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14.昼休憩
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昼休憩に入り、馬車に乗って奥棟に戻る。
玄関前にはトマスとマールが心配そうな顔で待っていた。
「こんなとこで待っていなくてもいいのに」
「いいえ、リディアーヌ様が心配で……。大丈夫でしたか?」
「特に問題は無かったと思うわ。試験があったけど、全部書けたし」
「初日なのに試験ですか?」
マールが首をかしげているのを見て、試験は今年からだと言われたのを思い出す。
三年前に卒業したマールは受けていない。
「課題を送り返すのに誓約しない人がいたんですって。
今年から入学後に試験をやりなおすことにしたそうよ?」
「あぁ、そういうことですか。
私の時も上位教室の半分は不正だと言われていました。
高位貴族が下位教室だと恥ずかしいので、お金で教室を買うのだと」
「そんなことしたら授業についていけなくなるのにね」
食事室について席に着くと、向かい側に座ったトマスが笑っている。
「この学園の学力の低さは有名ですよ。
ここを卒業しても何も誇れないと言われているくらいですから。
優秀なものは二学年からエシェル王国の学園に留学するんです。
それで、向こうの学園を卒業して戻るのが一流だと言われていましたねぇ」
「それが一流だと言われても。恥ずかしくないのかしら。
自国の学園はダメだって認めるようなものじゃない?」
エシェル王国の学園の学力の高さは知っているけれど、
それでも留学して卒業するのが一流だっていうのはどうかと思う。
まぁ、不正して教室を上げようとする貴族が多いなら納得もするけれど。
「トマスも二学年から留学したの?」
そういえばトマスもエシェル王国の学園を卒業していたことを思い出した。
優秀なトマスはエシェル王国の学園を首席で卒業していたはずだ。
「いいえ、私は最初からエシェル王国の学園に入学しています。
リディアーヌ様に話したことが無かったですか?
マーラー家はもともとエシェルの王家に仕える医術師一族です。
先代夫人のブリジット王女がラルエット家に嫁ぐときに、
一緒に私の祖父が専属医術師としてついてきました。
マーラー家の分家として、それ以来ラルエット家に仕えています」
「あぁ、降嫁するお祖母様についてきたんだよね。
そっか、マーラー一族の本家はエシェルにいるのね?」
「ええ、そのため十歳になった時にエシェルに行き、伯父の弟子になりました。
父もそうでしたが、医術師になるために修行するんです。
エシェルの王宮に住んでマーラー家の指導を受け、
十五歳になった時に向こうの学園に入学しました。
卒業してリディアーヌ様につくことになって帰国したのです」
「そっか。まだ向こうにいたかった?」
私のせいで修行の途中で帰ってくることになったはず。
どっちにしてもラルエット家に帰ってくることに変わらないけど、
もう少し向こうで修行したかったとかないかな。
そう思って聞いたら、トマスは呆れたように笑った。
「まぁ、帰国した後でも指導は父から受けてますし問題はありません。
リディアーヌ様を診るのは私の役目です。
他の者に任せたら……心配で胃が壊れそうです」
「えー?なにそれ」
「熱があるのに暑いからと寝台の上で水魔術使おうとして水浸しにしたり、
木になった果実を取ろうと風魔術でご自分まで吹き飛ばされてしまったり……」
「あ……」
「他の者が担当ではリディアーヌ様を診れなかったでしょう」
「うぅ…」
心当たりがありすぎる。
動けなかった期間がつらすぎて、動けるようになった後ははしゃいで、
手が付けられないほど好き勝手していたはずだ。
マリエルと違ってリディアーヌは魔力が多く、うまく加減ができなかった。
そのせいもあって、屋敷の者には迷惑をかけていた。
トマスが医術師としてだけでなく、専属護衛になったのはそう言う理由だった。
同じ全属性の魔術師でなければ私を抑えられないだろうと。
「リディアーヌ様は、そんなにトマス先生を困らせていたのですか?」
「そんなことないわよ!?」
同じように呆れた声のマールに慌てて否定するけれど、
トマスはゆっくりと首を横に振った。
「ここ三年くらいはかなり大人しくなりましたからねぇ。
マールが知らないのも無理ありません」
「…そんなことないってばぁ」
否定する声が小さくなる。トマスがじとっとした目で見ているから嘘がつけない。
思い返せばトマスを困らせていた記憶しか思い出せない。
これ以上言っても自分が責められるだけだと思い、黙って食事をとることにした。
「そろそろ午後の授業の用意をいたしますが、
指定された授業場所はどちらでしたか?」
「あ、旧演習場だって」
「旧演習場ですか?そこは使われていないはずですけど……。
私が入学した時にはもう使っていませんでしたよ?」
マールが入学した時、もう六年も前に使われなくなっている演習場らしい。
封筒を取り出してトマスが確認しても、やっぱり旧演習場だと書かれている。
私が見間違えたわけではなさそうだ。
「きっとこれはあれです。他の学生を守るためですね。
リディアーヌ様の魔力暴走を恐れているのでしょう」
「え?私、魔力暴走なんてしたことないよ?」
玄関前にはトマスとマールが心配そうな顔で待っていた。
「こんなとこで待っていなくてもいいのに」
「いいえ、リディアーヌ様が心配で……。大丈夫でしたか?」
「特に問題は無かったと思うわ。試験があったけど、全部書けたし」
「初日なのに試験ですか?」
マールが首をかしげているのを見て、試験は今年からだと言われたのを思い出す。
三年前に卒業したマールは受けていない。
「課題を送り返すのに誓約しない人がいたんですって。
今年から入学後に試験をやりなおすことにしたそうよ?」
「あぁ、そういうことですか。
私の時も上位教室の半分は不正だと言われていました。
高位貴族が下位教室だと恥ずかしいので、お金で教室を買うのだと」
「そんなことしたら授業についていけなくなるのにね」
食事室について席に着くと、向かい側に座ったトマスが笑っている。
「この学園の学力の低さは有名ですよ。
ここを卒業しても何も誇れないと言われているくらいですから。
優秀なものは二学年からエシェル王国の学園に留学するんです。
それで、向こうの学園を卒業して戻るのが一流だと言われていましたねぇ」
「それが一流だと言われても。恥ずかしくないのかしら。
自国の学園はダメだって認めるようなものじゃない?」
エシェル王国の学園の学力の高さは知っているけれど、
それでも留学して卒業するのが一流だっていうのはどうかと思う。
まぁ、不正して教室を上げようとする貴族が多いなら納得もするけれど。
「トマスも二学年から留学したの?」
そういえばトマスもエシェル王国の学園を卒業していたことを思い出した。
優秀なトマスはエシェル王国の学園を首席で卒業していたはずだ。
「いいえ、私は最初からエシェル王国の学園に入学しています。
リディアーヌ様に話したことが無かったですか?
マーラー家はもともとエシェルの王家に仕える医術師一族です。
先代夫人のブリジット王女がラルエット家に嫁ぐときに、
一緒に私の祖父が専属医術師としてついてきました。
マーラー家の分家として、それ以来ラルエット家に仕えています」
「あぁ、降嫁するお祖母様についてきたんだよね。
そっか、マーラー一族の本家はエシェルにいるのね?」
「ええ、そのため十歳になった時にエシェルに行き、伯父の弟子になりました。
父もそうでしたが、医術師になるために修行するんです。
エシェルの王宮に住んでマーラー家の指導を受け、
十五歳になった時に向こうの学園に入学しました。
卒業してリディアーヌ様につくことになって帰国したのです」
「そっか。まだ向こうにいたかった?」
私のせいで修行の途中で帰ってくることになったはず。
どっちにしてもラルエット家に帰ってくることに変わらないけど、
もう少し向こうで修行したかったとかないかな。
そう思って聞いたら、トマスは呆れたように笑った。
「まぁ、帰国した後でも指導は父から受けてますし問題はありません。
リディアーヌ様を診るのは私の役目です。
他の者に任せたら……心配で胃が壊れそうです」
「えー?なにそれ」
「熱があるのに暑いからと寝台の上で水魔術使おうとして水浸しにしたり、
木になった果実を取ろうと風魔術でご自分まで吹き飛ばされてしまったり……」
「あ……」
「他の者が担当ではリディアーヌ様を診れなかったでしょう」
「うぅ…」
心当たりがありすぎる。
動けなかった期間がつらすぎて、動けるようになった後ははしゃいで、
手が付けられないほど好き勝手していたはずだ。
マリエルと違ってリディアーヌは魔力が多く、うまく加減ができなかった。
そのせいもあって、屋敷の者には迷惑をかけていた。
トマスが医術師としてだけでなく、専属護衛になったのはそう言う理由だった。
同じ全属性の魔術師でなければ私を抑えられないだろうと。
「リディアーヌ様は、そんなにトマス先生を困らせていたのですか?」
「そんなことないわよ!?」
同じように呆れた声のマールに慌てて否定するけれど、
トマスはゆっくりと首を横に振った。
「ここ三年くらいはかなり大人しくなりましたからねぇ。
マールが知らないのも無理ありません」
「…そんなことないってばぁ」
否定する声が小さくなる。トマスがじとっとした目で見ているから嘘がつけない。
思い返せばトマスを困らせていた記憶しか思い出せない。
これ以上言っても自分が責められるだけだと思い、黙って食事をとることにした。
「そろそろ午後の授業の用意をいたしますが、
指定された授業場所はどちらでしたか?」
「あ、旧演習場だって」
「旧演習場ですか?そこは使われていないはずですけど……。
私が入学した時にはもう使っていませんでしたよ?」
マールが入学した時、もう六年も前に使われなくなっている演習場らしい。
封筒を取り出してトマスが確認しても、やっぱり旧演習場だと書かれている。
私が見間違えたわけではなさそうだ。
「きっとこれはあれです。他の学生を守るためですね。
リディアーヌ様の魔力暴走を恐れているのでしょう」
「え?私、魔力暴走なんてしたことないよ?」
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