖女と王女

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王宮のすぐ隣にある離宮では、中に入り切れない者たちが外に寝かされていた。
どの騎士も血まみれの状態だが、それでも重傷では無いという。
命の危険がある重傷者は奥の部屋へ運び込まれ、治療中という話だった。

「すみません、騎士の方。
 案内はここまででいいです。
 王女様を呼びに行ってもらえますか?」

「王女様ですか?」

「はい。無理にでも連れて来てください。
 ダメなら、マリージュ様にお願いして連れて来てください。」

「わかりました。」


騎士が走って王宮へと向かっていくのを見届けることなく、離宮の中へと入った。
今ごろは演習場にいるユリアスにも連絡が入っているはず。
得意じゃないにしても、ユリアスも光属性だ。
外に寝かされているものの治癒くらいはできるだろう。

血の匂いがまとわりついてくるような廊下を急いで走り抜け、奥の部屋へと入った。
中にはもう身動き一つできない重傷者が十数人寝かされていた。

…魔力が足りるだろうか。
いや、完全に治す必要はない。
せめて命の危険がなくなる状態にまで治せばいい。
後は薬での治療にまかせよう。
そう考えなおして、近くの騎士へと治癒を始めた。




「どうして私がこんなところに連れて来られたのよ!」

騒がしさに振り向いてみると、部屋の入り口に王女が来ている。
後ろにマリージュ様がいるのを見て、
やっぱり騎士だけでは動かなかったのだなと思う。


「王女様、治癒はできますね?」

「えっ……できないわ。」

「そんなわけないでしょう?聖女なのでしょう?」

「…だって、できないものはできないもの。」

すねるような口調の王女に、イラっとする。
こっちは話しながらも治癒は続けている。
この状況を見ても、何も思わないのだろうか。一国の王女が?信じられない。
今までの態度は我慢できても、これは我慢できなかった。


「いいからやりなさい!治癒なんて、光属性じゃなくても使えるのよ!
 水属性持ってるのでしょう?
 あなたの国の民を守るために負傷した騎士を助けることもしないで、
 聖女だなんて言ってるんじゃない!
 やったことないなら、私がするのを見て覚えればいいでしょう!
 あなたは聖女である前に王女なのよ!」

「…っ!」

おそらく身分が下のものから怒鳴られるなんて初めての経験だろう。
他国の王族とは言え、私は養女だ。従わないこともできるはず。

だけど…王女は何も言い返さずに中に入ってきて、私の治癒をじっと見つめていた。
言いたいことは言った。後は王女が自分でどうするかだろう。
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