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37.クレア
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四日後、私とルークは後宮に来ていた。
竜化していない私は秘術中は近くにいないほうがいいと言われたからだ。
あの執務室での話の後、竜石はラディに預けた。
竜石からクレアを呼び出している間、私の魔力を消費し続けているため、
私の成長を遅らせている可能性があるとハンスに言われたためだ。
多少遅れてもいいと思ったけれど、ルークが嫌がったのと、
ラディが竜石から離れられそうになかったこともある。
クレアも納得し、ラディに任せることになった。
後宮にいるクリスタ様の部屋を訪ねると、
ちょうどババーリ国から手紙が届いたところだった。
国にいる恋人と手紙のやり取りができるようになったため、
不安もなくなり帰国するのを楽しみにしている。
そんなに楽しみならすぐに帰ってもらってもと思ったけれど、
それはルークに止められた。
満期を迎えずに後宮を出ることは妃候補として失格だったということになり、
先に国に帰らせられたコリンヌ様と同じように思われてしまう。
それに、クリスタ様はこの後宮で満期まで勤め上げた最後の妃候補になる。
それはとても名誉なことだから、最後までここにいるべきなのだとか。
説明を聞けば納得できるものだし、
クリスタ様は楽しそうに後宮生活を送っている。
あと九か月ほど。それほど待つのも苦じゃないだろう。
もう一人の妃候補デリア様は相変わらず慎ましく生活している。
後宮の解体を告げた時には泣き出したデリア様だが、
あれ以来そんなことはなく、淡々と過ごしているように見える。
覚悟を決めたというか、あきらめているというか。
帰りたくはないのだろうけど。
二人の妃候補のご機嫌伺いを終え、そろそろ時間かなと思ったら、
本宮のほうから異様な竜気を感じた。
竜王様の本気の竜気よりも圧倒的な力。
結界を張るよりも先にルークに抱きしめられる。
「なに、これ」
「……俺もこんなのは初めてだ。
まさかここまで強いとは」
「ラディってすごかったんだ」
いつも明るくのんびりしているようなラディからは想像できない。
「十年前、先の竜王様はラディに継がせるつもりだった」
「え?竜王様じゃなく?」
「ラディの方が竜気が強い。まるでアーロン様のようだと」
「アーロンのよう」
竜王になるのが竜王様じゃなくアーロンのはずだったとは聞いた。
「だけど、ラディはその少し前から番の気配を感じるようになっていた」
「十年前……私がクレアを呼び出したのが十三年前だった」
「それで気配に気がついたんだろう。
竜王国の外に行きたがるラディを先の竜王様は止めた。
お前まで帰って来なくなるのかと」
「あぁ、アーロンみたいになるのが嫌だったんだ」
息子がいなくなったから戦争を起こすような人だ。
ラディまで失いたくなかった気持ちはわからないでもない。
「それを知った竜王様が代わりに竜王になると言い出した。
ラディは番を連れて戻ってくると誓約し、周辺国を回る仕事についた。
竜王様は次の竜王にラディを指名するはずだ。
その前に番を見つけて安定してほしかったんだと思う」
「ラディが次の竜王様か。じゃあ、クレアは竜王の妃になるんだね」
「そうだな」
話しているうちに竜気が消えた。
秘術が終わった?
「終わったようだな。よし、戻ろう」
「うん」
急いで本宮に戻り、クレアのために用意された部屋に向かう。
ドアをノックするとハンスが出てくる。
「ああ、リディ様。終わりましたよ」
「クレアは!?」
「ご無事です。ただ、竜熱になったようです。
意識が戻るまで少し時間がかかるかもしれません」
「え?」
「リディ様と同じです。今まで竜気を浴びてなかったのに、
一度にこんなたくさん竜気を浴びて、クレア様の竜気が目覚めたのでしょう」
部屋のベッドにはクレアが寝かされていた。
熱のせいか、顔が赤くなってうなされている。
ドレスのまま寝かされているけど、
百年前のドレスは厚地で着心地が悪そうに見える。
「ハンス、クレアを着替えさせてもいい?
