神の審判でやり直しさせられています

gacchi

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7章 運命の日

8.どうして

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叫ぶようなエリザベスにどう対応していいのか困っていると、
無数の足音がして、護衛騎士たちが駆け付けた。

「先ほどの件と同じようなものだ。
 こちらもきちんと調べてくれ。」

「わかりました!」

令息たちを護衛騎士に引き渡し、レイニードがこちらに向かってくる。
さすがにエリザベスのこんな姿を見せるのはと思い、
手でこちらに来ないように合図をする。
だけど、レイニードは気にせずに私のところへと来て、私の手を取った。

「帰ろう。
 もう俺たちにできることは無いよ。
 あとは任せて帰ろう。」

すぐ近くにエリザベスがいるのに、
それに全く気が付いていないかのような行動に戸惑ってしまう。
それはエリザベスも同じだったようで、
レイニードに見てももらえないことに呆然とした顔になった。

「レイニード様…助けに来てくれたのでは?」

まるでレイニードにすがるような、そんなか細い声だった。
ボロボロになった赤いドレスを両腕で隠し、涙目で訴えてくる。
きっと誰もがエリザベスのこんな様子を見たら同情して寄り添う、そんな気がした。

…レイニードを盗らないで。
こんな傷ついたエリザベス相手にそんなことを思う私はひどいかもしれない。
それでも、レイニードを渡したくなくて、つないだ手に力が入る。

「…俺はエミリアが助けたいっていうから来ただけだ。
 ここにいるのがお前じゃなくても一緒だった。
 はっきり言って、自業自得だろうと思ってる。
 …お前がエミリアやライニードに何をしてきたのか、よく思い出すんだな。」

ちらりとも見ずにそう言うと、レイニードは私の手を引いて歩き始めた。
まだ女官も来ていないのに、この暗闇の中に一人で置いていくなんて。
だけど、レイニードが怒っているのがわかり、そのまま素直に歩き出した。

「…待って!こんなところに一人にしないで!お願い!」

「すぐに女官が来るだろう。」

腰が抜けているのか立ち上がれないエリザベスをそのままに、
レイニードはどんどん歩いていく。
ようやく王宮近くまで来たときに女官たちとすれ違った。

「奥に!神の審判の近くに令嬢が一人います!」

「わかっておりますので、安心してください。
 この後のことはこちらで…。」

「お願いします。」

女官たちに頼めたことでほっとして、王宮の通路へと向かった。
王宮が近くなって明るくなってきたことで、レイニードの表情がようやく見えた。

「…レイニード、どうしたの?」

「あぁ、ごめん。エミリアに怒ってたわけじゃない。
 俺たちはできることはしたと思う。
 ただ、なんていうか怒りのぶつけ先がなくて。
 エリザベスの勝手な言いようにも腹が立つし、
 こんな騒動をおこしたビクトリア王女にも腹が立って。」

「…それはそうね。」

確かに私の中にも怒りの感情が残っていたから、素直に同意する。
ため息を思わずつくと、レイニードが私を見ていた。

「走ったから髪が乱れちゃったね…直すから少しじっとしていて。」

「うん。ありがとう。」

あれだけ走ったのだから乱れていても当然だ。
レイニードが手櫛で直してくれるのをじっと待っていた。
ちゅっと最後にレイニードが口づけして離れ、一瞬で顔に熱が集まる。

「レイニード!こんなところで!?」

「大丈夫、誰も見ていないよ。
 髪も綺麗に直ったし、ライニードのところへ行こうか。
 多分、急にいなくなったから心配していると思う。」

「…ええ。」

まだ熱い頬を手で軽く押さえながら広間へと向かう。
戻ったらライニードはジョージア様と話していて、ビクトリア様はいなかった。
令嬢たちが歓談している場にも見当たらない。
良くも悪くも目立つビクトリア様だ。
この広間にいるのなら見つけられるはずだ。
まさか、もう帰ったのだろうか?


「ライニード。ビクトリア様は帰ったのか?」

「ああ、さっき女官が呼びに来たと思ったら広間から出て行ったよ。
 ジョージア様、何かあったかわかりますか?」

「…いや、その時は俺はそばにいなかったからわからないが…。
 広間まで女官が呼びに来るのは…普通ないぞ?」

「ジョージア様もわからないのですか…。」

少なくともライニードに直接何かすることはないということだろうか。
夜会ももう終わりに近い。
一部の貴族たちは混む前に帰ろうと帰り支度をし始めていた。


「ライニード、最後まで残るのか?」

「一応、ジョージア様がいる以上は帰れないからね。」

「おい…それは俺に早く退出しろって言ってるよな?
 まぁ、いいよ。そろそろ部屋に戻るよ。
 リリーナも帰ったし、あとは用事もないし。」

「だそうだ。ジョージア様を部屋に送ったら帰るよ。
 レイニードたちもそろそろ帰る時間だろう?」

「…そうだな。俺たちも帰ることにするよ。」

長かった夜会も終わる。
五年越しに、ようやく終わることができる。

そう思って馬車に乗り込もうとした私たちに見えたのは、火事を知らせる煙だった。




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