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番外編

番外編2 カオ 幸せ

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しゅんとしてしまったミマをなぐさめるつもりで頭をなでた。
一緒に暮らしている子どもたちをなぐさめるときにするように。
男とは違う髪の柔らかさに一瞬ドキッとしたけれど、優しく頭をなでる。
そうしたら少しは気が楽になるかと思っていたが、
ミマの顔が真っ赤になっていた。

「あれ?」

「………」

耳も首も、なんだったら、さっき握っていた手も真っ赤になったと思ったら、
ミマは何も言わずに走り去っていった。

「…なんだ?」

「カオ……あなた、どこの生まれでした?」

「え?あ、ケルツさん。生まれって、出身ですか?」

「そうです」

「俺はもともとは王都のはじっこです。
 両親が商人で、エジェンに向かっていた時に盗賊に襲われて。
 俺だけ助かって、エジェンの孤児院に預けられたんです」

「あぁ、なるほど。ルフォールに来て四年でしたっけ。
 ルフォールの女性とおつきあいしたことは?」

「ええ?ないです。子どもたちもいるし、そんな気にならなくて。
 エジェンにいた時には、少しだけつきあっていたことはありますけど……って、
 これは何の質問なんですか?」

どこにいたのか急に現れたケルツさんに質問攻めにされて、何が起きたのかわからない。
今までこの屋敷に出入りして、個人的なことを聞かれたことは無かったのに。
疑問に思っていたら、ケルツさんが大きなため息をついた。

「ルフォールでは、異性の両手を握り締めるのは求婚を意味します」

「は?」

「相手の頭や髪を撫でるという行為は、
 あなたを愛していると言っているようなものです」

「はぁ?」

ケルツさんから詳しく話を聞いて、思わずその場で頭を抱えてしゃがみこむ。
なんてことをしてしまったんだ。そりゃ、あんなに真っ赤な顔になるよな。

「カオ、あなたミマのことはどう思っているんですか?」

「どうって……可愛いと思っています、けど……」

そりゃ、可愛いに決まっている。いつも必死な顔して一生懸命で。
年上のリールにからかわれて、泣きそうになってるのを見かけたこともある。
頬をふくらまして怒っているのが可愛くて、でもきっと言ったら怒られるだろうなって。

「では、次からミマにさわるときは、
 ちゃんと求婚だと理解してからさわってくださいね」

「え?」

「え?ではないですよ。結婚する気がなければやめてください」

「いや、俺なんかが求婚していいんですか?
 俺、平民ですけど。しかも冒険者で」

「何を言っているんですか?この屋敷の使用人は全部、平民ですよ?」

「いや、そうは言われても」

たしかに平民なのかもしれないけれど、この屋敷に勤めているものは、
代々この屋敷に勤めている一族ばかりだと聞いている。
それにケルツさんと何人かは、もともとは他国の貴族出身だと言うのも聞いた。
同じ平民とはいえ、格が違う。
俺のような孤児出身の冒険者が求婚していいはずはない。

そう思ったけど、可愛いって意識してしまったらもう無理だった。
おそるおそる俺に近づいてくるミマが可愛くて、思わず逃げないように抱きしめてしまって。
あぁ、求婚なんだよなってわかっていたけれど、
怒るミマの頭をなでるのが癖になって。

気がついたら、もう離せなくなった。

俺なんかと結婚できるわけがない。
孤児を三人も抱えて、冒険者なんてやっている俺では。

少なくとも、この三人を独り立ちさせないうちには、なんともならん。
そう思って、三人が十五歳になる時にケルツさんに相談することにした。
この三人は冒険者に向いていない。手を離した後、すぐに死なれるのは嫌だ。
リオは商人の家に、ランとムウは農家に養子に出せないだろうか、と。

それから急展開して、三人だけじゃなく、俺も辺境伯の屋敷で働くことになった。
家を引き払い、荷物を持って屋敷へと引っ越す。
三人はそれぞれ個室を与えらえ、
俺は本邸ではなく、同じ敷地に建てられている使用人棟に案内された。
そこは小さな家くらいの広さがある部屋だった。

