78 / 101
78.新学年が始まる
しおりを挟む
長期休暇も終わり、奥棟へと戻って来た。
学園は明日からは新しい学年になる。
夕食を終えてお茶を飲んでいると、トマスが新しい教室の通知を持って来た。
学年末の試験の結果で新しい教室が決まることになっている。
大丈夫だと思っていながらも少し不安で、通知を開けて見てほっとする。
「二学年もA教室だったわ。良かった」
「それはそうでしょうね。
一学年の成績、リディアーヌ様が首席でしたよ」
「え?そうなの?」
そういえば、二学年になる時に一学年の総合成績も発表される。
首席だからと表彰されるわけではないが、
王宮文官などを目指すものにとっては重要なことだ。
ジスラン・バルデのように三学年とも首席なのはめずらしいが、
それは二学年から優秀なものはエシェルに行ってしまっていたからだ。
ルモワーニュ国の学園が改革されれば、
今までのように留学するものは少なくなるかもしれない。
「二学年の学生名簿もありますが、見ますか」
「ええ、見るわ」
トマスから名簿を受け取って確認すると、A教室の人数が増えていた。
一学年でA教室だった者はそのまま。ダーリア様がB教室から上がっている。
エシェル語が苦手だったようだけど、頑張って勉強したのかな。
アリアンヌ様は喜んでいるだろうな。
その他は知らない令息の名前が三人ほど。
あぁ、アルフォンス王子が戻って来たのか。
「アルフォンス王子がこちらに戻って来たのね」
「ええ、一緒に留学していた三名と一緒に戻って来たようです」
「三名と?A教室にはアルフォンス王子の他は令息二名しかいないけど」
エシェルに留学していたというのなら優秀なはず。
編入試験を受けたとしてもA教室になると思うのに、一人足りない?
「もう一人は令嬢です。B教室になっていますね。エレーナ・コッコ。
中央貴族の伯爵家出身だったアルフォンス王子の乳母の娘です。
それほど優秀ではないようで、B教室もギリギリの成績でした。
エシェル語が話せなかったらC教室になっていたでしょう」
「アルフォンス王子の乳兄弟なの。
どうして優秀なわけでもないのに一緒に留学したの?」
「側妃の生家、コタユータ侯爵家の二男も一緒に留学しています。
こちらのクレマンはアルフォンス王子の従兄弟で側近候補です。
エレーナは侯爵家の預かりとなっているので、一緒に留学させたのでしょう」
ん?アルフォンス王子の乳母の娘がなぜ、側妃の生家に預けられているんだろう。
アルフォンス王子は公爵位を授かって臣下になる予定だったから、
婚約者候補として育てられたにしてもおかしい。
「実は…公表されていませんが、側妃は毒殺されかかって寝たきりになっています。
一緒にお茶を飲んでいた乳母が先に異常に気がついて、
側妃に飲んではいけないと止めたそうです。
そのおかげで側妃は助かったのですが、乳母はそのまま……。
恩を感じた侯爵家が娘を預かることにしたようです」
「そういうことなの。
アルフォンス王子の婚約者候補だったのかと思ったわ。
それでも生家で預かるのはおかしなことだけど」
「エレーナ自身はそう思っていたようですよ。
中央貴族の間では有名だったそうです。
お茶会の度に私がアルフォンス王子を守ると豪語していたそうですから」
「守る?令嬢が?女性騎士を目指しているわけじゃないんでしょ?」
婚約者候補だと思っているのに、王子を守る?
