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94.ルカーシュの変化
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「わぁ!できた!」
「ええ、できましたね。
コツさえつかめば後は訓練を重ねるだけです」
「ありがとう!カミル!」
風の魔術がうまく発動できなかったルカーシュに、
カミルが何度もやって見せて、魔力の流れを確認させていた。
何度も失敗していたが、ようやく発動したことでルカーシュが飛び上がって喜ぶ。
「いいえ、そんなにたいしたことは教えていませんよ。
ギルバード様に比べたら飲み込みが早くて教えるのは楽でしたし」
「え?兄様と比べて?」
「ええ、そうです。
ギルバード様も風と水を発動するのに手こずっていましたからね。
やっぱり兄弟だなぁって思いましたよ」
「へぇ……そうなんだ」
苦手なものが一緒だと言われてもうれしいのか、
ルカーシュが恥ずかしそうに笑う。
「カミル、あまり変なことを言うなよ」
「変なことですか?ギルバード様の訓練はかなり大変でしたからね。
つきあわされた側の愚痴くらい許してくれてもいいのではないですか?」
「……それは悪かったよ」
「いいえ、ではルカーシュ様。次の訓練をしましょうか?」
「うん!」
マリエルが亡くなってから学園に入るまでの二年間、
ギルバードはそれまで一度も訓練していなかった魔術を使おうと、
何度も魔力暴走を起こしたと聞いている。
その頃のことはあまり詳しく教えてもらえなかったけれど、
一番被害があったのはカミルで間違いないだろう。
そのことを思い出したのか、ギルバードはカミルから目をそらしている。
「ここにいられるのもあと一日ね」
「あぁ、明日の昼前には出発しないといけないな」
「短い間だったけど、ルカーシュの魔術はあっという間に上達したわね」
「ああ、そうだな。水と風の魔術も使えるようになった。
この分なら学園に入るまでに使いこなせるようになるだろう」
「学園……僕が入学する時に兄様は学園にいますか?」
言われてみてハッと気づく。
ルカーシュが学園に入るのは四年後。私は二年後には卒業してしまっている。
そうなれば当然ギルバードは一緒にラルエットに帰ることになる。
「残念だが、いないと思う。
そもそも俺は教師として教える予定ではなかったんだが、
リディアーヌに教えられる教師が他にいなかったから担当になったんだ。
陛下に頼まれた学園の改革はもう少しで終わるし、
リディアーヌが卒業したら俺の役目も終わるはずだ」
「そうですか……学園に行っても兄様には会えないのですね」
しょんぼりしたルカーシュに、
ギルバードは頭の上にぽんと手をのせてなぐさめる。
「俺が教えなくても、ルカーシュは大丈夫だ。
というより、ルカーシュはエシェルの学園に行くことになるだろう」
「エシェルの学園ですか?兄様と同じ?」
「ああ、そうだ。
俺がいなくなったらルモワーニュ国の学園では全属性を教えられる教師がいなくなる。
エシェルの学園に通うことを勧められるだろう。
そんな不安そうな顔するな?
