22 / 101
22.秘密の共有
しおりを挟む
「そうでした。知っていて当然でしたよね。
ですが、ギルバード様はラフォレ家の嫡子を下りました」
「え?……どういうことなの?」
嫡子を下りるというのは、相続権を放棄するということだ。
貴族家から籍を抜いた状態に近い。
親が子に何かを強制することができなくなるかわり、
子は親に守られることもなくなる。
「学園に入る時にラフォレを出て、それから帰っていません。
ギルバード様はラフォレ家を継ぐのを拒否したのです」
「……どうして」
「申し訳ありません。理由についてはお答えできません。
気になるようでしたら、ギルバード様に聞いてみてください。
というわけで、ラフォレ家とは連絡を取っていないので、
王都の屋敷も使えないのですよ」
「そうなの……」
信じられない。ギルバードはラフォレ家と縁を切ったというの?
あんなにお義父様のことが大好きで、
お義父様のように国一番の剣士になるって言っていたのに。
あぁ、剣士じゃなくて、
魔術師になったのもその辺が理由なのかもしれない。
話が途切れた時、ちょうどギルバードが戻って来た。
めんどうな客だったのか疲れた顔をしてる。
「待たせてすまない。どこから旧演習場に俺がいると漏れたのか、
学生が訪ねてくるんだ。俺から魔術を教わりたいと言って」
「私は誰にも話していませんよ?」
「安心しろ。リディアーヌ嬢が話したとは思っていない。
リディアーヌ嬢は全属性だと隠しているだろう。
誰かに話せば自分の属性をばらすようなものだからな」
「それは……そうですね」
たしかにギルバードの授業が旧演習場だと話せば、
私がギルバードに教えられていると言うようなものだ。
王家と学園には報告しているので、知っているものはいるだろうけど、
自分から全属性持ちだと言いふらすような真似はしない。
「教員の誰かが教えたんだろう。
おかげで学生が頼みに来て面倒だ」
「それは…お疲れ様です」
アリアンヌ様とセザール王子がギルバードに頼んでいたのを思い出す。
あれほど露骨ではなくても、高位貴族だとちらつかせて頼みにくるものがいるのだろう。
カミルでは追い返せないというのはそういうことだと思う。
「それで、リディアーヌ嬢の今後の授業なのだが……」
「はい」
ギルバードがちらりとカミルを見るので、
他人のいる場では言いにくいことでも話すのかと思い先に言う。
「カミルさんがいても大丈夫ですよ」
「そうか。前回、全属性の魔術を出させたのには一応理由はある。
制御しているか、安定しているかを見たかったんだ」
「そうなんですか」
「ああ、やりすぎてしまったが……。
それで、リディアーヌ嬢の魔術を見て思ったのだが、
制御できているが安定しないのは……」
ギルバードは言いにくそうに、一度話を切って、深呼吸した。
「おそらく、隠しているんだろうと思う。
だが、大事なことなので聞かせてほしい。
全属性以外に属性を持っているんじゃないか?」
「え?」
まさかこんなにあっさりともう一つ属性に気がつかれるとは思っていなかった。
予想外の質問に、動きが止まる。
正直に答えていいのか迷う。私に光属性があることはお父様とトマスしか知らない。
屋敷の使用人にも知られないように、光属性の訓練は一切してこなかった。
「隠したいのであれば、俺もカミルも秘密にすると誓う」
「はい。私もここで聞いたことを誰にも話さないと誓います」
二人が真剣な顔で誓うのを見て、覚悟を決めた。
嘘をつくとは思っていない。ただ、巻き込むようで嫌だった。
「……私には光属性があります」
「やっぱり……どうして隠しているんだ?」
「聖女だと思われたくなかったので……。
教会と王家から再三の使いが来ていました。
私はそのどちらにも行く気がありませんでした」
「なるほど。わかった。大丈夫だ、秘密は守る」
二人とも私が教会と王家に行きたくないと理解してくれたようで、大きくうなずいた。
その言葉でほっとして、息をついた。
「無理に聞き出して悪かった。
だが、魔術を安定して使うためには大事なことだったんだ」
「安定して?」
「そうだ。リディアーヌ嬢は全属性の魔術を使いこなしていた。
制御できていただろう。だが、魔力自体は安定してない。
安定していない状態で無理やり制御しているから身体に負担がかかるんだ」
「そうなんですか」
どれだけ訓練しても安定しなかった。安定しなければその歪みは身体に影響する。
だからトマスには無茶をするなと言われてしまう。
「俺は全属性と闇属性を持っている。だからこそ理解できるんだ。
属性が増えると制御が難しくなるだろう?