ドレス姿じゃ苦しいと思うの」
「お一人で大丈夫ですか?」
「問題ないわ」
「わかりました。では、私たちは部屋から出ましょう」
ハンスとルークは部屋から出て行こうとしているのに、
ラディはクレアが寝ているベッドの前に立ったまま。
「ラディ、一度外に出てて」
「……んぁ?」
「クレアのドレスを着替えさせるから。
いくら番でも許可なく着替えをのぞいたらクレアは怒ると思うわよ」
「え?あ、着替えか!わかった!」
クレアに見とれて動けなかったらしいラディは、
慌てて部屋から出ていく。
クレアは竜熱のせいもあるのか、まだ意識がない。
こういう時、魔術を使えてよかったと思う。
いくらなんでも一人で意識がないクレアを着替えさせるのは無理だ。
首元までしっかり隠した夜着に着替えさせ、ベッドに横たわらせる。
毛布をかぶせたら、ラディだけ部屋に呼び戻す。
「たまに様子を見に来るから。看病するんでしょう?」
「もちろんだ」
「手は出しちゃダメだからね!」
「……わかってる」
クレアも私と同じ、先祖返りだった。
これから竜気に目覚め、竜化して竜人になる。
それを待って番になるように竜王様とハンスがラディにくぎを刺していた。
クレアはラディが生まれた七年後に生まれている。
竜石に入った時は十三歳。それから百年が過ぎたから年齢は百十三歳。
私よりも竜化が早いかもしれない。
アーロンが番を連れて竜王国に戻ってきていたなら、
幼馴染として育ち、そのまま番となっていただろうと竜王様が言っていた。
番なら、いつかどこかで会うことになるのだと。
不思議なものだと思う。
竜人と竜族、人間は生きる速さが違うのに。
それでもうまく出会うなんて。
廊下にでたらルークが待っていた。
「無事にクレアに会えたな」
「うん。まだ意識は戻ってないけど、すぐに話せるようになるよね」
「きっとすぐだな」
小さくないクレアに会える日が来るなんて、思ってなかった。
私と同じくらいの背のクレアはなんだか幼く見えて、
姉だけど守ってあげなきゃいけないような気がした。
きっと意識が戻れば気のせいだったと思うだろうけど。
竜化していない私は秘術中は近くにいないほうがいいと言われたからだ。
あの執務室での話の後、竜石はラディに預けた。
竜石からクレアを呼び出している間、私の魔力を消費し続けているため、
私の成長を遅らせている可能性があるとハンスに言われたためだ。
多少遅れてもいいと思ったけれど、ルークが嫌がったのと、
ラディが竜石から離れられそうになかったこともある。
クレアも納得し、ラディに任せることになった。
後宮にいるクリスタ様の部屋を訪ねると、
ちょうどババーリ国から手紙が届いたところだった。
国にいる恋人と手紙のやり取りができるようになったため、
不安もなくなり帰国するのを楽しみにしている。
そんなに楽しみならすぐに帰ってもらってもと思ったけれど、
それはルークに止められた。
満期を迎えずに後宮を出ることは妃候補として失格だったということになり、
先に国に帰らせられたコリンヌ様と同じように思われてしまう。
それに、クリスタ様はこの後宮で満期まで勤め上げた最後の妃候補になる。
それはとても名誉なことだから、最後までここにいるべきなのだとか。
説明を聞けば納得できるものだし、
クリスタ様は楽しそうに後宮生活を送っている。
あと九か月ほど。それほど待つのも苦じゃないだろう。
もう一人の妃候補デリア様は相変わらず慎ましく生活している。
後宮の解体を告げた時には泣き出したデリア様だが、
あれ以来そんなことはなく、淡々と過ごしているように見える。
覚悟を決めたというか、あきらめているというか。
帰りたくはないのだろうけど。
二人の妃候補のご機嫌伺いを終え、そろそろ時間かなと思ったら、
本宮のほうから異様な竜気を感じた。
竜王様の本気の竜気よりも圧倒的な力。
結界を張るよりも先にルークに抱きしめられる。
「なに、これ」
「……俺もこんなのは初めてだ。
まさかここまで強いとは」
「ラディってすごかったんだ」
いつも明るくのんびりしているようなラディからは想像できない。
「十年前、先の竜王様はラディに継がせるつもりだった」
「え?竜王様じゃなく?」
「ラディの方が竜気が強い。まるでアーロン様のようだと」
「アーロンのよう」
竜王になるのが竜王様じゃなくアーロンのはずだったとは聞いた。
「だけど、ラディはその少し前から番の気配を感じるようになっていた」
「十年前……私がクレアを呼び出したのが十三年前だった」
「それで気配に気がついたんだろう。
竜王国の外に行きたがるラディを先の竜王様は止めた。
お前まで帰って来なくなるのかと」
「あぁ、アーロンみたいになるのが嫌だったんだ」
息子がいなくなったから戦争を起こすような人だ。
ラディまで失いたくなかった気持ちはわからないでもない。
「それを知った竜王様が代わりに竜王になると言い出した。
ラディは番を連れて戻ってくると誓約し、周辺国を回る仕事についた。
竜王様は次の竜王にラディを指名するはずだ。
その前に番を見つけて安定してほしかったんだと思う」
「ラディが次の竜王様か。じゃあ、クレアは竜王の妃になるんだね」
「そうだな」
話しているうちに竜気が消えた。
秘術が終わった?
