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52.ふさわしい相手(ギルバード)
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ざわりと心の奥がゆれた。
これは……リディアーヌ嬢が何か危険な目にあってる。
もうそろそろ学園から戻る頃なのに、いったい何が?
急いで階段を降り、玄関前に出る。
馬車が奥棟へと急いで戻ってくるのが見えた。やはり何かあったんだ。
御者に聞くと、リディアーヌ様が王女に呼び出されました!と言う。
あの王女!学園に来たのか!
と思ったら、すぐに身体が引っ張られる。あ、これは誓約だ。
勝手に転移させられたと思ったがすぐに理由に気がついて、
飛んだ先にいるリディアーヌ嬢を抱きしめた。
パシャリと俺の背中に何か水のようなものがかかったのがわかった。
リディアーヌ嬢に差し迫っていた危険はこれか。
ほっとしたけれど、本当に大丈夫だったのかとリディアーヌ嬢を見る。
いつもどおり可愛らしい顔に小さな身体。
びっくりしたのか大きく目を見開いている。
急に俺が転移して来ればそりゃ驚くよな。
他にケガなどはなさそうで、ちゃんと守れたことにほっとする。
後ろからぎゃあぎゃあ叫んでいる声がするけれど、答えたくない。
同じ王女という肩書なのに、どうしてこうも違うんだろう。
適当にあしらって帰ろうかと思ったけれど、私のものと言われて頭に血が上った。
ふざけるな、誰がお前のだ。
俺はリディアーヌのだと返事をすれば、リディアーヌ嬢も意図がわかったのか、
ギルバードと呼び捨てにしてくれる。
それがなんだかしっくりきて、うれしくて。
いつも呼び捨てにしてくれてかまわないのにと思ってしまう。
一応は、先生と学生なのに、何を考えたんだろう。
奥棟に戻って来て、リディアーヌ嬢がトマスに説明をする。
俺が一人で出て行ったから、カミルも心配していたようだ。
…俺の心配というより、カミルもリディアーヌ嬢を守りたかったのかな。
すまんな。これは譲れない。というか、譲りたくない。
誓約しておいて、本当に良かったと思う。
一通り説明を聞いたトマスは、エドワール様から来た手紙を差し出した。
今日届いたばかりの手紙。
トマスは開けて読んだようだが、俺は内容を聞いていない。
「どうやら、旦那様の考えでもまずい状況のようですね。
このままだと、セザール王子かアルフォンス王子と結婚するか、
エシェルに戻るしかないようです」
「そんな……」
「こうなる前に何か手を打っておくべきでした」
「……そう。少し休ませてくれる?昼食はいらないわ。
訓練には行きます」
トマスから話を聞いたリディアーヌ嬢は、うつむいて誰とも目を合わせない。
結婚かエシェルに戻るしかないと言われ、落ち込んでいるように見えた。
食事もせずに私室に戻ってしまうのを見送った後、トマスに声をかける。
「トマス、本当に他の手はないのか?
何かあるんじゃないのか?」
「ありますよ」
「なんで、それを言わないんだ?」
「それは、その手を使えるかはギルバード次第だからです」
「俺次第?」
どういうことなのかと思うが、リディアーヌ嬢をあんな顔させておきたくない。
今まで通り学園に通うことができるのなら、それが一番いい。
そのために俺の力が必要だというのなら、なんだってしてやろう。
「簡単な話です。リディアーヌ様が婚約してしまえばいいんです。他の男と。
そうすればセザール王子の婚約者という噂は消えます。
だから、ギルバードがリディアーヌ様に求婚してください」
「は?」
「なんです?嫌なんですか?」
「いや、嫌じゃない」
「じゃあ、求婚してきてください。今すぐに」
いやいやいやいや。そうじゃないだろう。
なんで相手が俺っていうことになるんだよ。
「どうしてトマスが求婚しないんだ?
