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22.企んだのは

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「ちょっと!ディアナ様!」

「え?」

誰かに呼びかけられたと思って足を止めた。
振り返ったら、エラルドの従妹ラーラ様だった。

青ざめた様子のラーラ様は、私へと近づいてくる。
何かされる……そう思って身構えたけれど、アルフレード様にかばわれた。

「おい、お前。ディアナに近づくな」

「邪魔しないでください!」

「話があるというなら聞いてやる。その場で話せ」

止めたのがアルフレード様だと気がついたからか、
仕方ないという感じでラーラ様は止まった。

このまま会わないで終わるつもりだったのに、捕まってしまうとは。
きっと婚約解消のことがばれてしまったに違いない。
これ以上何か言われても、もうすでにエラルドとの婚約は解消されている。
だから三人を愛人にする件も無理です、そう言ってはっきり断ろう。

「ラーラ様、何か用かしら?」

「ディアナ様、いったい何を考えているの?」

「何をって」

「ディアナ様がお父様とお母様に何か言ったからなんでしょう?
 まさか、エラルドとこのまま結婚する気なの?嘘でしょう!?」

「は?」

ラーラ様に言われたことが理解できなくて反応が遅れる。
エラルドと私が結婚した後も愛人としてそばにいたいと言っていた、
そのラーラ様が結婚する気なのかと怒っている。

これはいったいどういうことなの?
あきらかに怒っている様子のラーラ様に何を言えばいいのか。

「ちょっと、待て。
 お前、この間までエラルドの愛人になりたいって言ってなかったか?」

「……」

「エラルドがディアナと結婚してもそばにいたいからじゃなかったのか?
 それなのにエラルドとディアナが結婚することに、
 今さら反対しに来たってどういうことだ?」

私の代わりにアルフレード様がラーラ様に問いかける。
やっぱりアルフレード様も疑問に思ったようだ。

もうすでに婚約は解消しているけれど、どうして反対しているのか理由が聞きたい。
あんなにもうれしそうに愛人になるって言ってたのに。
もうすでにそういう行為までしているのに、今さらどうして。

アルフレード様に聞かれたからか、ラーラ様は勢いをなくしたようだ。
悔しそうにうつむいて、声を絞り出すように言った。

「……昨日の夜、お父様とお母様がこそこそ話し合っていて、
 聞き耳立てたら卒業後に私を修道院に送るって言ってて」

修道院……ブリアヌ侯爵が言ってた処罰かな。
学園の卒業後にしてほしいとお願いしたけれど、
ラーラ様のお母様はエラルドのお母様の妹だった。
親戚関係でもあるから、先に話をしたのかもしれない。

それを聞いたから私に文句を言いに来た?
あれ、でもまだ何かおかしい。

「ねぇ、どうして?私が修道院に行かなくちゃいけないの?
 もしかして、エラルドを許してしまったの?
 三人も愛人を持つなんて言ったら、普通は婚約解消するでしょう!?」

「「「え?」」」

「嫌じゃないの?三人とそういうことをしたのよ?
 そりゃ……ジャンナは身ごもってなかったけど……。
 忘れて何もなかったことにして結婚するなんて、そんなことできるの?」

ラーラ様の言っていることがおかしい。
どういうことなのか私とアルフレード様が顔を見合わせていると、
エルネスト様がわかったと言い出した。

「お前だな。お前があの三人をそそのかしたんだろう?」

「エルネスト様。そそのかしたって、どういうことですか?」

「こいつ、エラルドが不貞行為をしたら婚約解消されるとわかっていたんだよ。
 婚約解消させるためにわざと愛人になるとか言い出したんだ」

「え?」

「なのに、自分が修道院に行かされることになったから、
 ディアナは令嬢三人のことをなかったことにして、
 エラルドとそのまま結婚するつもりなんだって思ったんだ」

「……え?婚約解消するってわかっていて、
 その上であんなことをしたんですか?」

エラルドだけじゃなく三人も常識がないんだと思っていた。
だけど、本当はラーラ様はわかっていて、
わからない三人を動かしてあんなことをさせた?

思わず非難めいた顔をしてしまったのか、
ラーラ様は私たちから目をそらした。
まるで拗ねている幼子みたいに言い訳を叫ぶ。

「だって、仕方ないじゃない!
 そうでもしないと、私はエラルドと一緒にいられないもの。
 一人の愛人くらいじゃどうにもならないと思って。
 さすがに三人も愛人がいれば呆れて婚約解消するだろうって……」

「そういうことだったんですか」

本当にラーラ様はその辺までわかって行動していた。
婿養子なのに愛人三人も連れて領地に行けるわけがないと。
確かに愛人が一人だけで子どもを身ごもったくらいなら、
家同士のもめ事を恐れて黙って受け入れたかもしれない。

そのくらいの醜聞ならどこにでもあるのだからと。
ジャンナ様の子をカファロ家の後継ぎにすると言わなければ、
ブリアヌ侯爵だって私が黙っていればすむと思っていたのだから。

「ねぇ、お願いだからエラルドを返してよ。
 ずっと小さいころからエラルドは私のものだったのに、
 家が親戚だから結婚はうまみがなくて無理だってお父様が言ったの。
 気がついたら勝手にディアナ様と婚約してて。
 エラルドと離れたら……どうしていいのかわからない」

「ちょっと待て。こんなことになった理由はわかったけれど、
 修道院の件はディアナに言っても無理だぞ」

「どうしてよ。このまま結婚するなんてエラルドが可愛そうじゃないの?
 領主の仕事もないのに、カファロ領なんて田舎に連れていかれて。
 味方は誰もいないところで一人でいろって言うの?」

「……連れていきません」

「え?」

一人では可愛そうだから側近としてついていくつもりだったのかな。
最初は。だけど、エラルドに側近はいらないと断られた。
それでも離れたくなかったから婚約解消させることを考えたのかもしれない。
それに多分、身体の関係があればその後は責任を取ってもらえるはずだと。

だけど、ラーラ様は間違ってしまった。わかっているつもりでわかっていなかった。
侯爵家同士の婚約を解消させて無傷ですむわけがないのに。
後悔しても、もうすでに終わってしまっているけれど。

「エラルドとはもう婚約解消しました」
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