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3.留学の理由

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小屋の裏側は芝生になっていて、思ったよりも居心地は良さそうだった。
だけど、こんなところに令息が一人でいる理由はなんだろう?

「ああ。午前中は出なくていい科目だったから、ここで勉強していたんだ。」

「勉強?」

見ると、彼の横には本が数冊と眼鏡が置いてあった。
本当にここで勉強していたらしい。
こんな所じゃなくて図書室にでも行けばいいのに。


「…そういえば、さっき目を手で押さえていたのはどうして?
 私がぶつかったせいでどこか痛めてない?」

「ああ、目を押さえていたのは違う理由。
 …まさかこんなところで出会えるとは…。
 ところで、さっきこの国に来たら静かに勉強ができると思ってたって言ったか?」

途中で男性の話すことが小声で聞こえにくいところがあったけど、
それよりも先ほど私がつぶやいた愚痴をしっかり聞かれていたことに驚いた。

「…そうよ。レミアスにいた時は勉強どころじゃなくて。
 ちょっと嫌がらせされたり、本を隠されたりしてたから。」

「それだけの理由で留学?しかも最終学年に?」

シャハル王子と同じ教室ということで最終学年だとわかったのだろう。
同盟国とはいえ、留学で途中編入してくる令嬢はいなかったはずだ。
それもそのはず。この留学はおまけなのだから。

「恥ずかしい話になるのだけど、義妹が私のことが大嫌いみたいで。
 私に婚約話が来ると、決まる前にその男性を誘惑しに行ってしまうの。
 おまけに去年学園に入学してきたら学園内で男性をはべらかすようになって、
 私に近づく者に嫌がらせをするようになってしまった。
 このままだと婚約者が見つからないと心配したお婆様が、
 この留学の話を持ってきてくださったのよ。婚約者をこの国で探すようにって。
 私もあのままでは勉強どころじゃないから、留学の話を受けたのよ。
 …なのに、初日からこんなことに。
 もうレミアスに帰った方がいいのかもしれないわ。」

期待してきた初日だというのに、この状態だ。
授業だって一時間しか受けていないのに。

「シャハルが声をかけてきたきっかけは?」

「…こんな時期にレミアスから留学してきたのは、
 婚約者を探しに来たんだろう?
 おとなしく可愛がられるのであれば婚約してやってもいいぞと…。」

「…婚約者を探しに来たんだよな?」

ひょろ長く細い身体にいやらしそうな細い目。
私の身体を舐め回すように見ては笑いを浮かべる薄いくちびる。
拒まれることなんて一切考えもしなかっただろう傲慢さ。
腕を掴まれた時の気持ち悪さを思い出し、ぶるっと身体が震える。


「あんな王子は嫌よ。絶対に、嫌。
 どうして言うこと聞かないといけないのよ。
 初対面の令嬢を個室に連れ込もうとするなんて、どうかしてるわ!」

「あーなるほどね。それは嫌がるよな。」

「そうよ…普通の人から普通に申し込んでもらえたら、私だって考えるのに。
 あんな風に人の話も聞かない人となんて結婚したくないわ。
 でも、王子なのよね?周りの人も誰も止めてくれなくて。
 …もう帰るしかないんだわ。」

せっかく来たのに。すごく楽しみにしてたのに。
この国はレミアスよりも魔術の授業が高度だって聞いて、すごく期待してたのに。
もう帰らなきゃいけないんだ。また義妹の嫌がらせに耐えなきゃいけないんだ。
そう思ったら涙がぽろぽろ落ちてきて止まらなくなった。

「そう落ち込むなよ。」

そう言うと制服の上着から取り出したハンカチを渡してくれた。
初対面でぶつかって倒しちゃったのに、愚痴も聞いてくれて、良い人なのかな。
宰相の息子だっていうし冷静な人…は、抱きしめたりしないか。

「俺が助けようか?」
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