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98.最後の交流会

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最後の交流会、一学年から三学年までのA教室が全員集められる。
今まであまり話さなかった同学年のA教室の令息たちも、
これが最後だとわかっているからか、かわるがわる挨拶に来てくれた。

そうしている間もそばにはクラーラが付き添い、
アリアンヌ様とダーリア様、アルフォンス王子がいてくれる。
令息たちの挨拶も落ち着いたころ、
一学年のA教室の者に見覚えがある後ろ姿が見えた。

「アリアンヌ様、もしかしてあそこにいるのはセザール元王子?」

「ええ、そうです。
 セザール様はリディアーヌ様に近づいてはいけないと警告されていますから、
 こちらに挨拶に来ることはないでしょうけど」

「そうなの。A教室にあがるほど頑張っているのね」

「はい。オーリク家を継ぐためにも頑張っているそうですわ」

セザール元王子を引き取ったオーリク侯爵家は、元王女がやらかした事件のせいで、
侯爵が国王に爵位の返上を申し出たそうだが、元王女を監視していたのは王宮の者たち。
侯爵だけが悪いわけではなく、国王としても侯爵はいてもらわなくては困る人材。
話し合いの結果、伯爵に降爵することで処罰されることになった。

セザール元王子は伯爵家を継ぐために家庭教師をつけて勉強をやり直し、
今年になって二年遅れて再入学したという。
真面目に勉強したことで成績もあがり、友人もできているらしい。
令息たちと何か真面目に議論しているのが聞こえてくる。

それを遠くからながめていたら、後ろでアルフォンス王子がうれしそうに言う。
 
「セザールも婚約したからね。頑張っているらしいよ」

「婚約?」

「ああ、オーリク家の一人娘と婚約して、二人で家を継ぐことにしたようだ。
 あそこの令嬢は昔からセザールのことが好きだったからね。
 年齢が違いすぎて婚約者候補にならなかったんだが、セザールが待つと言ったらしい」

「年齢が違いすぎて?」

「たしか、十歳だったかな。八歳違うけど……まぁ、待てるだろう。
 リディアーヌ様たちを見ていれば八年差くらい何とでもなると思うし」

「え……そういえば、そうね。
 ギルバードと八年違うけど、あまり気にしていなかったわ」

「リディアーヌ様らしいね」

「お似合いですもの。年齢なんて、どうにでもなりますわ」

ふふふとアリアンヌ様に微笑まれて、少しだけ恥ずかしくなる。
これまで年齢差なんて意識していなかったけれど、
周りからは私がギルバードを待たせているように見えるんだ。
ギルバードはもう二十六歳。
結婚して子どもがいるのが当たり前の年齢になっている。

トマスやカミルがもっと年上なのに結婚していないから、
そういうの考えたことも無かった。



学園での授業も行事も終わり、明日にはラルエットへと帰る。
そんな中、奥棟の地下の演習場で最後の訓練をしていた。

「もうかなり安定してきただろう。中級魔術まで使いこなせている」

「良かった。学園の卒業までに間に合わせたかったの!」

「よく頑張ったな」

大きな手で頭をなでられ、満足感でいっぱいになる。
本当に間に合うとは思わなかった。
基本の光を灯すのにも四か月もかかったから、
中級魔術まで使いこなせるかどうか不安でいっぱいだった。

光属性まで中級程度使いこなせるようになって、やっと魔力も安定してきた。
よっぽどのことが起きない限り、もう倒れたりしないだろう。

「よし、ご褒美に少し出かけよう」

「え?」

「俺に抱き着いて、一応のため目を閉じて」

「え?こう?」

驚いたけれど、言われたままギルバードに抱き着いて目を閉じる。
ギルバードの魔力に包まれたと思った次の瞬間、風を感じた。え?風?

「もう、目を開けていいよ」

「………ここどこ?」

目を開けたら、どこかの塔のような場所にいた。
転移したらしい。目の前には大きな鐘?

「後ろを見てごらん」

「後ろ?」

ギルバードに抱き着いたまま後ろを見たら、そこには王都の街が広がっていた。
腰の高さの柵の内側に立って、高い場所から王都を見下ろしている。

「えええ?」

「ここは王都の真ん中にある警告の鐘の塔だ」

「警告の鐘の塔?」

初めて聞く言葉に繰り返すように聞く。
警告の鐘って、そこにある大きな鐘かな。

「この鐘は帝国とエシェルに攻め込まれた時に知らせるために作られた。
 この鐘を鳴らすと、国中に知らせることができるそうだ」

「戦争があった頃に作られたもの?」

「ああ。かなり前に作られたものだ。
 エシェルの同盟国になったことで、帝国からも攻め込まれることはなくなって、
 この鐘は鳴らせないように固定されることになった。
 塔も役目を終えたけれど、歴史的建造物を壊すのはもったいないと、
 そのままずっと放置されている」

「そうなんだ。もしかして、ここ、普通には入っちゃダメなとこ?」

「ダメだな。塔の入り口は封鎖されている」

「いいの?そんなとこに入っちゃって」

「ちゃんと許可はとってある。
 ほら、リディアーヌはゆっくり王都見学もできなかっただろう。
 ラルエットに帰ってしまえば、王都に来ることもめったにない。
 最後くらい、こうして街をながめるのもいいと思ったんだ」

「街をながめる……すごく綺麗な街ね」

赤い煉瓦造りの家や店が連なるように続いていく。
この塔はどれだけ高いのだろう。二階建ての家が小さく見える。
道が張り巡らされているのが遠くまで見える。
馬車や人があちこちに見えて、そこで生活しているのがわかる。

「そういえば、どうしてルモワーニュ国の学園に入学したんだ?
 リディアーヌならエシェルの学園に行くのが普通じゃないのか?」



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