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47.新しい教室

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長期休暇が終わる四日前、少し早いけれど王都へと戻る。
前回よりも増えた護衛を連れての移動は時間がかかってしまう。
それでも襲撃はされず、ほっとしながら奥棟へと戻った。

「何も無くてよかった」

「遠くでうかがっている気配はしていましたけどね」

「え?そうなの?」

私はまったく気がついていなかったけれど、トマスがギルバードに同意を求めた。

「ああ、遠かったし、手を出さないならいいかとほっといた。
 おそらく調査はされると思うが……」

「そうだったんだ。人数が多いからあきらめたのかな」

「おそらくはそうでしょう」

お父様の言うとおり、護衛が多ければ手出しされにくいらしい。
ギルバードと約束したこともあるし、ちゃんと守られるつもりで馬車に乗った。
それでもできれば襲撃は避けたい。
結果として大丈夫だったとしても、ギルバートとトマスが戦うようなことも、
マールが身代わりになるようなこともしてほしくないから。



光属性の訓練は言われた通り、前日と同じように繰り返すことを意識した。
そうすると同じことをしても身体への負担は少なく、
終わった後で力がぬけたり、倒れたりしなくなった。

それ以上やろうとするときつくなるけれど、
なぜか同じことを繰り返すだけなら身体に負担がかからないようだった。
焦ってもいいことはないと自分に言い聞かせ、訓練を繰り返す。
いつかこの先に進めると信じて、できることを頑張るしかない。



ようやく学園の長期休暇が終わる前日に、新しい教室が記された封筒が届けられた。
それを見て私の教室はすぐにわかったが、トマスが全教室の名簿を手に入れてきた。

私は変わらずA教室。アリアンヌ様とクラーラもそのままA教室。
だけど、ダーリア様と令息が一人B教室に落とされていた。
今回、B教室からA教室にあがってくる者はいなかった。

そして、B教室にいたセザール様はC教室に落とされていた。
王太子になると言われているセザール様がC教室というのはさすがにまずいのでは。
側近も半分はC教室に落ちていて、この国は大丈夫なのかと思う。

ジュリアはそのままC教室にいたが、C教室だった者が四人D教室に落ちている。
この四人は自主的に退学することになるかもしれない。
病気を理由に退学し、また来年入学するという方法があるそうだ。

「ダーリア様はやっぱりダメだったのね。残念だわ。
 それにしても……王子と側近をC教室に落とすなんて。明日から荒れそうね」

「王妃が学園に文句を言ってくるかもしれませんね」

「大丈夫なのかしら」

きっと王妃に言われても変える気はないんだろうけど。
ギルバードは私とトマスの疑問には何も答えなかった。
聞こえないふりをしているのか、視線を合わせようとしない。
学園の教師としてはうかつに話すわけにもいかないのだろうけど。

「リディアーヌ様、もし何か起きるようであれば学園内でも護衛をつけます」

「え?そうなの?」

「はい。そうなれば、安全とは言い切れないので」

「そっか……わかったわ」



次の日、学園に向かうと長期休暇前と同じようにクラーラが待っていた。
馬車から降りようとすると背の高いクラーラが手を貸してくれる。

「リディアーヌ様、おはようございます!」

「おはよう、クラーラ。久しぶりね」

「はい!今日からまたよろしくお願いいたします」

長期休暇で十分に休めたのか、いつも以上に元気がいいクラーラに笑ってしまう。
ちょうどいいからとクラーラへとお土産を渡す。

「え?私にですか?」

「ええ。ラルエット領で買い物する機会があったから。
 クラーラに似合うと思ったの。受け取ってくれる?」

「ありがとうございます!とってもうれしいです」

「ふふ。後でゆっくり見てね」

クラーラは両手で受け取ると大事そうに収納袋に包を入れた。

A教室に入ると、なんだか雰囲気が暗い。
ダーリア様がいないのはわかっていたけれど、それだけではなさそう。
残った令息の三人は私のほうを見て、すぐに目をそらした。

「おはようございます、リディアーヌ様」

「あ、おはよう。アリアンヌ様」

私が教室に入ったのに気がついて駆け寄ってきたアリアンヌ様に、
こちらへと言われて教室のすみへと連れて行かれる。

何事かと思うが、令息たちに聞かれては困る話でもあるのだろうか。
素直についていくと、アリアンヌ様は小声で話し始めた。

「この長期休暇中に、問題が三件発生しています。
 どれもリディアーヌ様に関わるものです」

「え?どういうこと?私は領地に帰っていたのに関わるの?」

「はい。まずは一件目。
 セザール様が令息たちの集まりでリディアーヌ様を婚約者だと話したそうです」

「は?まだ勘違いしたままなの?王家には抗議したのに?」

「ええ……私もセザール様に話したのですが、聞いてもらえなくて。
 王妃様が言うことが正しいと思い込んでいるようです」

「ええぇ……そうなの」

王家と言うか、ルモワーニュ国王に抗議文を送ったのに聞いていないとは。
一度セザール王子と話す機会を作らなくてはいけないだろうか。
だが、それで話がこじれても困る。トマスに相談するしかないかな……。

「もう一件はリディアーヌ様が学園内で身分をふりかざして、
 下位貴族を虐げていると噂になっています」

「それは嘘です!」

隣で話を聞いていたクラーラがアリアンヌ様に声を荒らげた。
いつもなら私たちの話に口を挟むことはないのに、黙っていられなかったらしい。

「ええ、私もそう思っています。
 問題なのは、それを信じている者がいるということです」

「この国の貴族令嬢とはほとんど交流していないもの。
 そんな噂があれば信じてしまうでしょうね。
 それで、もう一件は?」

おそらく下位貴族を虐げていると噂したのはクラーラを呼び出していた四人だろう。
それも調査してから抗議することになるだろうけど。

「これはジュリエット様が周りに言っているのですが……。
 リディアーヌ様がギルバード先生をいいようにしていると……」

「え?」

「王女という身分をたてに、長期休暇まで連れて歩いていると言い出されて。
 ギルバード先生を助け出さなくてはと陛下に訴えたそうです。
 もちろん陛下はすぐに却下されたそうですが……」

「あぁ、そう思われるのも仕方ないかしら。
 ギルバード先生、今は私の護衛として雇われているのよね」

「そうなのですか?」

長期休暇だけでなく、これからずっと護衛として雇われることになっている。
これを王女が知ったら騒ぎ出すに違いない。

「ええ、先生はエシェルと繋がりがあるので、お父様が契約したの。
 第一王女からは無理やり契約したように見えるかもしれないわね」

「ギルバード先生はエシェルの関係者だったのですか……。
 それでは契約するのも当たり前だと思いますが」

「でも、王女は納得しないでしょう?」

「……そうですね」

アリアンヌ様もそう思うのか、暗い顔で頷いた。
ギルバードがエシェルの者だとわかれば、普通は納得するだろうけど。
今まで言うことを聞かせようとしていたのに思う様にいかなかった王女は、
どうして私の言うことを聞いているのかと腹立たしく思っているだろう。

これに関しては私が関わったら、よけいに悪化するような気がする。
王女があきらめてくれるまでおとなしくしているべきかな。
さすがにもうそろそろ王女も婚約しなくてはいけない時期だろうし、
婚約した後はいつまでもギルバードを気にしていられないだろうから。

授業が終わった後、クラーラと一緒に馬車まで行く間、
すれちがう学生の目が冷たく感じた。
どの噂のせいかはわからないが、学生の間で私の評判は悪くなっているらしい。
怒り出しそうなクラーラをなだめ、奥棟へと戻った。




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