それは、すべての属性を使いこなすまで安定しないからなんだ」
「え?」
「俺の感覚だと、すべての属性で中級魔術程度使いこなせるようにならないと、
ずっと安定しないままなんだ。
リディアーヌ嬢は光属性を訓練していないんじゃないか?」
「その通りです」
安定しなかった理由がわかって、納得してしまう。
それではいくら全属性を訓練しても無駄だったわけだ。
少しも前に進まない感じがしてずっと焦っていた。
「光属性を訓練しなかったのは、知られたくなかったからか。
……そうなるとここで訓練するのは難しいか」
「え?」
「この旧演習場は古くて、ところどころ柵が壊れている。
外から覗こうと思ったら覗けるんだ。人に見られてはいけないのだろう」
前回、必死だったからそこまで見ていなかった。
たしかに古い演習場だとは思った。
外から覗けるようになっていたとは気がつかなかった。
どうしようか。光属性を訓練しなければいつまでたっても安定しない。
この状態でギルバードに全属性の魔術を教わっても意味はない。
だけど、人に知られるのは……。
知られないように訓練することはできないんだろうか。
「あ」
「あ?」
一か所だけあった。この学園内で、私の力を隠せる場所。
そうだ、そうすれば何も問題ない。
「ギルバード先生、さっきカミルさんに聞いたのですが、
住む場所に困っているんですよね?」
「あ、ああ。確かに困ってはいるが、どうした?」
「先生とカミルさん、奥棟に住みませんか?」
「「は?」」
ですが、ギルバード様はラフォレ家の嫡子を下りました」
「え?……どういうことなの?」
嫡子を下りるというのは、相続権を放棄するということだ。
貴族家から籍を抜いた状態に近い。
親が子に何かを強制することができなくなるかわり、
子は親に守られることもなくなる。
「学園に入る時にラフォレを出て、それから帰っていません。
ギルバード様はラフォレ家を継ぐのを拒否したのです」
「……どうして」
「申し訳ありません。理由についてはお答えできません。
気になるようでしたら、ギルバード様に聞いてみてください。
というわけで、ラフォレ家とは連絡を取っていないので、
王都の屋敷も使えないのですよ」
「そうなの……」
信じられない。ギルバードはラフォレ家と縁を切ったというの?
あんなにお義父様のことが大好きで、
お義父様のように国一番の剣士になるって言っていたのに。
あぁ、剣士じゃなくて、
魔術師になったのもその辺が理由なのかもしれない。
話が途切れた時、ちょうどギルバードが戻って来た。
めんどうな客だったのか疲れた顔をしてる。
「待たせてすまない。どこから旧演習場に俺がいると漏れたのか、
学生が訪ねてくるんだ。俺から魔術を教わりたいと言って」
「私は誰にも話していませんよ?」
「安心しろ。リディアーヌ嬢が話したとは思っていない。
リディアーヌ嬢は全属性だと隠しているだろう。
誰かに話せば自分の属性をばらすようなものだからな」
「それは……そうですね」
たしかにギルバードの授業が旧演習場だと話せば、
私がギルバードに教えられていると言うようなものだ。
王家と学園には報告しているので、知っているものはいるだろうけど、
自分から全属性持ちだと言いふらすような真似はしない。
「教員の誰かが教えたんだろう。
おかげで学生が頼みに来て面倒だ」
「それは…お疲れ様です」
アリアンヌ様とセザール王子がギルバードに頼んでいたのを思い出す。
あれほど露骨ではなくても、高位貴族だとちらつかせて頼みにくるものがいるのだろう。
カミルでは追い返せないというのはそういうことだと思う。
「それで、リディアーヌ嬢の今後の授業なのだが……」
「はい」
ギルバードがちらりとカミルを見るので、
他人のいる場では言いにくいことでも話すのかと思い先に言う。
「カミルさんがいても大丈夫ですよ」
