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8.クレアとの出会い
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その本を見つけたのは偶然だった。
王宮で育った私の周りには人がいなかった。
最低限の世話だけで育ち、五歳になったところだった。
侍女も油断していたのだろう。
文字を習い始めたばかりの私が図書室に一人で行くなんて、
想像もしてなかったに違いない。
教師から授業を受けた後、
私室に戻らずに図書室へと向かった。
途中で近衛騎士たちが驚いた顔をしていたけれど、
その時の私には行動制限はなかった。
それまでおとなしく私室にいたからだろうけど。
たまたま図書室というところがどんなところなのか、
他の本も読んでみたいと思って行ってみた。
図書館では働いている人たちが何人かいた。
本を開いて調べ物をしているようだ。
邪魔にならないように人のいないほうへと進んだ。
誰もいない図書室の奥、その本だけが光っているように見えた。
あとからクレアに聞いてみたら、認識阻害がかけられていたそうだ。
竜人の血を引くもの以外には見えないようにと。
その本を手に取ったところで、慌てた侍女が図書室へと入ってきた。
「アリー様!どうしてこんな場所にいるのですか!
早くお部屋にお戻りください!」
「わかったわ」
「教師の許可を得ずに他の本を読んではいけません。
図書室には今後勝手に来ないでくださいませ!」
「そう」
無理やり背中を押されるようにして図書室から出された。
私の右手にはうっすらと光る本が一冊。
誰も私が本を持っているのに見えないようだった。
だから堂々とその本を私室に持ち帰り、夜になってから開いてみた。
本の中はくりぬいてあって、赤い宝石がついたネックレスが入っていた。
「……綺麗だけど、怖い。どうしてかしら?」
「それはね、この宝石が竜石だからよ」
「え?」
その声が宝石から聞こえているとわかった時には、
さすがに驚きすぎて落としてしまった。
「落とすなんて失礼ね!」
「ご、ごめんなさい!」
落ちた宝石の上に小さな人間が浮かんでいた。
私と同じような銀髪の綺麗な女の子。
「やっと外に出られたわ」
「閉じ込められていたの?」
「さっき起きたの。どうやらずっと寝ていたみたい。
どうして竜石の中にいるのかは……私にもわからないわ」
もしかして魔術で閉じ込められたのかもしれないと思って聞いたら、
クレアはもう亡くなった人だった。
処刑されたあと、魂だけこの宝石に吸い込まれてしまったのだと聞いて、
目の前のクレアが人間ではないのだと知った。
それから毎日夜になるとクレアを呼び出した。
いろんなことを話しているうちに、クレアがおかしいと言った。
王太子の婚約者としての扱われ方じゃないこと、
魔力や魔術を知らないこと、間違った知識を教えられていること。
それを調べるためにクレアから魔術を習い、
姿を消して王宮を歩き回った。
聴力を強化して貴族たちの内緒話を聞いたり、
本当のことが書かれた歴史書を読んだりして、
私が生贄として育てられていることを知った。
そして、最初の生贄がクレアの妹で、
そのアリーが私の祖先だということも。
クレアがいなかったら私は何も知らないままだった。
歴代のアリーと同じように無力で理不尽な暴力にさらされたに違いない。
竜人の血を引いているから、
普通の貴族よりもずっと魔力は豊富だった。
だからこそ、魔力や魔術を教えなかったのだと思う。
クレアから習った魔術は初級魔術と言われるものだったけれど、
図書室からこっそり魔術書を持ち出して練習して、
誰にも負けない力を持ったと思う。
それでも成人するまで待っていたのは、
逃げ出した後のことを考えたからだった。
逃げ出すのは簡単でも、追手を手配されると困る。
だから、簡単には捕まらないと思い知らせてから逃げることにしていた。
そうすれば仕返しをおそれて追わないでくれるだろうからと。
それにあいつらを悔しがらせたかったからかもしれない。
もうすぐ手に入ると思っていたものに逃げられたら、
一番悔しいだろうと思ったから。
力があったとしても、王族と貴族のすべてを殺すことは不可能だ。
だから復讐よりも確実に自分を逃がす方を選んだ。
クレアには申し訳ないと思ったけれど、
いつか復讐する機会があればその時は遠慮なく力を使うつもりでいる。
そろそろ眠くなってきたし、ラディを待たずに寝ようかと思っていたら、
クレアが警戒するように周りを見回した。
「アリー、何かこっちに向かってる」
「え?あ、本当だ」
「私、邪魔にならないように戻るね。気をつけて!」
「あ、うん」
アリーが竜石の中に戻ったのを見て、ネックレスを服の中にしまう。
何かとてつもなく大きな魔力がこちらに向かってくるのがわかる。
威圧されているような魔力に身構えてしまう。いったい何が近づいているの?
