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64.誤解
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夜会の次の日、学園はしばらく休みになると連絡がきた。
休みの間、午前中はトマスに勉強を教えてもらい、
午後からは光属性の訓練をすることになる。
訓練の時間になって地下の演習室に向かおうとすると、
アデリナ様がついてこようとしたが、ギルバードが冷たい目を隠さずに断っていた。
どうやら本当に仲が悪いらしい。私が思っていた関係ではないようだ。
地下の演習場に入ると、ギルバードが小さくため息をついた。
疲れているのかと思ったら、きゅっと抱きしめられる。
「やっと二人きりになれた」
「え?」
「いや、なんだかんだと邪魔されるから……。
昨日、アデリナがおかしなことを言ったから誤解したままだろう」
「あ……気にしてないわよ?」
嘘、だけど。でも、気にしても仕方ないことだと思う。
ギルバードが酒と女に逃げていたというのは、それだけつらい思いをしていたから。
そのつらい思いっていうのはマリエルのせいだと知っている。
私が責めるのはおかしい。
だから、何も聞かなかったことにしようと思っていた。
ギルバードは私のそんな態度が気に入らなかったのか、眉間にしわをよせていた。
あれ?怒らせた?と思っていたら、抱き上げられてソファに連れて行かれる。
後ろから抱きかかえられるように膝の上に座らせられたら、
ギルバードに話を聞いてほしいとお願いされた。
「話?」
「ああ。このまま誤解されるのは嫌だ。
確かに酒と女に逃げようとはしたんだ。
つらくて…忘れられるのなら何でもいいと思って」
「……ギルバード」
「だけど、酒を飲んだらよけいに悲しくなったし、
女は娼館に行くことも考えたけど、酒場で女にからまれて…無理だと思った。
知らない女二人に左右に寄り掛かられて、太ももと尻を撫でられた。
それだけで気持ち悪くて……すぐに逃げ出して吐いた。
酒にも女にも逃げられず、ただ暴れたくて……。
アデリナに向かって行ったら殺されかけた」
「は?」
途中までは誤解だったというのもわかって、静かに聞いていたのに、
アデリナ様に殺されかけたと言われて聞き返してしまった。
「アデリナの訓練は……まともだったのは最初だけだ。
後はもう攻撃魔術をひたすら撃ち込まれて…逃げるのが精一杯。
なのに、イライラして立ち向かっていったら殺されかけて。
もうこれは死ぬなと思った時に闇属性が発動した」
「あぁ、だから最後まで信頼関係ができなかったって」
「できるわけないだろう…ひどい目にあわされた記憶しかないのに」
死ぬ寸前まで攻撃されていたら、そうなるかもしれない。
見た目が優しそうな女性だから、もっと丁寧に教えられていたのかと思ったが、
そういえばアデリナ様も王宮魔術師だったのを思い出した。
エシェルの王宮魔術師は一人いれば国を亡ぼせると言われるくらいだった。
アデリナ様もカルロスもそれだけ強力な力を持った魔術師だってことだ。
見た目で判断してはいけないということを忘れていた。
「そうだったんだ。ごめんね、本当に誤解していた」
「わかってくれたならいい」
「アデリナ様がギルバードの昔の恋人なんじゃないかって思ってて」
「はぁ?」
「だって……女性に慣れている感じだったから」
私の発言が嫌だったのか、勘弁してくれといって私の肩にギルバードの頭が乗っかる。
まっすぐなギルバードの髪が私の首筋にささって、少しくすぐったい。
「……俺の初めての恋人だって」
「え?」
「リディアーヌが初めての恋人だよ」
「……そうなの?」
「初恋だって言わなかったか?」
「言ってた…けど、恋人はまた違うのかと思って」
男の人って、好きじゃなくてもつきあえるものなんだと思ってた。
だってマリエルのお父様はお母様のことを好きじゃなかった。
それでも結婚して子どもを作れるくらいなんだから、
好きと恋人になるのは同じじゃないと思ってた。
「俺は好きじゃなきゃ恋人にできない。
好きでもない女にふれたいとは思わない。
こうしてそばにいたいとも、口づけしたいとも思わないんだよ?」
「そう、なんだ?」
今までギルバードは大人だから、
いろいろと経験してきたんだろうって思ってたのは違ったんだ。
ほっとしていたら、頭のてっぺんに口づけられる。
それが耳や首筋に下りてくるから、恥ずかしくて逃げ出したくなる。
「あぁ、ごめん。やりすぎた。
リディアーヌが可愛いこと言うから、つい」
「可愛いこと!?」
「妬いてくれたんじゃないかと思って。違う?」
そう言われたら、違うとは言えなかった。
私の知らないギルバードを知っているアデリナ様や、
いもしない昔の恋人たちに嫉妬していた。
だから、そんな心配はいらなかったとわかって、ほっとしていた。
自分が嫉妬していたと自覚したら恥ずかしくて、どこかに隠れたくて。
でも、後ろから抱きしめられている状態では逃げられない。
「ぎ、ギルバード、離して……」
「だめ。離したくない」
「ええ?」
「やっと誤解がとけたんだから。もう少しこのままでいたい。
恥ずかしいなら、顔は見ないようにするから」
「……」
この日の訓練はできず、ギルバードはトマスとアデリナ様から注意されていた。
さすがにギルバードもやりすぎたと思ったのか、
次の日からはちゃんと訓練をしてくれるようになった。
学園が再開したのはそれから一か月後。
