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34.日常と緊急時

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騎士団の演習場に行くようになって、
この王宮内での立場が変わってきたように感じる。
直接治癒されて感謝している騎士はもちろん、女官や侍女からも感謝されていた。

考えてみれば、騎士団に所属している騎士の多くは貴族だ。
貴族と言っても、家を継げない次男以降や下級貴族たちだ。
そして、同じように王宮内で働いている女官や侍女もまた次女以降だったり、
下級貴族だったりする。
騎士と女官、侍女が恋人になっていることが多く、
恋人の騎士を治癒して帰している私は、
女官や侍女にとっても恩人のような扱いになっていった。

そんな中、態度が変わらない王女に、皆が冷たい目を向けていた。
王女はマリージュ様から注意を受けても変わらなかったらしい。

私は隣国の王弟の娘で王妃の客として王宮に滞在している。
養女ではあるが、光属性のために実子と変わらない立場だった。
そのため、王女であっても失礼のないように対応しなさいと注意されたそうだ。
なのに…
今日もまた演習場に入った途端に絡まれ、心配した騎士たちが駆けつけてくる。


「また来たの!?
 もういい加減アステカニアに帰りなさいよ!この偽聖女!」

水色の猫目を吊り上げて大声で叫ぶ王女に、この数日ですっかり慣れてしまっていた。
静かな声であくまでも丁寧にお返しする。

「あら?良いのですか?私が帰るということはユリアスも帰りますのよ?」

「っ!それはダメよ!ユリアスは私の騎士なのだから!」

「いいえ?ユリアスはお義父様がつけた、私の護衛騎士ですから。
 私が帰国する時には帰らなければいけませんのよ?
 …それで、私たちに早く帰ってほしいのですか?」

「…っ。うるさい!あんたなんて偽聖女のくせに!」

言いたいことを言うとすぐにどこかに行ってしまう。
私に一度何か言えば、演習場からいなくなってしまうため、
さっさと話し終えたほうが楽だった。
今日はこれでもう来ないだろう。
そう思って騎士に挨拶すると、騎士たちにもこの後は平和ですねと返された。



「マリージュ様、大変です!
 ロージー様、一緒に来ていただけませんか!」

「何があったの!?報告して!」

いつものようにマリージュ様とお茶を楽しんでいると、騎士が一人飛び込んできた。
マリージュ様の私室に騎士が飛び込んでくるなど、通常時にはありえない。
それが許されるとなれば、どれほどの緊急事態なのだろう。


「西の市街地に魔獣が発生しました。
 幸いその近くにいた民は逃がせましたが、
 対応にあたった街警備のものと騎士団のものが多数やられました。
 離宮のほうに運び込んで治療にあたっていますが、かなりの重傷者が出ています。
 申し訳ありませんが、ロージー様のお力を貸していただけないでしょうか!」

「わかりました。マリージュ様、かまいませんね?」

「ええ。力を貸してもらえるなら助かるわ!」

「すぐに案内してください!」

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