上 下
77 / 101

77.話し合い

しおりを挟む
「どうした?何があった?」

「な、なんでもないの」

「なんでもないわけないだろう。そんな顔して」

慌てて涙をふいてごまかそうとしたけれど、
ギルバードは見なかったことにしてくれそうになかった。
私の両手をぎゅっと握り、見つめてくるから嘘もつけない。
だけど、やはり私を抱きしめようとはしないギルバードに、
悲しくなってまた涙が出そうになる。

「やっぱり……嫌いになっちゃったんだ」

「ん?」

「なんでもない」

「いや、今嫌いになっちゃったって、言わなかったか?
 え?もしかして俺のこと?
 俺がリディアーヌを嫌うわけないだろう?」

「だって、私にふれても抱きしめたり……口づけも…しなくなったから」

言っていて恥ずかしくなってきた。
ギルバードから口づけされて、あんなに逃げたくなっていたのに。
こんなこと言ったら、まるでしてほしいって言っているようなもの。

「……あぁ、そういうことか。
 ごめん、ちゃんと言えばよかった。
 とりあえず、リディアーヌのことを嫌っているわけじゃないよ」

「何か理由があるってこと?」

「あぁ、……笑わずに聞いてくれるか?」

「うん、笑わない」

言いにくい理由でもあるのかもしれない。
少しだけ見つめ合った後、ギルバードはそっと目をそらした。

「…俺、リディアーヌにめちゃくちゃ惚れられているんだって思っていて」

「え?」

「光属性の訓練、初日で発動しただろう。
 あれは、深い信頼関係がないと発動しない。
 だけどリディアーヌとは知り合って一週間しかたっていなかった。
 そんな状況で信頼されるとなれば……惚れられているんだと思っていて」

「……あぁ、そう言われてみれば」

光と闇属性の訓練は導いてくれる者との信頼関係が必要だって言ってた。
だから、アデリナ様とカルロスのように親子だと訓練がうまくいきやすい。
私としては一緒に育ったギルバードへの信頼があったからだけど、
そのことを知らなかったギルバードからしてみたら、そう思っても仕方ない。

「だから、多少無理やりでも婚約していいと思ったし、
 抱きしめたり口づけするのも問題ないと思っていたんだ。
 ……でも、そういう意味の信頼関係じゃなかった」

「それは……そうかも」

「リディアーヌが俺のことを好きじゃないとは思わない。
 それでも、そこまで惚れているかというと、そうでもないと思う。
 なのに、俺が誤解していろいろとやりすぎたことを反省したんだ」

反省…たしかに少し強引ではあったと思う。
初めての恋愛なのに急に口づけされて、どうしていいかわからなかった。
それが誤解したうえでの行動だとしたら、やめてくれて良かったのかもしれない?
誤解されたままだったら、あれ以上のことをしてきたかもしれないわけで……。

まだ、そんな覚悟はできていない。
私は恋愛に慣れていないどころか、
トマス以外の男性と話したことすら少ないのだから。

「ごめんな。焦ってただろう。もう無理やり口づけしたりしない。
 リディアーヌとちゃんとやり直したい。
 恋人として俺のことを信頼できるまで待つよ。
 学園を卒業して仮の婚約じゃなくなるまで、時間はたくさんあるから」

「ギルバード…うん、わかった。
 私のことを考えてくれていたのに、変なこと言ってごめんなさい」

嫌われたのかもなんて勝手に心配して泣いていた。
ちゃんと聞けば良かった。何かあるのって。
そうしたらギルバードはきちんと説明してくれたはずなのに。

「ん、謝らなくていい。俺も勝手なことしないで相談すればよかった。
 ……でも、そんなに不安がらせるくらいなら、抱きしめてもいいか?」

その優しい声に、恥ずかしかったけれど素直にうなずいた。
そっと腕が伸びてきて、ギルバードの胸に引き寄せられる。
あたたかくて、うれしくて、力を抜いて身を任せた。

「めずらしくリディアーヌが素直だ。……かわいい」

「……だって」

「いや、これでいい。うれしいから、このままでいて」

「うん…」

今日の訓練はできそうにない。
だけど、ここ一週間ほどのもやもやはすっかり消えていた。

やっぱり私はギルバードが好きなんだ。
家族としてじゃなく、恋人として。
仮の婚約じゃなくなるまで、それまで大事にこの気持ちを育てていこう。





「……やれやれ。なんとか落ち着きましたね」

「本当に。ギルバード様も話さないで行動しがちですからね。
 これで反省してくれるといいんですが」

訓練室の隣の部屋ではトマスとカミルが聞き耳を立てていた。
隣の小部屋は護衛が待機できるようになっていて、
訓練室の様子がわかるようになっている。

ここ数日、ぎこちない二人を心配し、トマスとカミルはこっそり見守っていた。
無事に問題は解決したため、ほっと一安心していた。

「トマス先生は本当にリディアーヌ様の親代わりなんですね」

「そうですよ。ギルバードは私がライバルだと思っていたようですけどね。
 私はリディアーヌ様を育てている側なんです。
 もしリディアーヌ様に子が産まれたとしても、リディアーヌ様の専属でしょう」

「リディアーヌ様のお子は育てないんですか?」

「年の離れた弟がエシェルで修行中なんです。
 その頃には戻って来ているでしょう。
 私自身は結婚する気もなく、最後までリディアーヌ様に仕える気でいますから。
 私のことよりもカミルは結婚しないんですか?」

「私もお二人を見守るのが使命だと思っていますから。
 もし結婚するとしても、お二人が結婚した後でしょうね」

「そうですか……マールはどうするでしょうね」

「え?何か言いました?」

「いいえ、なんでもありませんよ。
 そろそろ、戻りましょうか」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵
恋愛
 一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。  それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。  リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。  そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。  でも、次に目を覚ました時。  どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。    二度目の人生。  今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。  一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。  そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか? ※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。  7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...