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59.夜会の準備
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ルモワーニュ国の夜会に出席する日が近づいていた。
さすがに一か月もすればカルロスに護衛されるのにも慣れたけれど、
セザール王子との噂は思ったよりも消えていなかった。
「それじゃあ、夜会にはトマスとマールは行かないの?」
「私たちは護衛としてそばにいると動きにくいので、
護衛にはカミルとカルロスをつけることになります」
「そうなの?」
「ええ、ですが私とマールも会場にはいますから、安心してください」
「わかったわ」
ギルバードを婚約者として連れて行くことは決まっていたが、
私はトマスとマールも護衛として行くんだとばかり思っていた。
だが、護衛としてついてくることに決まったのはカミルとカルロスだった。
「私とカルロスはエシェルの伯爵令息として会場入りします。
もちろん、護衛としておそばにいますけど」
「護衛として連れて歩くわけじゃないってことね」
「目立たたないように近くにいます」
護衛として目立つことでけん制するのではないのか。
もしかして、王妃か王女の失態を狙っている?
表立って護衛がいたら何もされないかもしれないから?
きっとお父様の指示なんだろうな。
何か事を起こさせて、トマスに捕まえさせるつもりなんだろう。
私は知らないでいたほうがいいか。
「……リディアーヌ」
「なに?」
「ドレスはエドワール様が用意したそうだが、
装飾品は俺が贈ってもいいだろうか?」
「装飾品?」
「ああ。婚約者として贈らせてほしい」
前に髪飾りとチョーカーを贈ってもらった時は、初めての買い物記念だった。
今回は婚約者として。初めての夜会に出るというのもあるのかな。
「受け取ってもいいの?」
「受け取ってほしい。ダメか?」
「ううん、うれしい」
承諾すると、ほっとしたように笑った。
贈ってもらうのは私なのに、ギルバードのほうがうれしそう。
どんな装飾品なのかは当日まで内緒らしいので、楽しみにしておくことにした。
夜会の当日、お父様から贈られたドレスは青のドレスだった。
胸元と裾に黒の透かしレースが縫い込まれている。
思ったよりも大人っぽいドレスに着こなせるか心配になる。
ドレスを着て、マールに髪を結ってもらう。
髪を編み込むときにも黒のレースのリボンが一緒に編み込まれていく。
銀色の髪からちらちらと黒が見える。
その後、化粧をされて口紅を塗ったところでギルバードが部屋に入ってきた。
「う……」
「う?」
鏡に映る私を見たギルバードがうめいたのを聞いて、振り返った。
ギルバードも青を基調とした貴族服を着ている。
いつもシャツにズボン、その上に魔術師のマントという服装のギルバードが、
きらびやかな貴族服を着ているのはめずらしい。
見惚れていると、マールから声をかけられた。
「リディアーヌ様、ギルバード様。
お互いに見惚れていないで、何か話したほうがいいのでは?」
「あ、ああ。すまない。
リディアーヌが綺麗なのはわかってたが、これほどまでだとは思わなくて。
すごく、すごく美しいと思う」
「え?あ、ありがとう。あの……ギルバードもかっこいいと思うわ」
「そ、そうか?」
「うん」
目があったら離せなくなりそうで、そっと目をそらす。
マールに促されたのか、
どことなくぎこちないギルバードがそばにきて私の手を取る。
「仕上げの装飾品、俺がつけてもいいか?」
「うん」
ギルバードが後ろに回ったと思ったら、少し重めのネックレスがつけられる。
大き目の楕円形の黒い宝石が中央に、
その左右に少し小さめの宝石がついている、石が三つ並んだネックレス。
銀細工になっていて、私の髪やドレスにも違和感なく合うものだった。
そして、同じ楕円形のイヤリングも用意されていた。
慣れていないのか、少しギルバードの手が震えている。
「良かった。すごく似合っている」
「ありがとう。とても綺麗で素敵。
ギルバードの色なのね……うれしい」
「前に贈ったものでは夜会のドレスに負けてしまうから。
でも、夜会でも俺の色を身につけてほしかったんだ」
「ありがとう……」
ギルバードの色を身につけて夜会に出る。
婚約者だと見せつけにいくのだから、当然のことではあるけれど、
ギルバードはそんな思惑とか考えていないように見えた。
「あぁ、行かなきゃいけないのか」
「え?」
何をと思った時には遅かった。
耳と首の後ろに口づけられ、思わず変な声が出る。
「ひゃぁ」
「……悪い。がまんできなくて。
ただ、口紅を塗ってるから、そっちはダメだろうと思って」
「え、うん。それはマールに怒られちゃうと思う」
けど、だからって、そんなところに口づけするなんて!