ノックもなくドアが開いて、男性が入ってくる。
腰まである長い銀色の髪の竜人。
しかめっ面の竜人は私をじっと見つめ、警戒を解いたようだ。
魔力がやわらぎ、少し息がしやすくなる。
「……この魔力とその髪色。お前はアーロンの娘か?」
「アーロン?」
アーロンと聞かれ、それがクレアの父親だと気がついた。
「竜人の魔力を感じるし、その銀髪も。違うのか?」
「あの、娘ではなく、アーロンの子孫です……」
「子孫だと?アーロンはどうした?」
理解できないというような表情の男性に、
とりあえず簡単に事情を説明する。
「アーロンはレンデラという国で貴族令嬢の番を見つけ、
結婚するために竜人であることをやめて人間になりました。
私はアーロンの二番目の娘の子孫です」
アーロンの娘、アリーの他に歴代のアリーは三人いた。
私は五人目のアリーということになる。
「人間になっただと?アーロンはどうした!?」
「……百年ほど前、処刑されたと聞いています」
「は?」
ぶわっと魔力があふれでたのを感じる。
慌てて結界を張ったけれど、何この威圧感。
こんなの普通の人間に耐えられるわけない!
処刑されたこと、言わなきゃよかった……。
「クライブ様!何してんですか!?」
また大きな音がしてドアから飛び込んできたのはラディだった。
王宮で育った私の周りには人がいなかった。
最低限の世話だけで育ち、五歳になったところだった。
侍女も油断していたのだろう。
文字を習い始めたばかりの私が図書室に一人で行くなんて、
想像もしてなかったに違いない。
教師から授業を受けた後、
私室に戻らずに図書室へと向かった。
途中で近衛騎士たちが驚いた顔をしていたけれど、
その時の私には行動制限はなかった。
それまでおとなしく私室にいたからだろうけど。
たまたま図書室というところがどんなところなのか、
他の本も読んでみたいと思って行ってみた。
図書館では働いている人たちが何人かいた。
本を開いて調べ物をしているようだ。
邪魔にならないように人のいないほうへと進んだ。
誰もいない図書室の奥、その本だけが光っているように見えた。
あとからクレアに聞いてみたら、認識阻害がかけられていたそうだ。
竜人の血を引くもの以外には見えないようにと。
その本を手に取ったところで、慌てた侍女が図書室へと入ってきた。
「アリー様!どうしてこんな場所にいるのですか!
