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29.訓練の終わり
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「俺の前に立って、反対側を向いてくれ」
「わかりました」
ギルバードの前に立って、後ろ向きになる。
背中側にギルバードの魔力を感じたと思ったら、周りがだんだん暗くなっていく。
「……これは?」
「この訓練場の内部を闇で満たしている。
この中でなら、光属性が暴走しても抑えることができる。
いいか、この暗闇の中に光をともしてみろ」
「ここに光を……」
「初級でも基本だな。ただ光るだけの灯りだ。
術式は使わない。光属性の力、そのものを出せばいい」
「わかりました。やってみます」
「全属性と違って、威力を意識するのではなく、
明るさを意識するんだ。
日の光をここに出すように、この部屋を明るくするぐらいの」
日の光……この真っ暗な空間を明るく。
光属性だけを出そうとすると、穴が開きそうで怖い。
流してはいけない、道を作ってはいけない。
そこからすべての魔力が漏れ出してしまう感じがする。
どれだけ時間が過ぎたのだろうか。
暗闇の中、光を出せずに首筋から汗が落ちる。
うまく魔力を動かせない苦しさ。この気持ち悪さは久しぶりだ。
ふらりとしたら、後ろから両肩を支えられた。
ギルバードの大きな手が、私の両肩を押すように支えてくれる。
「怖がるな……大丈夫だ、何があっても俺がいる。
暴走しても俺が抑える」
「はい」
少しも迷いがないギルバードの声に、
肩から伝わってくる手のぬくもりに身体の震えが止まる。
大丈夫、何があってもギルバードが抑え込んでくれる。
この訓練場いっぱいに闇の魔力が満たされている。
目を閉じて、身体に光をともす。
身体全体が光属性で満たされるように暖かさを感じる。
「……そのまま、続けて」
目を開けたら、訓練場が明るくなっている。
私の身体を包むように、光が見える。
その光を抑えるように、ギルバードの闇が柔らかく浸食している。
ほんの数分で光は消え、また訓練場が闇に包まれる。
同時に身体から力が抜けてストンと下に崩れ落ちる。
「初日から上出来だ。よく頑張ったな」
「……ありがとうございます」
訓練場の闇は消えていた。
ずっと闇属性を使い続けていたのに涼しい顔をしている。
このレベルにまで達しなければ安定しないのか。先は長いな……。
「え?」
「部屋に戻ろう」
床に座り込んでいた状態から抱きかかえられ、縦抱きにされる。
力が入らず何も抵抗できないまま、ギルバードの首筋に頭を乗せることになって、
慌てて抗議するも降ろしてはくれない。
「え。重いから!ねぇ!降ろして!!」
「は?重い?冗談だろう。
軽すぎて不安になるくらいだ」
「……あ」
そうだった。混乱して、間違えてしまった。
リディアーヌは小さくて軽くて、この程度でギルバードが重いと思うわけなかった。
ギルバードがそばにいると、どうしてもマリエルだった時の意識が消えない。
あの頃、ギルバードは私を持ち上げられなかった。
身長も体重もほとんど変わらなかったのだから当然だけど。
その時の思い出が残っていたせいか、こんなに軽々と抱き上げられると戸惑う。
「初めて光属性を解放したから身体に負担がかかってる。
身体に力が入らなくて、立てないんだろう?
わかっているから、落ち着け。
部屋に戻って、念のためトマス医師に診てもらおう」
「はい……もうしわけ」
「謝らなくていい。お前は俺の弟子になる。
これくらいは迷惑に入らないと覚えておけ。
どうも…お前は甘えるということが苦手に見える。
こういう時は素直に甘えておけ」
「……はい」
私を抱き上げたまま、片手でドアを開け、階段をのぼっていく。
何の苦もなくそれをするのを見て、
ギルバードにとってたいしたことではないのだとわかる。
たしかに甘えるのは苦手かもしれない。
リディアーヌが愛されているのはわかっていても、
できるかぎり自分の力で何とかしようと思ってしまう。
こういう性格、可愛くないって言われるんだろうな。
動けない以上、誰かに助けてもらわなくてはいけない。
それは幼少期動けなかったから理解できるのだけど。
あきらめて黙ると、違うことに意識が向いていく。
ギルバードの首筋に頭を寄せているから、頬が直接肌にふれる。
汗ばんだ感覚と、何か香水のような匂い。
こんな風に近づいたことはなくて、落ち着かなくなる。
最上階に着くと、トマスが待ち構えていた。
あ、また説教されるかな。無茶したわけじゃないけど、動けないし。
「またですか?」
「いや、これは無茶じゃない。慣れるまではこうなる。
あきらめてくれ。これを乗り越えないと使いこなせない」
「……ふぅ。仕方ないですか。では、リディアーヌ様をこちらに」
「ああ」
ギルバードからトマスに変わり、慣れ親しんだ匂いにほっとする。
どうしてかギルバードに抱き上げられるのは落ち着かない。
大人になってしまったギルバードに戸惑っているからだろうか。
そのままトマスに部屋に連れて行かれ、
寝台に横たわった時にはもう半分眠りに落ちていた。
夢の中ではあの頃の可愛いギルバードがふてくされて、
真面目なカミルに説教されているところだった。