「そうか。前回、全属性の魔術を出させたのには一応理由はある。
制御しているか、安定しているかを見たかったんだ」
「そうなんですか」
「ああ、やりすぎてしまったが……。
それで、リディアーヌ嬢の魔術を見て思ったのだが、
制御できているが安定しないのは……」
ギルバードは言いにくそうに、一度話を切って、深呼吸した。
「おそらく、隠しているんだろうと思う。
だが、大事なことなので聞かせてほしい。
全属性以外に属性を持っているんじゃないか?」
「え?」
まさかこんなにあっさりともう一つ属性に気がつかれるとは思っていなかった。
予想外の質問に、動きが止まる。
正直に答えていいのか迷う。私に光属性があることはお父様とトマスしか知らない。
屋敷の使用人にも知られないように、光属性の訓練は一切してこなかった。
「隠したいのであれば、俺もカミルも秘密にすると誓う」
「はい。私もここで聞いたことを誰にも話さないと誓います」
二人が真剣な顔で誓うのを見て、覚悟を決めた。
嘘をつくとは思っていない。ただ、巻き込むようで嫌だった。
「……私には光属性があります」
「やっぱり……どうして隠しているんだ?」
「聖女だと思われたくなかったので……。
教会と王家から再三の使いが来ていました。
私はそのどちらにも行く気がありませんでした」
「なるほど。わかった。大丈夫だ、秘密は守る」
二人とも私が教会と王家に行きたくないと理解してくれたようで、大きくうなずいた。
その言葉でほっとして、息をついた。
「無理に聞き出して悪かった。
だが、魔術を安定して使うためには大事なことだったんだ」
「安定して?」
「そうだ。リディアーヌ嬢は全属性の魔術を使いこなしていた。
制御できていただろう。だが、魔力自体は安定してない。
安定していない状態で無理やり制御しているから身体に負担がかかるんだ」
「そうなんですか」
どれだけ訓練しても安定しなかった。安定しなければその歪みは身体に影響する。
だからトマスには無茶をするなと言われてしまう。
「俺は全属性と闇属性を持っている。だからこそ理解できるんだ。
属性が増えると制御が難しくなるだろう?
それは、すべての属性を使いこなすまで安定しないからなんだ」
「え?」
「俺の感覚だと、すべての属性で中級魔術程度使いこなせるようにならないと、
ずっと安定しないままなんだ。
リディアーヌ嬢は光属性を訓練していないんじゃないか?」
「その通りです」
安定しなかった理由がわかって、納得してしまう。
それではいくら全属性を訓練しても無駄だったわけだ。
少しも前に進まない感じがしてずっと焦っていた。
「光属性を訓練しなかったのは、知られたくなかったからか。
……そうなるとここで訓練するのは難しいか」
「え?」
「この旧演習場は古くて、ところどころ柵が壊れている。
外から覗こうと思ったら覗けるんだ。人に見られてはいけないのだろう」
前回、必死だったからそこまで見ていなかった。
たしかに古い演習場だとは思った。
外から覗けるようになっていたとは気がつかなかった。
どうしようか。光属性を訓練しなければいつまでたっても安定しない。
この状態でギルバードに全属性の魔術を教わっても意味はない。
だけど、人に知られるのは……。
知られないように訓練することはできないんだろうか。
「あ」
「あ?」
一か所だけあった。この学園内で、私の力を隠せる場所。
そうだ、そうすれば何も問題ない。
「ギルバード先生、さっきカミルさんに聞いたのですが、
住む場所に困っているんですよね?」
「あ、ああ。確かに困ってはいるが、どうした?」
「先生とカミルさん、奥棟に住みませんか?」
「「は?」」
154
お気に入りに追加
2,775
あなたにおすすめの小説
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる