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22.秘密の共有

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「そうでした。知っていて当然でしたよね。
 ですが、ギルバード様はラフォレ家の嫡子を下りました」

「え?……どういうことなの?」

嫡子を下りるというのは、相続権を放棄するということだ。
貴族家から籍を抜いた状態に近い。
親が子に何かを強制することができなくなるかわり、
子は親に守られることもなくなる。

「学園に入る時にラフォレを出て、それから帰っていません。
 ギルバード様はラフォレ家を継ぐのを拒否したのです」

「……どうして」

「申し訳ありません。理由についてはお答えできません。
 気になるようでしたら、ギルバード様に聞いてみてください。
 というわけで、ラフォレ家とは連絡を取っていないので、
 王都の屋敷も使えないのですよ」

「そうなの……」

信じられない。ギルバードはラフォレ家と縁を切ったというの?
あんなにお義父様のことが大好きで、
お義父様のように国一番の剣士になるって言っていたのに。

あぁ、剣士じゃなくて、
魔術師になったのもその辺が理由なのかもしれない。

話が途切れた時、ちょうどギルバードが戻って来た。
めんどうな客だったのか疲れた顔をしてる。

「待たせてすまない。どこから旧演習場に俺がいると漏れたのか、
 学生が訪ねてくるんだ。俺から魔術を教わりたいと言って」

「私は誰にも話していませんよ?」

「安心しろ。リディアーヌ嬢が話したとは思っていない。
 リディアーヌ嬢は全属性だと隠しているだろう。
 誰かに話せば自分の属性をばらすようなものだからな」

「それは……そうですね」

たしかにギルバードの授業が旧演習場だと話せば、
私がギルバードに教えられていると言うようなものだ。
王家と学園には報告しているので、知っているものはいるだろうけど、
自分から全属性持ちだと言いふらすような真似はしない。

「教員の誰かが教えたんだろう。
 おかげで学生が頼みに来て面倒だ」

「それは…お疲れ様です」

アリアンヌ様とセザール王子がギルバードに頼んでいたのを思い出す。
あれほど露骨ではなくても、高位貴族だとちらつかせて頼みにくるものがいるのだろう。
カミルでは追い返せないというのはそういうことだと思う。

「それで、リディアーヌ嬢の今後の授業なのだが……」

「はい」

ギルバードがちらりとカミルを見るので、
他人のいる場では言いにくいことでも話すのかと思い先に言う。

「カミルさんがいても大丈夫ですよ」

「そうか。前回、全属性の魔術を出させたのには一応理由はある。
 制御しているか、安定しているかを見たかったんだ」

「そうなんですか」

「ああ、やりすぎてしまったが……。
 それで、リディアーヌ嬢の魔術を見て思ったのだが、
 制御できているが安定しないのは……」

ギルバードは言いにくそうに、一度話を切って、深呼吸した。

「おそらく、隠しているんだろうと思う。
 だが、大事なことなので聞かせてほしい。
 全属性以外に属性を持っているんじゃないか?」

「え?」

まさかこんなにあっさりともう一つ属性に気がつかれるとは思っていなかった。
予想外の質問に、動きが止まる。
正直に答えていいのか迷う。私に光属性があることはお父様とトマスしか知らない。
屋敷の使用人にも知られないように、光属性の訓練は一切してこなかった。

「隠したいのであれば、俺もカミルも秘密にすると誓う」

「はい。私もここで聞いたことを誰にも話さないと誓います」

二人が真剣な顔で誓うのを見て、覚悟を決めた。
嘘をつくとは思っていない。ただ、巻き込むようで嫌だった。

「……私には光属性があります」

「やっぱり……どうして隠しているんだ?」

「聖女だと思われたくなかったので……。
 教会と王家から再三の使いが来ていました。
 私はそのどちらにも行く気がありませんでした」

「なるほど。わかった。大丈夫だ、秘密は守る」

二人とも私が教会と王家に行きたくないと理解してくれたようで、大きくうなずいた。
その言葉でほっとして、息をついた。

「無理に聞き出して悪かった。
 だが、魔術を安定して使うためには大事なことだったんだ」

「安定して?」

「そうだ。リディアーヌ嬢は全属性の魔術を使いこなしていた。
 制御できていただろう。だが、魔力自体は安定してない。
 安定していない状態で無理やり制御しているから身体に負担がかかるんだ」

「そうなんですか」

どれだけ訓練しても安定しなかった。安定しなければその歪みは身体に影響する。
だからトマスには無茶をするなと言われてしまう。

「俺は全属性と闇属性を持っている。だからこそ理解できるんだ。
 属性が増えると制御が難しくなるだろう?
 それは、すべての属性を使いこなすまで安定しないからなんだ」

「え?」

「俺の感覚だと、すべての属性で中級魔術程度使いこなせるようにならないと、
 ずっと安定しないままなんだ。
 リディアーヌ嬢は光属性を訓練していないんじゃないか?」

「その通りです」

安定しなかった理由がわかって、納得してしまう。
それではいくら全属性を訓練しても無駄だったわけだ。
少しも前に進まない感じがしてずっと焦っていた。

「光属性を訓練しなかったのは、知られたくなかったからか。
 ……そうなるとここで訓練するのは難しいか」

「え?」

「この旧演習場は古くて、ところどころ柵が壊れている。
 外から覗こうと思ったら覗けるんだ。人に見られてはいけないのだろう」

前回、必死だったからそこまで見ていなかった。
たしかに古い演習場だとは思った。
外から覗けるようになっていたとは気がつかなかった。

どうしようか。光属性を訓練しなければいつまでたっても安定しない。
この状態でギルバードに全属性の魔術を教わっても意味はない。
だけど、人に知られるのは……。
知られないように訓練することはできないんだろうか。

「あ」

「あ?」

一か所だけあった。この学園内で、私の力を隠せる場所。
そうだ、そうすれば何も問題ない。

「ギルバード先生、さっきカミルさんに聞いたのですが、
 住む場所に困っているんですよね?」

「あ、ああ。確かに困ってはいるが、どうした?」

「先生とカミルさん、奥棟に住みませんか?」

「「は?」」


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