「ケルツさん、俺はこんなに広くなくても」

「何言ってるんですか。カオのためじゃないですよ」

「え?」

「ミマもすぐにここに移ることになるでしょう?
 リゼット様の指示ですよ。夫婦として生活できる広さの部屋を与えるようにと」

「夫婦!?」

確かに、住む場所の問題がなんとかなれば結婚するつもりだった。
だけど、あれからまだミマとゆっくりと話ができていない。

「何か、問題でも?」

「いえ、大丈夫です。この部屋はありがたく使わせていただきます。
 ただ、ちゃんとミマに求婚していなかったと思っただけです」

「あぁ、そう言えば。カオも言葉で求婚しないと安心できないですか」

「え?」

「ルフォールでは結婚してください、などとあまり言わないのですよ。
 まぁ、言ったほうが安心するのかもしれませんが」

あぁ、そういえば手を握るのが求婚だって言ってた。
本当に言葉で伝えなくてもわかるのか。

「ほら、ミマが来ましたよ。では、私は仕事に戻ります。
 カオの仕事は明後日からだそうです。それでは」

「あ、ありがとうございます」

ケルツさんが部屋から出て行くとすぐに、ミマが部屋に入ってくる。
ちょっと不機嫌そうなのは、さっきの話を聞いていたからか。

「……求婚、されてなかった?もしかして」

「あぁ、あれはなんていうのか。念のため?」

「念のため?」

疑うような目で見上げて来るけれど、その不機嫌そうな顔も可愛いだけだ。
もう仕方ないなと思いながら抱きしめると、髪のすきまから見えた首が赤くなる。
何度もふれているのに慣れないの、ホント、可愛い。

「ずっと、求婚していたよ。
 だけど、俺は王都生まれだから、言葉でも確認したくなるんだ。
 ミマ、俺と結婚してくれる?」

「カオは私で良いの?」

「ん?なんで?」

「カオがもてるの知ってる。女性冒険者たちが奪い合いしているって。
 だから、本当に私でいいのかなって」

知ってたのか。確かに女性冒険者たちにはもてる。
ただし、理由は子どもを産んだら俺が育ててくれそうだから。
女性冒険者は自由を好むものが多い。子どもを産んでも育てないこともある。
だから、ちゃんと面倒を見てくれそうな俺はもてるんだけど。
そんな理由でもててもお断りだ。

「俺はもてたとしても、冒険者とつきあう気はなかったよ。
 声をかけたのも、抱きしめたのも、求婚したのもミマだけだ」

「本当?」

「うん、本当」

女性経験がないわけじゃない。ただ、それを思い出すと苦い。
孤児院から娼婦になる女の子は多い。
初めては客じゃなくカオに抱かれたい、だからお願い。
そう言われて、何度か相手したことがあるだけだ。
店に引き取られるまでの少しの間だけの恋人。
それほど一緒にいられることもなく、娼婦となった後は会うことも無い。

あの子たちを可哀そうだと思うけれど、可愛いとは思えなかった。
こんな風に抱きしめて、大事にしたいと思うことも。

「俺はミマがいい。
 だから、この部屋で一緒に暮らしてくれるか?」

「うん。今日から一緒にいてもいい?」

「もちろん」

顔をあげさせると、少しだけ泣きそうな顔をしている。
うれしいのかな。だとしても、泣きやませるのは俺の仕事だ。
くちびるを重ねたら、ミマが首に抱き着いてくる。
そのまま抱き上げて、部屋の奥へと連れて行った。

この部屋に入った時点で、もう夫婦だよね。
ミマを抱くのは初めてじゃないけれど、俺のものだと思ったら我慢できなかった。

疲れ切って眠るミマに、もう時間を気にしないでいいんだと思う。
無理やり起こして眠そうなミマを送って帰らせることもない。
ずっと、このまま二人で眠れる。
この幸せを与えられたことに感謝して、ミマを抱きしめたまま眠った。

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