あっちの学園は優秀なものばかりで良い刺激になる。
ルカーシュなら向こうでもやっていけるはずだ」
ぽんぽん頭を軽くたたかれ、ギルバードに大丈夫だと微笑まれたことで、
ルカーシュはようやく安心した顔になる。
「わかりました。兄様とカミルが通った学園ですし、
僕も一人前の魔術師になれるように頑張ります」
「ん?剣士じゃなくていいのか?」
「剣士としても修行はしますよ。
両方できたほうが領主としては助かるじゃないですか」
「ははっ。そうだな。ルカーシュならできるだろう。頑張れよ」
「はいっ!」
にっこり笑ったルカーシュに、初めて会った時のようなぎこちなさはない。
短い滞在期間でも、すっかり打ち解けてくれて良かった。
だけど、お母様とはあれから会っていない。
むこうが私たちを避けているのか、
ラフォレの使用人たちが気をつかって会わないようにしているのかわからない。
気にはなるけれど、リディアーヌには何もできない。
マリエルとしても……今さら何ができるんだろうと思う。
私はここにいるけれど、マリエルとして生きることはできない。
伝えてしまって、それがいい方向にむかうとは限らないのだから。
もやもやしている気持ちを抑え、ルカーシュと笑いあうギルバードを見る。
こんな風に兄弟で笑い合えるようになったし、
これだけでもラフォレに来たかいがあるのかもしれない。
夕方になって部屋に戻って、ソファに一人座って考える。
明日には帰ってしまう。
そして、もうお母様に会うことはできないかもしれない。
会いに行きたい気持ちはあるけれど、会ってもどうしたらいいかわからない。
悩んでいたら、ドアがノックされる。マールだろうか。
「俺だ、リディアーヌ。入っていいか?」
「ギルバード?いいわよ?」
夕食のために迎えに来たにしては早すぎる。
ギルバードも部屋で休んでいると思っていたのに。
部屋の中に入ってきたギルバードは私の隣に座る。
「悩んでいるんじゃないかと思って」
「ギルバード……」
「マリエルとして会わなくていいか悩んでいるんじゃないか?」
「うん……でも、会ったからと言って、お母様が喜ぶとは思えなくて。
かえってつらいことを思い出させてしまうんじゃないかって」
マリエルに似ているからルカーシュまで見えなくなってしまったお母様に、
私がマリエルだって伝えてしまったら、どんな反応をするかわからない。
心の病気で、あんなにも痩せてしまったお母様。
それがきっかけで倒れてしまうこともありえる。
「……でも、俺は話したほうがいいと思う。
マリエルだった時に言えなかったことを伝えるなら、
これが最後の機会だと思うから」
「最後の機会……」
「学園を卒業してしまえばもっとラフォレに来るのは難しくなる。
義母上がラルエットに来るのはもっと難しいだろうし」
向き合うとしたら、これが最後の機会。
これを逃したら、もう二度と話せなくなるかもしれない。
「ギルバード……一緒に考えてくれる?
どうしたらお母様と話せるか」
「ああ、俺にできることなら協力しよう」
「ええ、できましたね。
コツさえつかめば後は訓練を重ねるだけです」
「ありがとう!カミル!」
風の魔術がうまく発動できなかったルカーシュに、
カミルが何度もやって見せて、魔力の流れを確認させていた。
何度も失敗していたが、ようやく発動したことでルカーシュが飛び上がって喜ぶ。
「いいえ、そんなにたいしたことは教えていませんよ。
ギルバード様に比べたら飲み込みが早くて教えるのは楽でしたし」
「え?兄様と比べて?」
「ええ、そうです。
ギルバード様も風と水を発動するのに手こずっていましたからね。
やっぱり兄弟だなぁって思いましたよ」
「へぇ……そうなんだ」
苦手なものが一緒だと言われてもうれしいのか、
ルカーシュが恥ずかしそうに笑う。
「カミル、あまり変なことを言うなよ」
「変なことですか?ギルバード様の訓練はかなり大変でしたからね。
つきあわされた側の愚痴くらい許してくれてもいいのではないですか?」
「……それは悪かったよ」
「いいえ、ではルカーシュ様。次の訓練をしましょうか?」
「うん!」
マリエルが亡くなってから学園に入るまでの二年間、
ギルバードはそれまで一度も訓練していなかった魔術を使おうと、
何度も魔力暴走を起こしたと聞いている。
その頃のことはあまり詳しく教えてもらえなかったけれど、
一番被害があったのはカミルで間違いないだろう。
そのことを思い出したのか、ギルバードはカミルから目をそらしている。
「ここにいられるのもあと一日ね」
「あぁ、明日の昼前には出発しないといけないな」
「短い間だったけど、ルカーシュの魔術はあっという間に上達したわね」
「ああ、そうだな。水と風の魔術も使えるようになった。
この分なら学園に入るまでに使いこなせるようになるだろう」
「学園……僕が入学する時に兄様は学園にいますか?」
言われてみてハッと気づく。
ルカーシュが学園に入るのは四年後。私は二年後には卒業してしまっている。
そうなれば当然ギルバードは一緒にラルエットに帰ることになる。
「残念だが、いないと思う。
そもそも俺は教師として教える予定ではなかったんだが、
リディアーヌに教えられる教師が他にいなかったから担当になったんだ。
陛下に頼まれた学園の改革はもう少しで終わるし、
リディアーヌが卒業したら俺の役目も終わるはずだ」
「そうですか……学園に行っても兄様には会えないのですね」
しょんぼりしたルカーシュに、
ギルバードは頭の上にぽんと手をのせてなぐさめる。
「俺が教えなくても、ルカーシュは大丈夫だ。
というより、ルカーシュはエシェルの学園に行くことになるだろう」
「エシェルの学園ですか?兄様と同じ?」
「ああ、そうだ。
俺がいなくなったらルモワーニュ国の学園では全属性を教えられる教師がいなくなる。
エシェルの学園に通うことを勧められるだろう。
そんな不安そうな顔するな?