「終わったようだな。よし、戻ろう」
「うん」
急いで本宮に戻り、クレアのために用意された部屋に向かう。
ドアをノックするとハンスが出てくる。
「ああ、リディ様。終わりましたよ」
「クレアは!?」
「ご無事です。ただ、竜熱になったようです。
意識が戻るまで少し時間がかかるかもしれません」
「え?」
「リディ様と同じです。今まで竜気を浴びてなかったのに、
一度にこんなたくさん竜気を浴びて、クレア様の竜気が目覚めたのでしょう」
部屋のベッドにはクレアが寝かされていた。
熱のせいか、顔が赤くなってうなされている。
ドレスのまま寝かされているけど、
百年前のドレスは厚地で着心地が悪そうに見える。
「ハンス、クレアを着替えさせてもいい?
ドレス姿じゃ苦しいと思うの」
「お一人で大丈夫ですか?」
「問題ないわ」
「わかりました。では、私たちは部屋から出ましょう」
ハンスとルークは部屋から出て行こうとしているのに、
ラディはクレアが寝ているベッドの前に立ったまま。
「ラディ、一度外に出てて」
「……んぁ?」
「クレアのドレスを着替えさせるから。
いくら番でも許可なく着替えをのぞいたらクレアは怒ると思うわよ」
「え?あ、着替えか!わかった!」
クレアに見とれて動けなかったらしいラディは、
慌てて部屋から出ていく。
クレアは竜熱のせいもあるのか、まだ意識がない。
こういう時、魔術を使えてよかったと思う。
いくらなんでも一人で意識がないクレアを着替えさせるのは無理だ。
首元までしっかり隠した夜着に着替えさせ、ベッドに横たわらせる。
毛布をかぶせたら、ラディだけ部屋に呼び戻す。
「たまに様子を見に来るから。看病するんでしょう?」
「もちろんだ」
「手は出しちゃダメだからね!」
「……わかってる」
クレアも私と同じ、先祖返りだった。
これから竜気に目覚め、竜化して竜人になる。
それを待って番になるように竜王様とハンスがラディにくぎを刺していた。
クレアはラディが生まれた七年後に生まれている。
竜石に入った時は十三歳。それから百年が過ぎたから年齢は百十三歳。
私よりも竜化が早いかもしれない。
アーロンが番を連れて竜王国に戻ってきていたなら、
幼馴染として育ち、そのまま番となっていただろうと竜王様が言っていた。
番なら、いつかどこかで会うことになるのだと。
不思議なものだと思う。
竜人と竜族、人間は生きる速さが違うのに。
それでもうまく出会うなんて。
廊下にでたらルークが待っていた。
「無事にクレアに会えたな」
「うん。まだ意識は戻ってないけど、すぐに話せるようになるよね」
「きっとすぐだな」
小さくないクレアに会える日が来るなんて、思ってなかった。
私と同じくらいの背のクレアはなんだか幼く見えて、
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