あわあわしている私を見て、ギルバードはふっと笑った。
「帰りまで我慢しておくよ」
「ええぇ」
「あぁ、もう。いいですか?出発する時間になりますよ」
「あ、ごめんね、トマス」
「ギルバードも、しゃんとしてください」
「…ああ。わかってる」
いつもよりも険しい顔をしているトマスに怒られ、
馬車に乗って王宮へと向かう。
いつも以上に護衛の数が多い気がしたけれど、何も言わなかった。
この夜会で何かが変わる。
馬車の中、自分の立ち位置を確認しながら、気を引き締める。
私はエシェルの王族。
もうルモワーニュ国の伯爵令嬢ではないのだと。
さすがに一か月もすればカルロスに護衛されるのにも慣れたけれど、
セザール王子との噂は思ったよりも消えていなかった。
「それじゃあ、夜会にはトマスとマールは行かないの?」
「私たちは護衛としてそばにいると動きにくいので、
護衛にはカミルとカルロスをつけることになります」
「そうなの?」
「ええ、ですが私とマールも会場にはいますから、安心してください」
「わかったわ」
ギルバードを婚約者として連れて行くことは決まっていたが、
私はトマスとマールも護衛として行くんだとばかり思っていた。
だが、護衛としてついてくることに決まったのはカミルとカルロスだった。
「私とカルロスはエシェルの伯爵令息として会場入りします。
もちろん、護衛としておそばにいますけど」
「護衛として連れて歩くわけじゃないってことね」
「目立たたないように近くにいます」
護衛として目立つことでけん制するのではないのか。
もしかして、王妃か王女の失態を狙っている?
表立って護衛がいたら何もされないかもしれないから?
きっとお父様の指示なんだろうな。
何か事を起こさせて、トマスに捕まえさせるつもりなんだろう。
私は知らないでいたほうがいいか。
「……リディアーヌ」
「なに?」
「ドレスはエドワール様が用意したそうだが、
装飾品は俺が贈ってもいいだろうか?」
「装飾品?」
「ああ。婚約者として贈らせてほしい」
前に髪飾りとチョーカーを贈ってもらった時は、初めての買い物記念だった。
今回は婚約者として。初めての夜会に出るというのもあるのかな。
「受け取ってもいいの?」
「受け取ってほしい。ダメか?」
「ううん、うれしい」
承諾すると、ほっとしたように笑った。
贈ってもらうのは私なのに、ギルバードのほうがうれしそう。
どんな装飾品なのかは当日まで内緒らしいので、楽しみにしておくことにした。
夜会の当日、お父様から贈られたドレスは青のドレスだった。
胸元と裾に黒の透かしレースが縫い込まれている。
思ったよりも大人っぽいドレスに着こなせるか心配になる。
ドレスを着て、マールに髪を結ってもらう。
髪を編み込むときにも黒のレースのリボンが一緒に編み込まれていく。
銀色の髪からちらちらと黒が見える。
その後、化粧をされて口紅を塗ったところでギルバードが部屋に入ってきた。
「う……」
「う?」
鏡に映る私を見たギルバードがうめいたのを聞いて、振り返った。
ギルバードも青を基調とした貴族服を着ている。
いつもシャツにズボン、その上に魔術師のマントという服装のギルバードが、
きらびやかな貴族服を着ているのはめずらしい。
見惚れていると、マールから声をかけられた。
「リディアーヌ様、ギルバード様。
お互いに見惚れていないで、何か話したほうがいいのでは?」
「あ、ああ。すまない。
リディアーヌが綺麗なのはわかってたが、これほどまでだとは思わなくて。
すごく、すごく美しいと思う」
「え?あ、ありがとう。あの……ギルバードもかっこいいと思うわ」
「そ、そうか?」
「うん」
目があったら離せなくなりそうで、そっと目をそらす。
マールに促されたのか、
どことなくぎこちないギルバードがそばにきて私の手を取る。
「仕上げの装飾品、俺がつけてもいいか?」
「うん」
ギルバードが後ろに回ったと思ったら、少し重めのネックレスがつけられる。
大き目の楕円形の黒い宝石が中央に、
その左右に少し小さめの宝石がついている、石が三つ並んだネックレス。
銀細工になっていて、私の髪やドレスにも違和感なく合うものだった。
そして、同じ楕円形のイヤリングも用意されていた。
慣れていないのか、少しギルバードの手が震えている。
「良かった。すごく似合っている」
「ありがとう。とても綺麗で素敵。
ギルバードの色なのね……うれしい」
「前に贈ったものでは夜会のドレスに負けてしまうから。
でも、夜会でも俺の色を身につけてほしかったんだ」
「ありがとう……」
ギルバードの色を身につけて夜会に出る。
婚約者だと見せつけにいくのだから、当然のことではあるけれど、
ギルバードはそんな思惑とか考えていないように見えた。
「あぁ、行かなきゃいけないのか」
「え?」
何をと思った時には遅かった。
耳と首の後ろに口づけられ、思わず変な声が出る。
「ひゃぁ」
「……悪い。がまんできなくて。
ただ、口紅を塗ってるから、そっちはダメだろうと思って」
「え、うん。それはマールに怒られちゃうと思う」
けど、だからって、そんなところに口づけするなんて!
あわあわしている私を見て、ギルバードはふっと笑った。
「帰りまで我慢しておくよ」
「ええぇ」
「あぁ、もう。いいですか?出発する時間になりますよ」
「あ、ごめんね、トマス」
「ギルバードも、しゃんとしてください」
「…ああ。わかってる」
いつもよりも険しい顔をしているトマスに怒られ、
馬車に乗って王宮へと向かう。
いつも以上に護衛の数が多い気がしたけれど、何も言わなかった。
この夜会で何かが変わる。
馬車の中、自分の立ち位置を確認しながら、気を引き締める。
私はエシェルの王族。
もうルモワーニュ国の伯爵令嬢ではないのだと。
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