リディアーヌ嬢を愛しているんだろう?」
「愛していますよ?もちろん。
こういっては何ですが、旦那様よりも奥様よりも、
リディアーヌ様を愛している自信がありますとも!」
「じゃあ、なんでだよ」
「三歳からですよ。身体が固まらない様に魔力を流し、食事をさせ、
着替えや湯あみの手伝いまでしていました。
私が育ててきたのです!愛しているに決まってるでしょう!」
「……」
そういえば、そうだった。診察記録に書かれていた。
どれだけ丁寧にリディアーヌ嬢を治療してきたか。
トマスが育ててきたんだ。目覚めぬ者だったリディアーヌ嬢を。
「誰よりも愛しておりますが、それは欲情するような気持ちではありません。
それに、リディアーヌ様が幸せになるためにお側にいるのです。
リディアーヌ様が隣にいてほしいと望んでいるのは、私ではありません」
「それが俺だと?」
「その答えはリディアーヌ様しかわかりません。
ですが、ギルバードは隣にいたいと思っているのではないですか?」
「俺が?」
「他の者に奪われても、後悔しませんか?
求婚できるのは今だけです。
これを逃したら、リディアーヌ様は他の者との婚約を決めるでしょう」
リディアーヌ嬢の隣にいるのが、他の誰か。
俺でもトマスでもない、誰か。
婚約するのがトマスだったら、納得しただろう。
これだけリディアーヌ嬢を愛し、尽くしてきたトマスなら。
だけど、そうじゃない他の男だったとしたら。
セザール王子ははっきり言って論外だ。
アルフォンス王子は優秀だけど……俺が認められるかと言ったら。
許せるわけないだろう、そんなの。
「わかった。決めるのはリディアーヌ嬢だ。
俺が、求婚してきてもいいか?」
「どうして私に許可を求めるんです」
「トマスが親代わりだと思ったからだ」
「……すぐに行ってください。きっと今頃、一人で泣いています。
リディアーヌ様はお優しい人です。
自分がエシェルに行ってしまったら、この国は終わるとわかっている。
その時に多数の死者が出るとわかっていて選べるような人ではありません……。
おそらくアルフォンス王子との結婚を受け入れようとするでしょう」
「そんなの許せるかよ」
「ふふ。それは同感です。後は任せましたよ」
「ああ」
これは……リディアーヌ嬢が何か危険な目にあってる。
もうそろそろ学園から戻る頃なのに、いったい何が?
急いで階段を降り、玄関前に出る。
馬車が奥棟へと急いで戻ってくるのが見えた。やはり何かあったんだ。
御者に聞くと、リディアーヌ様が王女に呼び出されました!と言う。
あの王女!学園に来たのか!
と思ったら、すぐに身体が引っ張られる。あ、これは誓約だ。
勝手に転移させられたと思ったがすぐに理由に気がついて、
飛んだ先にいるリディアーヌ嬢を抱きしめた。
パシャリと俺の背中に何か水のようなものがかかったのがわかった。
リディアーヌ嬢に差し迫っていた危険はこれか。
ほっとしたけれど、本当に大丈夫だったのかとリディアーヌ嬢を見る。
いつもどおり可愛らしい顔に小さな身体。
びっくりしたのか大きく目を見開いている。
急に俺が転移して来ればそりゃ驚くよな。
他にケガなどはなさそうで、ちゃんと守れたことにほっとする。
後ろからぎゃあぎゃあ叫んでいる声がするけれど、答えたくない。
同じ王女という肩書なのに、どうしてこうも違うんだろう。
適当にあしらって帰ろうかと思ったけれど、私のものと言われて頭に血が上った。
ふざけるな、誰がお前のだ。
俺はリディアーヌのだと返事をすれば、リディアーヌ嬢も意図がわかったのか、
ギルバードと呼び捨てにしてくれる。
それがなんだかしっくりきて、うれしくて。
いつも呼び捨てにしてくれてかまわないのにと思ってしまう。
一応は、先生と学生なのに、何を考えたんだろう。
奥棟に戻って来て、リディアーヌ嬢がトマスに説明をする。
俺が一人で出て行ったから、カミルも心配していたようだ。
…俺の心配というより、カミルもリディアーヌ嬢を守りたかったのかな。
すまんな。これは譲れない。というか、譲りたくない。
誓約しておいて、本当に良かったと思う。
一通り説明を聞いたトマスは、エドワール様から来た手紙を差し出した。
今日届いたばかりの手紙。
トマスは開けて読んだようだが、俺は内容を聞いていない。
「どうやら、旦那様の考えでもまずい状況のようですね。
このままだと、セザール王子かアルフォンス王子と結婚するか、
エシェルに戻るしかないようです」
「そんな……」
「こうなる前に何か手を打っておくべきでした」
「……そう。少し休ませてくれる?昼食はいらないわ。
訓練には行きます」
トマスから話を聞いたリディアーヌ嬢は、うつむいて誰とも目を合わせない。
結婚かエシェルに戻るしかないと言われ、落ち込んでいるように見えた。
食事もせずに私室に戻ってしまうのを見送った後、トマスに声をかける。
「トマス、本当に他の手はないのか?
