上 下
8 / 62

8.理解される

しおりを挟む
「ううん、違う。王族に振り回されて婚約破棄された仲間。」

「は?」


これはもうきちんと話しておかないと誤解されるだけだと思って、前世持ちだということ、前世であった出来事、だから高位貴族と関わらないように生きてきたことを話した。
話が進むにつれて、ユリアスの顔がどんどん歪んでいく。
最後にこの姿を隠していた理由まですべて話すと、ユリアスは大きなため息をついた。


「悪かった。前世持ちの話は知っている。
 たまに思い出した記憶が辛すぎて、
 それまでとは違う人格になってしまう者がいるというのも。
 ロージーが生き方を変えたというなら、
 それほどまでに前世の記憶が辛かったということだろう。
 無理に話させてしまったようですまない。」

「ううん、いいの。
 ずっと生活していく中でバレてしまうのはわかっていたし、
 話さなきゃいけないとは思ってたの。
 だけど暗い話でしょう?言い出しにくくって。
 話してしまってすっきりしたわ。」

「それならいいけど。」

「本当はここで働くときにはこの姿に戻る予定だったの。
 だけど、あの婚約破棄を見てしまったら怖くなって。
 王族が結婚して落ち着くまではおとなしくしていようと思ったの。
 心配し過ぎだとはわかっているんだけどね。」

「いや、心配し過ぎじゃない。
 姿を偽ってたのは正解だよ。
 その姿で学園にいたら、間違いなく揉め事に巻き込まれていただろう。
 しかも子爵家では誘われても断りにくいだろうしな。」

「そうなのよね。子爵家では何も歯向かえないわ。」

会話の途中だったけど、食事が届いて、ユリアスが受け取りに行ってくれる。
私が受け取ろうとしたら、この姿で人に会うのはまずいと止められてしまった。
受け取った食事をテーブルに並べて席に着く。
今日はスープにサラダに鳥を焼いたものにバゲットがついていた。
いつも美味しいけど、今日のは格別に美味しそうに見える。
食べているとユリアスが思い出したように話し始めた。


「俺、ロージーのことは学園時代から知っていたんだ。」

「え?どうして?目立たないようにしていたでしょう?」

「普段はね。」

「ん?」

「俺が魔術の授業の間、剣技の授業に振り替えられてたの知ってるだろう?
 魔術演習場の奥にある個人演習場を借りて受けていたんだ。
 いつも授業受けた後にシャワー浴びて着替えてから戻るんだけど、
 その時に魔術演習場の横を通るんだ。
 もう遅いから残ってる人なんて普通はいないはずなんだけど、
 ロージーが残って練習しているのを何度か見た。」

「えー見られていたの?恥ずかしい。
 家ではなかなか練習できないから、残って練習していたの。」

「うん、それはいいんだけど、誰も見ていないと思ってただろう?
 そうするとロージーの所作が恐ろしく綺麗なんだ。
 いつもはわざと汚く大雑把に動こうとしてなかったか?」

「うん。子爵家令嬢の所作が公爵家令嬢みたいじゃおかしいでしょう?」

「学園にはマリージュ様以外の公爵家の令嬢はいないはずだし、
 王女でもないし他国からの留学生でもない。調べたら子爵家の令嬢だった。
 どうして子爵家の令嬢が誰も見ていない時だけ優雅に歩くのか。
 ずっと不思議だったのが、これで疑問が解けたよ。
 ここでの食事のマナーも、どんどん綺麗になっていくのも。
 普通は慣れてくると雑になっていくものだけど、ロージーは逆だ。
 今ならわかるよ。気を抜くと綺麗になっちゃうんだろう?」

「そうなの…わかっているからあまり人前では食事しないようにしているの。
 前世の礼儀作法の先生が厳しくて。公爵令嬢な上に王子妃教育もあったでしょう?
 もう骨の髄まで浸み込んじゃっているというか…直せないのよ。」

「…普通は逆なんだろうけど、それはそれで大変だったな。
 俺はもう事情が分かったから楽にしていいぞ。
 気を遣ってたら美味しくないだろう。」

「うん、ありがとう。
 だからかな。今日のご飯がとっても美味しいの!」

そうか。気が楽になったから、食事が美味しいんだ。
ずっと一緒に生活しているのに、気を遣って生活していた。
もうユリアスに隠さなくていいと思うと、重い荷物を降ろせたような気がした。

「もっと早くに聞いていればよかったな。」

「私も早く話しておけば良かった。これからは居住区ではこの姿でいるわ。
 この姿のロージーもよろしくね?」

「ああ、こちらこそ。」

にっこり笑ってくれるユリアスも、
学園時代の表情が変わらない鬼騎士だった時とは全く違う。
こんなに表情豊かな人だったんだなって思う。
ユリアスを縛っていたものがフレッド様なのか家なのかわからないけど、
そこから抜け出せたのなら良かったなと思う。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました

ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」 国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。 なにやら証拠があるようで…? ※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*) ※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。

(完)僕は醜すぎて愛せないでしょう? と俯く夫。まさか、貴男はむしろイケメン最高じゃないの!

青空一夏
恋愛
私は不幸だと自分を思ったことがない。大体が良い方にしか考えられないし、天然とも言われるけれどこれでいいと思っているの。 お父様に婚約者を押しつけられた時も、途中でそれを妹に譲ってまた返された時も、全ては考え方次第だと思うわ。 だって、生きてるだけでもこの世は楽しい!  これはそんなヒロインが楽しく生きていくうちに自然にざまぁな仕返しをしてしまっているコメディ路線のお話です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。転生者の天然無双物語。

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

処理中です...