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10.いらない慈悲

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視察に来ているフレッド様は、静かに授業を見学していた。
今日は水属性の授業だったので、ユリアスは魔術を使わない。
その代わり助手として、水属性の魔力がこめられている魔石を生徒に配っていた。
慣れないうちは無から水を作り出すのは難しい。
魔石の水属性の力で水を出す感覚を覚え、徐々に出す水の量を増やしていく。
そうして初めて無から水を出す訓練に移行することができる。

早ければ半年もすればできる生徒が出てくると思われる。
魔力が特別に多い生徒がいれば話は別だが、全員が平民出身の生徒で、魔力量にほとんど差は無かった。
そのため同じような進み具合で、講師としては授業がやりやすい生徒ばかりだった。

授業を終え、生徒には濡らしてしまった所を拭いて綺麗にしておくように告げて、教室から出る。
フレッド様たちも教室から出て、この後は応接室にてお茶を出すことになる。
視察に来た理由はわからないが、質問があれば私が答えなくてはいけない。
困る事態になれば学校長を呼び出せるようにと、呼び出し用の魔石は持たされている。
何事なく終わりますようにと心の中で願いながら、応接室でフレッド様と向かい合った。


「本日の授業を担当しましたロージー・ベルファインです。
 この春から講師を務めております。」

「そうか、ずいぶんと若いな。」

どうやらフレッド様は私が同級生だとは気が付いていないようだ。
ユリアスが私に気が付いた時に報告をしていなかったのか。

「授業は水属性の基本訓練でしたが、何かご質問等ございますか?」

「いや、授業はわかりやすかった。
 学園でも基本訓練はやったから、だいたいはわかる。」

だよね…じゃあ、やっぱり何で視察なんて来たんだろう。
そう思っていると、フレッド様は突然ユリアスに話しかけた。

「ユリアスは授業を受けないのか?」

「私はロージー先生の研究室付きの専門科生ですので、授業のお手伝いもします。
 もちろん魔術の訓練もしますが、授業は出ないですね。」

「そうか。行き場が無いからと言って、侍従のまねごとをしているとは…。」

「は?」


研究生付きが侍従の真似事?
フレッド様が魔術師学校について何も知らないことがよくわかる。
まさか侍従と同じ扱いだと思っているとは。

「俺の側近をやめたせいで勘当されたと聞いた。
 迎えに来たんだ。
 もう一度俺の側近になればハンドウイル家だって許してくれるだろう。」

「ユリアス様~一緒に謝ってあげますから、帰りましょう?
 フレッド様も怒ってないですよ?ね?
 またみんなで仲良くしましょうよ。」

真顔で迎えに来たというフレッド様とにっこり笑って一緒に帰ろうというキャロル様。
あまりのことに反応できない。
ユリアスを見ると、表情が凍っている。
ユリアス、ユリアス、怒っていいと思うよ?
心の中で訴えていると、私の視線に気が付いたのか、動きが戻った。
大きく息を吸って、一気に訴え始めた。


「フレッド様、それは誤解です。
 私は自分でここに来ました。
 騎士をやめて魔術師になりたかったからです。
 もうハンドウイル家に縛られるのはごめんです。絶対に帰りません。」

「は?」

「俺は騎士になんてなりたくなかったんです。
 ハンドウイル家に生まれて、仕方なく騎士になって、仕方なくキャロルと婚約した。
 それから解き放たれた俺は、もう自由に生きたいんです。
 平民で構わないので、もうほっといてください。」

「お、お前、俺がせっかく優しく迎えに来てやったというのに!」

「そうよ!私と仕方なく婚約って何よそれ!」

「俺は頼んでません!」

「良いから、一緒に帰るぞ!
 お前の話はあとで聞いてやる。いいから来い!」

あぁ、もうダメだ。ユリアスを無理やり連れて帰ろうとしている。
ポケットの中に入れていた魔石に魔力を流した。これで学校長が来てくれるはず。

「行きません!」

「王命だ!来い!」

フレッド様が王命を出せるわけはない。もし本当に王命ならば、陛下がそう望んでいる?
そしたらユリアスは行かなければいけないのだろうか。
どうしよう。

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