上 下
17 / 42

17.回復するまで

しおりを挟む
「…。」

魔力を送り続けて丸一日が過ぎ、そろそろ半分近くまで魔力が送られているはず。
器が壊れていなければの話だが、半分近くまであれば意識が戻ってもおかしくない。
顔色を確認しつつ魔力を送っていると、リアが少し動いた気がした。
ほんの少しだけだけど、身体が震えた気がした。リアの口が動いている?

い・や?

あぁ、シャハルから抵抗しようとしているんだ。
脱がされてはいなかったが、それでも何もされていないとは思えない。
心に傷を負ってしまっていないか、それも不安だ。

「リア、大丈夫だ。もう大丈夫だよ。
 一緒にいるのは俺だよ。抱きしめているのは俺だから安心して。」

聞こえていなくてもいい。
少しでもリアに届いたらと思って、ささやくように声をかけ続けた。
安心してほしい。俺の腕の中だってわかってほしい。

しばらく話しかけると、静かな寝息が聞こえた。
魔力が失われている間は生命活動を限界まで休ませている状態だ。
それが静かに身体が動き出したのを感じて、危険な状態を脱したのがわかった。
よかった。少なくともこれで死ぬことは無い。

リアの目が覚めたのは、魔力暴走から一日半が過ぎた朝になってからだった。

「…ん?」

「…リア?目が覚めた?」

「ジル…私どうしたの?身体が動かない…。」

目が覚めたのは良いが、身体が動くようになるにはまだ時間がかるだろう。
下手に動こうとされても困るので、静かに待つように説明しなければならない。

「リアは魔力暴走を起こしたんだ。わかる?
 リアの中の魔力がほとんどない状態に陥ってしまった。
 死にかけてたんだ。あのままなら間違いなく死んでただろう。」

「魔力暴走?」

「シャハルから逃げようとしたんだろう?
 無事でよかった…。」

シャハルの言葉でぴくっと反応するのがわかった。
顔色が悪い。嫌なことを思い出してしまったのかもしれない。

「リアがあの時何があったのかは、もう少し後から聞くよ。
 とりあえず俺がリアを助けだした時には制服の乱れもないし、
 リアが気を失ってから何かあったことは無いから安心して。」

そう言うと少しは不安が消えたのだろう。
こわばった顔が柔らかくなったように感じた。

「今は俺が魔力を送ってる。
 リアが目を覚ましたってことは、半分近くまで魔力が戻ったんだと思う。
 そうすると俺の魔力も半分近くになってるはずだから、ちょっと待ってて。
 リンに魔力回復薬を頼んでたの取ってくる。
 隣の部屋だからすぐ戻るよ、待ってて。」

身体を離すと、自分の半身を割かれるような喪失感があった。
同じように感じたのか、リアが悲しそうな顔になった。ごめん、すぐ戻るよ。
急いで寝台から降りて眼鏡をかけ隣の部屋に声をかける。
部屋の鍵を開けると、すぐそこにリンが魔力回復薬を持って待機していた。

「とりあえず3本用意しました。
 これでお二人とも八割がた回復できると思います。
 回復したらすぐさま大公の別邸のほうに移るように指示されました。」

「わかった。回復したら顔出す。また待機してて。」

魔力回復薬の瓶を3本受け取って、すぐ寝台へ戻る。
寝台の横の机に瓶2本と眼鏡を置いて、1本はその場で飲み干した。
すぐさま魔力が回復していくのを感じながらリアの横に滑り込むように入って、
また身体全部を抱きかかえるようにして魔力を流す。
リアにふれた瞬間、リアがふわっと微笑んだのが見えて嬉しくなる。
俺がふれるのを待っていたように見えて、
リアが俺と同じように感じてくれたのかと思ってしまう。

「リア、魔力が八割戻ったら別邸に移動するって。
 それまで、あと半日以上はかかるかな…。」

「ん。わかった…。」

流れてくる魔力に半分酔っている感覚なのかもしれない。
他人の魔力を一方的に受け取るなんて、普通は経験できないはずだ。
俺もまさかこんな風に魔力を受け取ってもらうことになるとは思わなかった。
そこまで考えて、リアに説明していなかったことを思い出して、少し後悔した。
どうしようか。今言うのは反則だろう。でも、他に方法なかったよな…。
少し迷ったが、リアには全部説明することにした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

王城の廊下で浮気を発見した結果、侍女の私に溺愛が待ってました

メカ喜楽直人
恋愛
上級侍女のシンシア・ハート伯爵令嬢は、婿入り予定の婚約者が就職浪人を続けている為に婚姻を先延ばしにしていた。 「彼にもプライドというものがあるから」物わかりのいい顔をして三年。すっかり職場では次代のお局様扱いを受けるようになってしまった。 この春、ついに婚約者が王城内で仕事を得ることができたので、これで結婚が本格的に進むと思ったが、本人が話し合いの席に来ない。 仕方がなしに婚約者のいる区画へと足を運んだシンシアは、途中の廊下の隅で婚約者が愛らしい令嬢とくちづけを交わしている所に出くわしてしまったのだった。 そんな窮地から救ってくれたのは、王弟で王国最強と謳われる白竜騎士団の騎士団長だった。 「私の名を、貴女への求婚者名簿の一番上へ記す栄誉を与えて欲しい」

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

奥様はエリート文官

神田柊子
恋愛
【2024/6/19:完結しました】 王太子の筆頭補佐官を務めていたアニエスは、待望の第一子を妊娠中の王太子妃の不安解消のために退官させられ、辺境伯との婚姻の王命を受ける。 辺境伯領では自由に領地経営ができるのではと考えたアニエスは、辺境伯に嫁ぐことにした。 初対面で迎えた結婚式、そして初夜。先に寝ている辺境伯フィリップを見て、アニエスは「これは『君を愛することはない』なのかしら?」と人気の恋愛小説を思い出す。 さらに、辺境伯領には問題も多く・・・。 見た目は可憐なバリキャリ奥様と、片思いをこじらせてきた騎士の旦那様。王命で結婚した夫婦の話。 ----- 西洋風異世界。転移・転生なし。 三人称。視点は予告なく変わります。 ----- ※R15は念のためです。 ※小説家になろう様にも掲載中。 【2024/6/10:HOTランキング女性向け1位にランクインしました!ありがとうございます】

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

運命の番なのに、炎帝陛下に全力で避けられています

四馬㋟
恋愛
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...