何かあるんじゃないのか?」
「ありますよ」
「なんで、それを言わないんだ?」
「それは、その手を使えるかはギルバード次第だからです」
「俺次第?」
どういうことなのかと思うが、リディアーヌ嬢をあんな顔させておきたくない。
今まで通り学園に通うことができるのなら、それが一番いい。
そのために俺の力が必要だというのなら、なんだってしてやろう。
「簡単な話です。リディアーヌ様が婚約してしまえばいいんです。他の男と。
そうすればセザール王子の婚約者という噂は消えます。
だから、ギルバードがリディアーヌ様に求婚してください」
「は?」
「なんです?嫌なんですか?」
「いや、嫌じゃない」
「じゃあ、求婚してきてください。今すぐに」
いやいやいやいや。そうじゃないだろう。
なんで相手が俺っていうことになるんだよ。
「どうしてトマスが求婚しないんだ?
リディアーヌ嬢を愛しているんだろう?」
「愛していますよ?もちろん。
こういっては何ですが、旦那様よりも奥様よりも、
リディアーヌ様を愛している自信がありますとも!」
「じゃあ、なんでだよ」
「三歳からですよ。身体が固まらない様に魔力を流し、食事をさせ、
着替えや湯あみの手伝いまでしていました。
私が育ててきたのです!愛しているに決まってるでしょう!」
「……」
そういえば、そうだった。診察記録に書かれていた。
どれだけ丁寧にリディアーヌ嬢を治療してきたか。
トマスが育ててきたんだ。目覚めぬ者だったリディアーヌ嬢を。
「誰よりも愛しておりますが、それは欲情するような気持ちではありません。
それに、リディアーヌ様が幸せになるためにお側にいるのです。
リディアーヌ様が隣にいてほしいと望んでいるのは、私ではありません」
「それが俺だと?」
「その答えはリディアーヌ様しかわかりません。
ですが、ギルバードは隣にいたいと思っているのではないですか?」
「俺が?」
「他の者に奪われても、後悔しませんか?
求婚できるのは今だけです。
これを逃したら、リディアーヌ様は他の者との婚約を決めるでしょう」
リディアーヌ嬢の隣にいるのが、他の誰か。
俺でもトマスでもない、誰か。
婚約するのがトマスだったら、納得しただろう。
これだけリディアーヌ嬢を愛し、尽くしてきたトマスなら。
だけど、そうじゃない他の男だったとしたら。
セザール王子ははっきり言って論外だ。
アルフォンス王子は優秀だけど……俺が認められるかと言ったら。
許せるわけないだろう、そんなの。
「わかった。決めるのはリディアーヌ嬢だ。
俺が、求婚してきてもいいか?」
「どうして私に許可を求めるんです」
「トマスが親代わりだと思ったからだ」
「……すぐに行ってください。きっと今頃、一人で泣いています。
リディアーヌ様はお優しい人です。
自分がエシェルに行ってしまったら、この国は終わるとわかっている。
その時に多数の死者が出るとわかっていて選べるような人ではありません……。
おそらくアルフォンス王子との結婚を受け入れようとするでしょう」
「そんなの許せるかよ」
「ふふ。それは同感です。後は任せましたよ」
「ああ」
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