その間に、光属性は急激に伸びるようになり、初級魔術を使えるようになっていた。
休みの間、午前中はトマスに勉強を教えてもらい、
午後からは光属性の訓練をすることになる。
訓練の時間になって地下の演習室に向かおうとすると、
アデリナ様がついてこようとしたが、ギルバードが冷たい目を隠さずに断っていた。
どうやら本当に仲が悪いらしい。私が思っていた関係ではないようだ。
地下の演習場に入ると、ギルバードが小さくため息をついた。
疲れているのかと思ったら、きゅっと抱きしめられる。
「やっと二人きりになれた」
「え?」
「いや、なんだかんだと邪魔されるから……。
昨日、アデリナがおかしなことを言ったから誤解したままだろう」
「あ……気にしてないわよ?」
嘘、だけど。でも、気にしても仕方ないことだと思う。
ギルバードが酒と女に逃げていたというのは、それだけつらい思いをしていたから。
そのつらい思いっていうのはマリエルのせいだと知っている。
私が責めるのはおかしい。
だから、何も聞かなかったことにしようと思っていた。
ギルバードは私のそんな態度が気に入らなかったのか、眉間にしわをよせていた。
あれ?怒らせた?と思っていたら、抱き上げられてソファに連れて行かれる。
後ろから抱きかかえられるように膝の上に座らせられたら、
ギルバードに話を聞いてほしいとお願いされた。
「話?」
「ああ。このまま誤解されるのは嫌だ。
確かに酒と女に逃げようとはしたんだ。
つらくて…忘れられるのなら何でもいいと思って」
「……ギルバード」
「だけど、酒を飲んだらよけいに悲しくなったし、
女は娼館に行くことも考えたけど、酒場で女にからまれて…無理だと思った。
知らない女二人に左右に寄り掛かられて、太ももと尻を撫でられた。
それだけで気持ち悪くて……すぐに逃げ出して吐いた。
酒にも女にも逃げられず、ただ暴れたくて……。
アデリナに向かって行ったら殺されかけた」
「は?」
途中までは誤解だったというのもわかって、静かに聞いていたのに、
アデリナ様に殺されかけたと言われて聞き返してしまった。
「アデリナの訓練は……まともだったのは最初だけだ。
後はもう攻撃魔術をひたすら撃ち込まれて…逃げるのが精一杯。
なのに、イライラして立ち向かっていったら殺されかけて。
もうこれは死ぬなと思った時に闇属性が発動した」
「あぁ、だから最後まで信頼関係ができなかったって」
「できるわけないだろう…ひどい目にあわされた記憶しかないのに」
死ぬ寸前まで攻撃されていたら、そうなるかもしれない。
見た目が優しそうな女性だから、もっと丁寧に教えられていたのかと思ったが、
そういえばアデリナ様も王宮魔術師だったのを思い出した。
エシェルの王宮魔術師は一人いれば国を亡ぼせると言われるくらいだった。
アデリナ様もカルロスもそれだけ強力な力を持った魔術師だってことだ。
見た目で判断してはいけないということを忘れていた。
「そうだったんだ。ごめんね、本当に誤解していた」
「わかってくれたならいい」
「アデリナ様がギルバードの昔の恋人なんじゃないかって思ってて」
「はぁ?」
「だって……女性に慣れている感じだったから」
私の発言が嫌だったのか、勘弁してくれといって私の肩にギルバードの頭が乗っかる。
まっすぐなギルバードの髪が私の首筋にささって、少しくすぐったい。
「……俺の初めての恋人だって」
「え?」
「リディアーヌが初めての恋人だよ」
「……そうなの?」
「初恋だって言わなかったか?」
「言ってた…けど、恋人はまた違うのかと思って」
男の人って、好きじゃなくてもつきあえるものなんだと思ってた。
だってマリエルのお父様はお母様のことを好きじゃなかった。
それでも結婚して子どもを作れるくらいなんだから、
好きと恋人になるのは同じじゃないと思ってた。
「俺は好きじゃなきゃ恋人にできない。
好きでもない女にふれたいとは思わない。
こうしてそばにいたいとも、口づけしたいとも思わないんだよ?」
「そう、なんだ?」
今までギルバードは大人だから、
いろいろと経験してきたんだろうって思ってたのは違ったんだ。
ほっとしていたら、頭のてっぺんに口づけられる。
それが耳や首筋に下りてくるから、恥ずかしくて逃げ出したくなる。
「あぁ、ごめん。やりすぎた。
リディアーヌが可愛いこと言うから、つい」
「可愛いこと!?」
「妬いてくれたんじゃないかと思って。違う?」
そう言われたら、違うとは言えなかった。
私の知らないギルバードを知っているアデリナ様や、
いもしない昔の恋人たちに嫉妬していた。
だから、そんな心配はいらなかったとわかって、ほっとしていた。
自分が嫉妬していたと自覚したら恥ずかしくて、どこかに隠れたくて。
でも、後ろから抱きしめられている状態では逃げられない。
「ぎ、ギルバード、離して……」
「だめ。離したくない」
「ええ?」
「やっと誤解がとけたんだから。もう少しこのままでいたい。
恥ずかしいなら、顔は見ないようにするから」
「……」
この日の訓練はできず、ギルバードはトマスとアデリナ様から注意されていた。
さすがにギルバードもやりすぎたと思ったのか、
次の日からはちゃんと訓練をしてくれるようになった。
学園が再開したのはそれから一か月後。
その間に、光属性は急激に伸びるようになり、初級魔術を使えるようになっていた。
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