そんなに怒らないで、カミル。私は大丈夫だから。
そう言ったら、なぜかギルバードが嫌そうな顔をした。
「わかりました」
ギルバードの前に立って、後ろ向きになる。
背中側にギルバードの魔力を感じたと思ったら、周りがだんだん暗くなっていく。
「……これは?」
「この訓練場の内部を闇で満たしている。
この中でなら、光属性が暴走しても抑えることができる。
いいか、この暗闇の中に光をともしてみろ」
「ここに光を……」
「初級でも基本だな。ただ光るだけの灯りだ。
術式は使わない。光属性の力、そのものを出せばいい」
「わかりました。やってみます」
「全属性と違って、威力を意識するのではなく、
明るさを意識するんだ。
日の光をここに出すように、この部屋を明るくするぐらいの」
日の光……この真っ暗な空間を明るく。
光属性だけを出そうとすると、穴が開きそうで怖い。
流してはいけない、道を作ってはいけない。
そこからすべての魔力が漏れ出してしまう感じがする。
どれだけ時間が過ぎたのだろうか。
暗闇の中、光を出せずに首筋から汗が落ちる。
うまく魔力を動かせない苦しさ。この気持ち悪さは久しぶりだ。
ふらりとしたら、後ろから両肩を支えられた。
ギルバードの大きな手が、私の両肩を押すように支えてくれる。
「怖がるな……大丈夫だ、何があっても俺がいる。
暴走しても俺が抑える」
「はい」
少しも迷いがないギルバードの声に、
肩から伝わってくる手のぬくもりに身体の震えが止まる。
大丈夫、何があってもギルバードが抑え込んでくれる。
この訓練場いっぱいに闇の魔力が満たされている。
目を閉じて、身体に光をともす。
身体全体が光属性で満たされるように暖かさを感じる。
「……そのまま、続けて」
目を開けたら、訓練場が明るくなっている。
私の身体を包むように、光が見える。
その光を抑えるように、ギルバードの闇が柔らかく浸食している。
ほんの数分で光は消え、また訓練場が闇に包まれる。
同時に身体から力が抜けてストンと下に崩れ落ちる。
「初日から上出来だ。よく頑張ったな」
「……ありがとうございます」
訓練場の闇は消えていた。
ずっと闇属性を使い続けていたのに涼しい顔をしている。
このレベルにまで達しなければ安定しないのか。先は長いな……。
「え?」
「部屋に戻ろう」
床に座り込んでいた状態から抱きかかえられ、縦抱きにされる。
力が入らず何も抵抗できないまま、ギルバードの首筋に頭を乗せることになって、
慌てて抗議するも降ろしてはくれない。
「え。重いから!ねぇ!降ろして!!」
「は?重い?冗談だろう。
軽すぎて不安になるくらいだ」
「……あ」
そうだった。混乱して、間違えてしまった。
リディアーヌは小さくて軽くて、この程度でギルバードが重いと思うわけなかった。
ギルバードがそばにいると、どうしてもマリエルだった時の意識が消えない。
あの頃、ギルバードは私を持ち上げられなかった。
身長も体重もほとんど変わらなかったのだから当然だけど。
その時の思い出が残っていたせいか、こんなに軽々と抱き上げられると戸惑う。
「初めて光属性を解放したから身体に負担がかかってる。
身体に力が入らなくて、立てないんだろう?
わかっているから、落ち着け。
部屋に戻って、念のためトマス医師に診てもらおう」
「はい……もうしわけ」
「謝らなくていい。お前は俺の弟子になる。
これくらいは迷惑に入らないと覚えておけ。
どうも…お前は甘えるということが苦手に見える。
こういう時は素直に甘えておけ」
「……はい」
私を抱き上げたまま、片手でドアを開け、階段をのぼっていく。
何の苦もなくそれをするのを見て、
ギルバードにとってたいしたことではないのだとわかる。
たしかに甘えるのは苦手かもしれない。
リディアーヌが愛されているのはわかっていても、
できるかぎり自分の力で何とかしようと思ってしまう。
こういう性格、可愛くないって言われるんだろうな。
動けない以上、誰かに助けてもらわなくてはいけない。
それは幼少期動けなかったから理解できるのだけど。
あきらめて黙ると、違うことに意識が向いていく。
ギルバードの首筋に頭を寄せているから、頬が直接肌にふれる。
汗ばんだ感覚と、何か香水のような匂い。
こんな風に近づいたことはなくて、落ち着かなくなる。
最上階に着くと、トマスが待ち構えていた。
あ、また説教されるかな。無茶したわけじゃないけど、動けないし。
「またですか?」
「いや、これは無茶じゃない。慣れるまではこうなる。
あきらめてくれ。これを乗り越えないと使いこなせない」
「……ふぅ。仕方ないですか。では、リディアーヌ様をこちらに」
「ああ」
ギルバードからトマスに変わり、慣れ親しんだ匂いにほっとする。
どうしてかギルバードに抱き上げられるのは落ち着かない。
大人になってしまったギルバードに戸惑っているからだろうか。
そのままトマスに部屋に連れて行かれ、
寝台に横たわった時にはもう半分眠りに落ちていた。
夢の中ではあの頃の可愛いギルバードがふてくされて、
真面目なカミルに説教されているところだった。
そんなに怒らないで、カミル。私は大丈夫だから。
そう言ったら、なぜかギルバードが嫌そうな顔をした。
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