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42.祝福を

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「この国に嫁ぐの、嫌になった?
 シャハルには追いかけられるし、ジャニスには罵倒される。
 もうこれからは学園も静かになると思うけど…。つらい思いばかりさせてごめん。」


別邸に戻って来て数日、ようやく魔力が全て回復した。
今なら私の意思一つで婚姻が完了できる。
それに気が付いているジルが少し離れた場所から、寝台の上で待つ私に問いかける。


「どうして寝台に入ってこないの?」


「近づくと抱きしめちゃうから…。自動的に。」

自動的だったんだ。それは知らなかった。
すごく自然に抱きしめられるし、そばにいるなぁと思ってた。
その答えがおかしくて、思わず笑ってしまう。

「来て?自動的に抱きしめて?」

そう言うと大人しく寝台にもぐりこんでくる。
それと同時に首の下に手が回され、腕枕状態でぎゅっと抱きしめられる。


「シャハル王子やジャニス王女は大変だったけど、
 ジルに嫁ぐのが嫌になったことは無いよ?」

「本当?」

「うん。」

額をくっつけながら話すと、すぐにキスされそうになって、首筋に抱き着いた。
キスしたいけど、まずはちゃんと話したい。
ジルはキスがよけられたとつぶやいてショックを受けている。
笑いそうになるけど、耳元でささやくように話をつづけた。

「私が魔力を流したら、もう結婚したことになるんでしょ?
 そうしたらもう無かったことにはできないのよね?」

「そうだよ。だからリアが後悔しないと思ったら流して。」

「ジルは、後悔しない?」

驚いたように視線を合わされる。
思わず目をそらそうとして、両頬に手を添えられた。
すぐ近くにジルの目がある。眼鏡のない、私だけが見れる素顔のジル。
じっと目を合わせてくるから、そらして逃げたくなる。

「怖がってる?リア?」

「…怖いの。ジルが後悔するんじゃないかって。」

ここまで来ても自信が無かった。
もし、一度でも、ちょっとでもジルが後悔するようなことがあれば、
私はもう立ち直れないと思った。

魔力暴走のせいでジルの魔力を受け取ってしまった。
意識がない死にかけた私を助けるために、
あまり考えないで魔力を流してくれたのだろう。

でも今は?誰も死にかけてない。
冷静になった時に、それでも私で良かったと思ってくれるんだろうか。
怖かった。ジルを自分のものにしてしまって、本当に良いんだろうかと。

「その怖い気持ちも、俺に全部くれないか?」

「え?」

「魔力って、感情も一緒に流れてくるんだ。
 俺はリアの気持ちも全部受け止めたい。
 良い感情だけじゃなくて、怖いとか不安だとか。
 そういうのも全部ひっくるめて、俺のものになってほしい。」

「…いいの?」

「うん。いいんだよ。」

抱き着いて、そのままくちびるを合わせる。
どこから流れて行くのかわからないくらい、全身で魔力を伝える。
好きだって思いも、今までのつらかった記憶も、これから一緒にいたい希望も。
全部全部流れて、どこまでも続いていくように流れて。
全てを受けとめてもらえたと思った時、魔力の流れが止まった。

「終わった?」

「終わったよ。リア、ありがとう。うれしい。」

「うん。こちらこそ、ありがとう。」

そのままもう一度キスしたら、もう止まらなかった。
婚姻するまではとジルが我慢してくれていたけれど、もう我慢はいらない。
キスしたくちびるは離さずに、夜着が脱がされて行く。
気が付いたらお互いに裸で、言葉は交わさなかったけど、
求められているのがわかってうなずいた。

もうすべてをジルのものにしてほしい。
強く抱きしめられ、ぎゅっと目を閉じた。





魔力交換したらしばらくは顔を見せられないって、こういうことだったんだ。
気が付いたら三日が過ぎていて、またミトに心配をかけてしまっていた。
一応ミトはリンとファンから説明を受けていたようだけど、
レミアス国とは違う習慣に信じられなかったようだ。


「まだ不安がある?」

「ううん、大丈夫。」

魔力交換したせいなのか、不安や怖さが薄れていた。
もしかしたら本当にジルが持って行ってくれたのかもしれない。
ジルが国王になるのか宰相になるのか、もうどちらでも良かった。
二人でいれば、何とかなると思えた。

ちょっとだけ心配そうなジルに微笑んで、自分から飛びつくように抱きしめた。

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