あっちの学園は優秀なものばかりで良い刺激になる。
ルカーシュなら向こうでもやっていけるはずだ」
ぽんぽん頭を軽くたたかれ、ギルバードに大丈夫だと微笑まれたことで、
ルカーシュはようやく安心した顔になる。
「わかりました。兄様とカミルが通った学園ですし、
僕も一人前の魔術師になれるように頑張ります」
「ん?剣士じゃなくていいのか?」
「剣士としても修行はしますよ。
両方できたほうが領主としては助かるじゃないですか」
「ははっ。そうだな。ルカーシュならできるだろう。頑張れよ」
「はいっ!」
にっこり笑ったルカーシュに、初めて会った時のようなぎこちなさはない。
短い滞在期間でも、すっかり打ち解けてくれて良かった。
だけど、お母様とはあれから会っていない。
むこうが私たちを避けているのか、
ラフォレの使用人たちが気をつかって会わないようにしているのかわからない。
気にはなるけれど、リディアーヌには何もできない。
マリエルとしても……今さら何ができるんだろうと思う。
私はここにいるけれど、マリエルとして生きることはできない。
伝えてしまって、それがいい方向にむかうとは限らないのだから。
もやもやしている気持ちを抑え、ルカーシュと笑いあうギルバードを見る。
こんな風に兄弟で笑い合えるようになったし、
これだけでもラフォレに来たかいがあるのかもしれない。
夕方になって部屋に戻って、ソファに一人座って考える。
明日には帰ってしまう。
そして、もうお母様に会うことはできないかもしれない。
会いに行きたい気持ちはあるけれど、会ってもどうしたらいいかわからない。
悩んでいたら、ドアがノックされる。マールだろうか。
「俺だ、リディアーヌ。入っていいか?」
「ギルバード?いいわよ?」
夕食のために迎えに来たにしては早すぎる。
ギルバードも部屋で休んでいると思っていたのに。
部屋の中に入ってきたギルバードは私の隣に座る。
「悩んでいるんじゃないかと思って」
「ギルバード……」
「マリエルとして会わなくていいか悩んでいるんじゃないか?」
「うん……でも、会ったからと言って、お母様が喜ぶとは思えなくて。
かえってつらいことを思い出させてしまうんじゃないかって」
マリエルに似ているからルカーシュまで見えなくなってしまったお母様に、
私がマリエルだって伝えてしまったら、どんな反応をするかわからない。
心の病気で、あんなにも痩せてしまったお母様。
それがきっかけで倒れてしまうこともありえる。
「……でも、俺は話したほうがいいと思う。
マリエルだった時に言えなかったことを伝えるなら、
これが最後の機会だと思うから」
「最後の機会……」
「学園を卒業してしまえばもっとラフォレに来るのは難しくなる。
義母上がラルエットに来るのはもっと難しいだろうし」
向き合うとしたら、これが最後の機会。
これを逃したら、もう二度と話せなくなるかもしれない。
「ギルバード……一緒に考えてくれる?
どうしたらお母様と話せるか」
「ああ、俺にできることなら協力しよう」
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