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18.言い訳(ルーク)

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クライブ様に呼ばれて怒られるのは初めてではない。
だが、これほど竜気につぶされるような感じは初めてだ。

「後宮にいる妃候補の前でリディのことを番だと言ったそうだな」

「……はい」

「どういうことだ。ルークはまだ番を感じ取れないはずだが」

「番だと感じ取ったわけじゃないですけど、
 これはクライブ様のせいでもあります」

「俺のせいだと?」

ぎろりとにらまれたけれど、俺にだって言いたいことはある。

「竜人と竜族の婚約なんて番以外にないじゃないですか。
 俺とリディが婚約したことをどう説明するつもりだったんですか?」

「ああ。説明していなかったか。
 リディは竜族ではあるが、たぐいまれな才能の魔術師だ。
 それを保護する目的で俺が婚約を命じた、と説明させる予定だった」

「は?……魔術師として保護?まったく聞いてないですけど」

「そのことは俺とラディのうっかりだな。
 最初から婚約させるつもりだったと言っただろう。
 竜化するまでの仮の婚約だと」

「はぁ……」

ちゃんと説明してくれれば、あんなに焦らずに済んだのに。

「でもまぁ、番かもしれないというのは本当なんだな?」

「本当です……少なくとも俺の竜気は拒否しませんでした。
 あれだけ魔力が強い相手なら反発も強そうなのに」

「ふむ……まぁ、数年は確実に一緒にいるんだからな。
 仲が悪いよりかはいいだろう。
 だが、番だと判明するまでは手は出すなよ?」

「出しませんよ。
 リディが竜人になる前に子を産むようなことがあれば、
 俺は自分を許せないでしょうから」

「まぁ、そうか」

竜族の状態で子を産めば、竜族として産まれてしまう。
番だとしても、番契約を結んだ後でなければ竜人は産まれないからだ。

俺は自分の子どもを先に死なせるようなことは望んでいない。
竜人の子として生まれた竜族がどんな扱いになるのかもわかっている。
後から生まれた異母兄弟が竜人だった場合、
どれだけ兄弟間で恨まれることになるのかも。

「今は、番かもしれない婚約者として、リディのことはちゃんと守ります。
 いえ、守らせてください」

「お前がそう決めたのであれば、後は任せよう」

「では、リディのところに戻っても?」

「……いいか、手を出すなよ?」

「わかってます」

しつこいクライブ様の念押しにうんざりしながらも返事をする。
もうすでにクライブ様はリディを娘だと思っている。

本当は竜王になるはずだった弟のアーロン様。
その子孫として現れたリディ。
アーロン様の話はクライブ様に聞かないようにとハンスから言われた。
きっと何かあるんだろうとは思う。

アーロン様は番を見つけたはずなのに、
リディは娘ではなく子孫だと言うし、竜人ではなく竜族だ。
アーロン様がいなくなって、たったの百四十年。
その間にいったい何が起きたのか。アーロン様はどこにいるのか。
もう探さなくていいと言われた意味は。

わからないことだらけだが、わかっていることもある。
俺はリディを放っておけない。
外見は小さくて幼くて綺麗なのに、
中身はしっかりしていて強気で危なっかしい。

まだ会ってから数日だけど、目が離せないと思った。
妹だと言っていても、俺じゃなくてラディに懐いているのがむかつく。

最初、あの部屋にリディが住み始めたと聞いて、
もしかしたらラディの番なのかもしれないと思った。
ラディが番を探すために他国を回っているのを知っているから。

まだ百二十歳のラディが番を探しに行っているのは、
ラディがそれだけ強い竜人だからだ。
おそらくクライブ様は次の竜王にラディを選ぶ。
だから、竜王になって身動きが取れなくなる前に、
番を得て安定してほしいんだと思う。

見知らぬ令嬢がラディの番かもしれないと思って、
なんだか胸がざわついた。
不審者に間違えられたことの不満だろうと思ったけれど、
ラディの番じゃないとわかって、なぜか喜んでしまった。

俺が婚約者になってもラディに頼ろうとするリディに、
会って間もないのだから仕方がないけれど、頼ってほしいと思ってしまう。
正直言って、ラディがまた他国に番を探しにいってくれてほっとした。

だけど、リディが番だと思っていたわけじゃない。
言い訳がそれ以外見つからなかったから、とりあえず抱きしめた。

俺とリディは魔力が強すぎるから、
番でなければ反発するだろうとわかっていたから。

するんと何の抵抗もされずにリディが俺の腕の中に入ってきた。
その瞬間、離れていたのが不思議なくらいしっくりきた。

番だと嘘を言うのに、ためらいはなかった。
自分の中で嘘を言っている感じは一切なかったから。

本当に番かもしれない。
それを確認するのはリディが竜化してからになるけれど。
どっちにしても、アーロン様の子孫だなんて名家の令嬢のリディは、
番でもなければ俺は相手にしてもらえない。

番かもしれないは、俺の中では、番であればいいのに、に変わった。



リディの部屋に戻ると、少し前に眠ったとエリナに言われる。
何も言わずに交代させてくれたエリナに感謝して、ベッドの横の椅子に座る。

リディは熱で暑いのかうなされているようだ。
毛布からはみ出した手を取ると、くるんと寝返りを打って俺の方を向く。

「ルークぅ……どこぉ」

「ここにいるよ。もうどこにもいかない」

「……ん」

安心したようなリディの額にキスをして、しまったと思う。
手を出さないって約束、どこまでなら許されるんだろう。


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