早くお部屋にお戻りください!」
「わかったわ」
「教師の許可を得ずに他の本を読んではいけません。
図書室には今後勝手に来ないでくださいませ!」
「そう」
無理やり背中を押されるようにして図書室から出された。
私の右手にはうっすらと光る本が一冊。
誰も私が本を持っているのに見えないようだった。
だから堂々とその本を私室に持ち帰り、夜になってから開いてみた。
本の中はくりぬいてあって、赤い宝石がついたネックレスが入っていた。
「……綺麗だけど、怖い。どうしてかしら?」
「それはね、この宝石が竜石だからよ」
「え?」
その声が宝石から聞こえているとわかった時には、
さすがに驚きすぎて落としてしまった。
「落とすなんて失礼ね!」
「ご、ごめんなさい!」
落ちた宝石の上に小さな人間が浮かんでいた。
私と同じような銀髪の綺麗な女の子。
「やっと外に出られたわ」
「閉じ込められていたの?」
「さっき起きたの。どうやらずっと寝ていたみたい。
どうして竜石の中にいるのかは……私にもわからないわ」
もしかして魔術で閉じ込められたのかもしれないと思って聞いたら、
クレアはもう亡くなった人だった。
処刑されたあと、魂だけこの宝石に吸い込まれてしまったのだと聞いて、
目の前のクレアが人間ではないのだと知った。
それから毎日夜になるとクレアを呼び出した。
いろんなことを話しているうちに、クレアがおかしいと言った。
王太子の婚約者としての扱われ方じゃないこと、
魔力や魔術を知らないこと、間違った知識を教えられていること。
それを調べるためにクレアから魔術を習い、
姿を消して王宮を歩き回った。
聴力を強化して貴族たちの内緒話を聞いたり、
本当のことが書かれた歴史書を読んだりして、
私が生贄として育てられていることを知った。
そして、最初の生贄がクレアの妹で、
そのアリーが私の祖先だということも。
クレアがいなかったら私は何も知らないままだった。
歴代のアリーと同じように無力で理不尽な暴力にさらされたに違いない。
竜人の血を引いているから、
普通の貴族よりもずっと魔力は豊富だった。
だからこそ、魔力や魔術を教えなかったのだと思う。
クレアから習った魔術は初級魔術と言われるものだったけれど、
図書室からこっそり魔術書を持ち出して練習して、
誰にも負けない力を持ったと思う。
それでも成人するまで待っていたのは、
逃げ出した後のことを考えたからだった。
逃げ出すのは簡単でも、追手を手配されると困る。
だから、簡単には捕まらないと思い知らせてから逃げることにしていた。
そうすれば仕返しをおそれて追わないでくれるだろうからと。
それにあいつらを悔しがらせたかったからかもしれない。
もうすぐ手に入ると思っていたものに逃げられたら、
一番悔しいだろうと思ったから。
力があったとしても、王族と貴族のすべてを殺すことは不可能だ。
だから復讐よりも確実に自分を逃がす方を選んだ。
クレアには申し訳ないと思ったけれど、
いつか復讐する機会があればその時は遠慮なく力を使うつもりでいる。
そろそろ眠くなってきたし、ラディを待たずに寝ようかと思っていたら、
クレアが警戒するように周りを見回した。
「アリー、何かこっちに向かってる」
「え?あ、本当だ」
「私、邪魔にならないように戻るね。気をつけて!」
「あ、うん」
アリーが竜石の中に戻ったのを見て、ネックレスを服の中にしまう。
何かとてつもなく大きな魔力がこちらに向かってくるのがわかる。
威圧されているような魔力に身構えてしまう。いったい何が近づいているの?
ノックもなくドアが開いて、男性が入ってくる。
腰まである長い銀色の髪の竜人。
しかめっ面の竜人は私をじっと見つめ、警戒を解いたようだ。
魔力がやわらぎ、少し息がしやすくなる。
「……この魔力とその髪色。お前はアーロンの娘か?」
「アーロン?」
アーロンと聞かれ、それがクレアの父親だと気がついた。
「竜人の魔力を感じるし、その銀髪も。違うのか?」
「あの、娘ではなく、アーロンの子孫です……」
「子孫だと?アーロンはどうした?」
理解できないというような表情の男性に、
とりあえず簡単に事情を説明する。
「アーロンはレンデラという国で貴族令嬢の番を見つけ、
結婚するために竜人であることをやめて人間になりました。
私はアーロンの二番目の娘の子孫です」
アーロンの娘、アリーの他に歴代のアリーは三人いた。
私は五人目のアリーということになる。
「人間になっただと?アーロンはどうした!?」
「……百年ほど前、処刑されたと聞いています」
「は?」
ぶわっと魔力があふれでたのを感じる。
慌てて結界を張ったけれど、何この威圧感。
こんなの普通の人間に耐えられるわけない!
処刑されたこと、言わなきゃよかった……。
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また大きな音がしてドアから飛び込んできたのはラディだった。
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