どういう意味なのかわからなくて困っていると、カミルが説明してくれた。
「アルフォンス王子は気が弱いという噂でした。
側妃の子として虐げられていたようです。
だから婚約者になって守るという意味だったのだと思います。
と言っても、王子が虐げられても黙っていたのは、
王位争いに巻き込まれないように静かにしていただけだと思います」
「カミルはアルフォンス王子に会ったことがあるの?」
「ええ、王宮にいた時に何度か。見かけただけで話したことはありませんけど。
アルフォンス王子は騎士団で訓練をすることもありましたから。
けっこうキツい訓練にも耐えていましたよ」
「令嬢に守られるような人ではない?」
「無いと思います。むしろ、強い人だと思いますよ。
あれだけ虐げられていても平気な顔していましたから」
「そうなんだ」
アリアンヌ様はアルフォンス王子のことを優秀だと言っていた。
何を言われても平気な顔をしていた強い人か…。
セザール王子が王太子になるのを邪魔する気はなかったのだろうけど、
自分が王太子に選ばれたことをどう思っているんだろう。
今まで自分を側妃の子だと見下していた者たちが、
王太子になったとたんに褒めたたえ近づいてくるようになる。
がらりと変わってしまった環境に戸惑っているかもしれない。
それに……エレーナ・コッコが気になる。
アルフォンス王子が王太子になると同時にアリアンヌ様との婚約が発表されている。
自分が婚約して王子を守ると言っていた令嬢が、素直にそれを認められるのだろうか。
アリアンヌ様に敵対しなければいいけれど。
「なんだか…二学年も静かに生活するのは難しそうね」
「俺としては静かであってほしいよ。担当教師としては」
「あ、またギルバードが担当なのね」
「王族二人に王太子の婚約者がいる教室だ。
他に担当できる者がいなかったんだ。恐れ多いとか言って」
「……その気持ちもわかるけど。ギルバードなら問題ないし」
「まぁ、信用できるかわからない者をリディアーヌに近づけるわけにいかないしな。
仕方ない、卒業まで頑張るよ」
私のためなのかと思うような言い方に、少しにやけてしまう。
めんどくさがり屋のギルバードが私のために何かしてくれることがうれしい。
だけど新しい教室がどんな感じになるのか想像すると気が重くて、
思わずため息が出そうになる。
これ以上考えても仕方ない。気分を変えようとマールに新しいお茶をお願いした。
「マール、蜂蜜をたっぷり入れてくれる?」
「わかりました。たっぷりですね!」
学園は明日からは新しい学年になる。
夕食を終えてお茶を飲んでいると、トマスが新しい教室の通知を持って来た。
学年末の試験の結果で新しい教室が決まることになっている。
大丈夫だと思っていながらも少し不安で、通知を開けて見てほっとする。
「二学年もA教室だったわ。良かった」
「それはそうでしょうね。
一学年の成績、リディアーヌ様が首席でしたよ」
「え?そうなの?」
そういえば、二学年になる時に一学年の総合成績も発表される。
首席だからと表彰されるわけではないが、
王宮文官などを目指すものにとっては重要なことだ。
ジスラン・バルデのように三学年とも首席なのはめずらしいが、
それは二学年から優秀なものはエシェルに行ってしまっていたからだ。
ルモワーニュ国の学園が改革されれば、
今までのように留学するものは少なくなるかもしれない。
「二学年の学生名簿もありますが、見ますか」
「ええ、見るわ」
トマスから名簿を受け取って確認すると、A教室の人数が増えていた。
一学年でA教室だった者はそのまま。ダーリア様がB教室から上がっている。
エシェル語が苦手だったようだけど、頑張って勉強したのかな。
アリアンヌ様は喜んでいるだろうな。
その他は知らない令息の名前が三人ほど。
あぁ、アルフォンス王子が戻って来たのか。
「アルフォンス王子がこちらに戻って来たのね」
「ええ、一緒に留学していた三名と一緒に戻って来たようです」
「三名と?A教室にはアルフォンス王子の他は令息二名しかいないけど」
エシェルに留学していたというのなら優秀なはず。
編入試験を受けたとしてもA教室になると思うのに、一人足りない?
