上 下
13 / 61

13.先代の竜王とアーロン

しおりを挟む
「それにしても……本当にアーロン様の子孫だとは」

「俺も最初聞いた時は信じられなかったよ。
 ずっと探してたのに見つからないと思ったら、
 あんな辺境にいたなんて」

「探していた?」

「ああ。竜人でも他国と関わる仕事をしている者は少ない。
 だから俺とルークはアーロン様を探すように命じられていた」

「そうなの。探し出してどうするつもりだったの?」

「……あーそれは。言ったほうがいいのか?」

「あとから知るよりかましなんじゃないのか?」

ん?なんだろう。ラディとルークがこそこそと相談を始めた。

「あのな、落ち着いて聞いてほしいんだけど」

「うん」

「先代の竜王様の時代、竜王国は他国に侵略して、
 従わせていたの知ってるよな?」

「それはもう。世界の半分を属国にしたって」

「その原因、アーロン様なんだよ」

「は?」

意味がわからなくて首をかしげていたら、
ラディとルークも困った顔になる。

「まぁ、そうだよな。
 どこから説明したらいいかな。
 竜人っていうのは、番と呼ばれる相性のいい相手がいる。
 そして、なんとなく相手がいる場所がわかったりするもんなんだ」

「あぁ、だからアーロンはレンダラ国なんて辺境まで来たのね」

「さすがに辺境の国だとまではわからなかったと思うよ。
 でも、竜王国にいる竜人や竜族ではないとわかったんだろう。
 アーロン様は先代に番を探しに行くと言って出て行ってしまった」

「もしかして、許可を得なかったとか?」

出て行ってしまったという言い方に引っかかる。
何かしら原因を作ったのはアーロンなんだろうし。

「許可は一応は取ってたんだと思う。
 だけど、数年のつもりだったんじゃないかな。
 アーロン様が出て行って十年帰らなかった時、
 先代は怒りのあまり周辺国を攻撃し始めた。
 アーロン様を隠しているのではないかと疑って」

「えええ?そんな理由で」

「もともと人間が嫌いだったんだ。
 その上、大事な息子を人間の国に奪われたと思ったんだろう」

「なるほど……アーロンを探しているのはお父様ってことね」

「そういうこと。竜人は身内を大事にする。
 戻ってこなかったとしても、どうしているのか知りたかったんだと思うよ」

「そっか」

まだラディやルークにはアーロンが亡くなったことを言っていない。
竜王様に話した後で説明することになると思うけど。

「先代の怒りがおさまるまで戦争が続いたせいで、
 同盟国や属国が増えて管理する側は大変になった。
 それで先代も戦争をやめることにしたんだよ。
 あのまま続けてたら世界の全部が竜王国のものになっていたかもね」

「それは管理が大変そうね……。
 竜王国が戦争を始めたのは百三十年ほど前だっけ。
 その前の竜王国は竜人と竜族以外は入れなかったのよね?」

ずっと昔の竜王国は閉鎖的な国だったと聞いている。
今は同盟国や属国から人が来ていて、
人間でも竜王国に入れるけれど。

「今でも閉鎖的なところは変わらないぞ。
 竜人の中には竜族や人間を下等生物だと思っている奴もいるし、
 竜族でも貴族と平民にわかれている。
 平民の竜族は人間よりも自分たちは優れていると言い出す」

「そこは人間の国でも似たようなものだわ」

「それもそうか。
 まぁ、気をつけてほしいのは、
 リディはこの国で顔を知られていない。
 アーロン様の子孫だと公表するのは危険だし、
 ルークの婚約者だとしても反発するものはいるだろう」

「俺もなるべく離れないようにするが……」

ラディの心配にルークも顔を曇らせたが、
意味が違ったようだ。

「守るためとはいえ、やりすぎないようにな?」

「怪我をさせるくらいは平気?」

「は?」

「ルーク、こう見えてリディは結界もはれる魔術師だ。
 自分の身を守るくらいは問題ない。
 ただ意外と攻撃的な性格をしているから、
 相手を殺さないか心配している……」

「嘘だろう……」

「ええ?殺したりなんてしないわ。
 後々めんどくさそうじゃない」

「「………」」

どうせ絡んでくるのは竜王国の貴族だろうから、
殺してしまったら怒られるだけでは済まないだろう。
やられたらやり返すけれど。
怪我くらいなら許されるわよね。

「クライブ様に確認してくる……。
 多分、怪我くらいなら問題ないと思うが。
 くれぐれも!やりすぎないように。
 ルークもちゃんと見ててくれよな?」

「ああ、わかった。
 ラディはまた他国を回るんだな?」

「その予定」

「ラディの仕事は属国の監視?」

「そんな感じ。変な動きがないか属国を見て回るのが仕事。
 それと、俺も番が外にいる気がするんだ。
 だからクライブ様がこの仕事をくれた。
 竜王国を出ることなく、番を探せるようにって」

「そうなの。早く見つかるといいわね」

「ああ。リディのことはルークに任せて、
 明日からまた探しに行ってくるよ」

その言葉通り、翌日の朝、ラディは出発した。
数か国回ってくるから、しばらくは戻ってこないらしい。

仕方なくルークと一緒に行動をする。
まだ何となくぎこちないけれど、外宮の食堂へと向かう。
個室に入ると、ルークが食事を取りに行ってくれる。

「食事を取ってくる。ここで待っていて」

「わかったわ」

今までもラディと外宮の食堂に来ると、
竜族の女性たちからにらまれることが多かった。
だけど、ルークと一緒にいると、その数は数倍に増えた。

「どういうこと?
 ラディってもてないほうだったの?」

見た目はラディの方がもてそうなのに、
顔を半分隠しているようなルークの方がもてている。
血筋も身分もラディの方が上だったはずだけど。

その疑問は、エリナから渡された本を読んでわかった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今度は悪意から逃げますね!

れもんぴーる
ファンタジー
国中に発生する大災害。魔法師アリスは、魔術師イリークとともに救助、復興の為に飛び回る。 隣国の教会使節団の協力もあり、徐々に災害は落ち着いていったが・・・ しかしその災害は人的に引き起こされたものだと分かり、イリークやアリス達が捕らえられ、無罪を訴えても家族までもが信じてくれず、断罪されてしまう。 長期にわたり牢につながれ、命を奪われたアリス・・・気が付くと5歳に戻っていた。 今度は陥れられないように力をつけなくちゃ!そして自分を嵌めた人間たちや家族から逃げ、イリークを助けなければ! 冤罪をかけられないよう立ち回り、災害から国民を守るために奮闘するアリスのお話。え?頑張りすぎてチートな力が? *ご都合的なところもありますが、楽しんでいただけると嬉しいです。 *話の流れで少しですが残酷なシーンがあります。詳しい描写は控えておりますが、苦手な方は数段飛ばし読みしてください。お願いします。

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

【完結】あなたにすべて差し上げます

野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。 王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。 しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。 女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、 すべてを清算して、いなくなってしまった。 残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって――― 生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話 ※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。 ※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。 ※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

処理中です...