「もう一人は令嬢です。B教室になっていますね。エレーナ・コッコ。
中央貴族の伯爵家出身だったアルフォンス王子の乳母の娘です。
それほど優秀ではないようで、B教室もギリギリの成績でした。
エシェル語が話せなかったらC教室になっていたでしょう」
「アルフォンス王子の乳兄弟なの。
どうして優秀なわけでもないのに一緒に留学したの?」
「側妃の生家、コタユータ侯爵家の二男も一緒に留学しています。
こちらのクレマンはアルフォンス王子の従兄弟で側近候補です。
エレーナは侯爵家の預かりとなっているので、一緒に留学させたのでしょう」
ん?アルフォンス王子の乳母の娘がなぜ、側妃の生家に預けられているんだろう。
アルフォンス王子は公爵位を授かって臣下になる予定だったから、
婚約者候補として育てられたにしてもおかしい。
「実は…公表されていませんが、側妃は毒殺されかかって寝たきりになっています。
一緒にお茶を飲んでいた乳母が先に異常に気がついて、
側妃に飲んではいけないと止めたそうです。
そのおかげで側妃は助かったのですが、乳母はそのまま……。
恩を感じた侯爵家が娘を預かることにしたようです」
「そういうことなの。
アルフォンス王子の婚約者候補だったのかと思ったわ。
それでも生家で預かるのはおかしなことだけど」
「エレーナ自身はそう思っていたようですよ。
中央貴族の間では有名だったそうです。
お茶会の度に私がアルフォンス王子を守ると豪語していたそうですから」
「守る?令嬢が?女性騎士を目指しているわけじゃないんでしょ?」
婚約者候補だと思っているのに、王子を守る?
どういう意味なのかわからなくて困っていると、カミルが説明してくれた。
「アルフォンス王子は気が弱いという噂でした。
側妃の子として虐げられていたようです。
だから婚約者になって守るという意味だったのだと思います。
と言っても、王子が虐げられても黙っていたのは、
王位争いに巻き込まれないように静かにしていただけだと思います」
「カミルはアルフォンス王子に会ったことがあるの?」
「ええ、王宮にいた時に何度か。見かけただけで話したことはありませんけど。
アルフォンス王子は騎士団で訓練をすることもありましたから。
けっこうキツい訓練にも耐えていましたよ」
「令嬢に守られるような人ではない?」
「無いと思います。むしろ、強い人だと思いますよ。
あれだけ虐げられていても平気な顔していましたから」
「そうなんだ」
アリアンヌ様はアルフォンス王子のことを優秀だと言っていた。
何を言われても平気な顔をしていた強い人か…。
セザール王子が王太子になるのを邪魔する気はなかったのだろうけど、
自分が王太子に選ばれたことをどう思っているんだろう。
今まで自分を側妃の子だと見下していた者たちが、
王太子になったとたんに褒めたたえ近づいてくるようになる。
がらりと変わってしまった環境に戸惑っているかもしれない。
それに……エレーナ・コッコが気になる。
アルフォンス王子が王太子になると同時にアリアンヌ様との婚約が発表されている。
自分が婚約して王子を守ると言っていた令嬢が、素直にそれを認められるのだろうか。
アリアンヌ様に敵対しなければいいけれど。
「なんだか…二学年も静かに生活するのは難しそうね」
「俺としては静かであってほしいよ。担当教師としては」
「あ、またギルバードが担当なのね」
「王族二人に王太子の婚約者がいる教室だ。
他に担当できる者がいなかったんだ。恐れ多いとか言って」
「……その気持ちもわかるけど。ギルバードなら問題ないし」
「まぁ、信用できるかわからない者をリディアーヌに近づけるわけにいかないしな。
仕方ない、卒業まで頑張るよ」
私のためなのかと思うような言い方に、少しにやけてしまう。
めんどくさがり屋のギルバードが私のために何かしてくれることがうれしい。
だけど新しい教室がどんな感じになるのか想像すると気が重くて、
思わずため息が出そうになる。
これ以上考えても仕方ない。気分を変えようとマールに新しいお茶をお願いした。
「マール、蜂蜜をたっぷり入れてくれる?」
「わかりました。たっぷりですね!」
195
お気に入りに追加
2,809
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる