43 / 60
43.父様へのお願い
しおりを挟む
次の日の昼過ぎ、ルシアン様からお願いされた父様は、
あきらかに不機嫌そうな顔になった。
「……仲がいいとは思ったが、婚約していたとは。
まぁ、そばにいられなかった俺は何も言う権利はないけど」
「俺がニナの相手ではダメだと?」
「お前がダメというわけじゃない。
やっとエマに会えたと思ったら、こんなに可愛い娘まで会えて。
その娘に婚約者がもうすでにいるというのが納得できないだけだ。
お前以上にいい相手がいるわけないのはわかってる」
「じゃあ、認めてもいいと?」
しぶしぶといった感じではあるが、父様はうなずいた。
それにほっとしていたが、父様は他にも納得していないことがあるようだ。
「なぁ、ルシアン。
どうしてもニナを貴族にしなきゃ結婚できないのか?」
「そうしないと陛下に認めさせられない」
「国王の許可なんかなくても結婚すればいいだろう。
ここで暮らせば誰も手出しできないんだから」
私が貴族にならなくても、国王から結婚の許可をもらわなくても、
このまま本宅で生活していけばいい、父様はそう思ったようだ。
……私も、それは考えなかったわけじゃない。
私が貴族の生活が嫌になって逃げだしたことにして、
ここに隠れていればいいんじゃないかって。
だけど……無理だと思った。
そのことはルシアン様には話していない。
「ニナがいなくなったように見せかけて、ここで匿うことはできる。
だけど、その場合は俺は別の令嬢と結婚しなければならなくなる。
王命で結婚しろと言われたら、逆らうことはできない。
本宅にニナを住まわせて、表屋敷に妻を。
ニナを愛人にするようなことはできない」
「……それでもニナが貴族になるよりかはいいかもしれないぞ?」
「結婚するだけじゃない。
俺は公爵家の次期当主として、その令嬢と子をつくらなければいけない。
ニナはすぐ近くて、俺のもう一つの家族を見続けることになる。
……ニナはそんなことは選ばないと思う。違うか?」
「違いません。私は愛人になるのは嫌です。
ルシアン様の妻に、子に、嫌な気持ちをぶつけてしまいそうで、
そんな醜い自分に耐えられなくなると思います」
「……そうか。そうだよな」
しょんぼりしたような父様に、
やっぱりどうしても貴族になりたくないんだと感じた。
「ニナの願いは叶えてやりたい。
だけど、この国の王がニナとエマにしたことを思うと、
俺は従いたくない」
「父様……」
「少し考えさせてくれ」
説得できなかったか。
一人で考えたいと部屋に戻ってしまった父様に、
落ち込んでいると母様が励ましてくれる。
「きっと大丈夫よ」
「そうかなぁ……」
父様はその日、部屋から出てこなかった。
その次の日の夕方になって、ようやく部屋から出てきた父様は、
ルシアン様に向かってこう言った。
「ニナの願いを叶えるために公爵家に入ってもいい。だが、一つだけ条件がある」
「条件?」
「俺が公爵家の当主になる」
「「え?」」
「兄上には俺が事情を説明する。
兄上は怪我をしたことにして、当主を引退してもらう。
ルシアンはまだ当主になることはできない。
当主になるには、結婚しているか、子がいるかが必要だからだ。
だから、一時的に俺が継ぐことになったと国王に言う」
「それは父上が良いと言うのなら、俺は問題ないよ。
叔父上はそれでいいのか?」
「いい。ニナもいいな?」
「父様は貴族になって本当にいいの?」
「貴族にはなりたくない。
だけど、こうしなきゃお前たちは結婚できないのだろう。
多少のことは我慢してやる」
「ありがとう!父様!」
私のために父様まで巻き込んでしまった。
申しわけないと思いつつ、ルシアン様のそばにいるにはこうするしかない。
「ただし、ルシアンもニナも、覚悟はいいな?」
「覚悟?」
「ニナ以外のものは失うかもしれない覚悟だ。
俺は何かあればニナを選ぶ。
ルシアンにも、この国や公爵家よりもニナを選んでもらう。
俺が公爵家当主になるというのはそういうことだ」
「叔父上、俺はこの国も公爵家も大事だとは思っていない。
領民は守りたいと思うけど、ニナの方が大事だ。
ニナを失うくらいなら、全部捨てても惜しくはない」
「それならいい。ニナ、お前は悩むな。
俺もエマもルシアンも。
何かあれば、お前を優先にする。
そのことで起きるすべてを受け入れると約束しろ」
私を優先に……。父様もルシアン様も迷いなく私を見つめる。
ルシアン様が私以外のものをすべて失ったとしても……。
悩みそうだとは思う。私のせいで、と思うだろう。
それでも、父様を貴族にしてでもルシアン様のそばにいることを選んだ。
「……わかったわ。私もルシアン様といることを選ぶ。
ほかのすべてを失ったとしても、それでかまわない」
「よし。二人とも、今の約束を忘れるなよ?」
父様はそれからジラール公爵領に行き、すぐに戻ってきた。
手にはジラール公爵からの手紙を持って。
「さぁ、王宮に向かおうか」
謁見の許可はすぐに下りた。
ジラール公爵家の当主を交代したいと申し出たせいだ。
国王はルシアン様が継ぐのだと思って焦ったらしい。
なぜなら、父様が言ったように、
当主になるためには結婚するか子がいるという条件がある。
「ルシアン、どういうことだ。
当主になるための条件を知らないわけじゃないだろう?
まさかニネットを孕ませたとか言うんじゃないだろうな!」
やっぱり、すぐに謁見を許されたのは誤解していたから。
多分、誤解させるようなこと書いて送ったのだろうけど。
「陛下、まずは紹介させてください。
隣にいるのは私の叔父です」
あきらかに不機嫌そうな顔になった。
「……仲がいいとは思ったが、婚約していたとは。
まぁ、そばにいられなかった俺は何も言う権利はないけど」
「俺がニナの相手ではダメだと?」
「お前がダメというわけじゃない。
やっとエマに会えたと思ったら、こんなに可愛い娘まで会えて。
その娘に婚約者がもうすでにいるというのが納得できないだけだ。
お前以上にいい相手がいるわけないのはわかってる」
「じゃあ、認めてもいいと?」
しぶしぶといった感じではあるが、父様はうなずいた。
それにほっとしていたが、父様は他にも納得していないことがあるようだ。
「なぁ、ルシアン。
どうしてもニナを貴族にしなきゃ結婚できないのか?」
「そうしないと陛下に認めさせられない」
「国王の許可なんかなくても結婚すればいいだろう。
ここで暮らせば誰も手出しできないんだから」
私が貴族にならなくても、国王から結婚の許可をもらわなくても、
このまま本宅で生活していけばいい、父様はそう思ったようだ。
……私も、それは考えなかったわけじゃない。
私が貴族の生活が嫌になって逃げだしたことにして、
ここに隠れていればいいんじゃないかって。
だけど……無理だと思った。
そのことはルシアン様には話していない。
「ニナがいなくなったように見せかけて、ここで匿うことはできる。
だけど、その場合は俺は別の令嬢と結婚しなければならなくなる。
王命で結婚しろと言われたら、逆らうことはできない。
本宅にニナを住まわせて、表屋敷に妻を。
ニナを愛人にするようなことはできない」
「……それでもニナが貴族になるよりかはいいかもしれないぞ?」
「結婚するだけじゃない。
俺は公爵家の次期当主として、その令嬢と子をつくらなければいけない。
ニナはすぐ近くて、俺のもう一つの家族を見続けることになる。
……ニナはそんなことは選ばないと思う。違うか?」
「違いません。私は愛人になるのは嫌です。
ルシアン様の妻に、子に、嫌な気持ちをぶつけてしまいそうで、
そんな醜い自分に耐えられなくなると思います」
「……そうか。そうだよな」
しょんぼりしたような父様に、
やっぱりどうしても貴族になりたくないんだと感じた。
「ニナの願いは叶えてやりたい。
だけど、この国の王がニナとエマにしたことを思うと、
俺は従いたくない」
「父様……」
「少し考えさせてくれ」
説得できなかったか。
一人で考えたいと部屋に戻ってしまった父様に、
落ち込んでいると母様が励ましてくれる。
「きっと大丈夫よ」
「そうかなぁ……」
父様はその日、部屋から出てこなかった。
その次の日の夕方になって、ようやく部屋から出てきた父様は、
ルシアン様に向かってこう言った。
「ニナの願いを叶えるために公爵家に入ってもいい。だが、一つだけ条件がある」
「条件?」
「俺が公爵家の当主になる」
「「え?」」
「兄上には俺が事情を説明する。
兄上は怪我をしたことにして、当主を引退してもらう。
ルシアンはまだ当主になることはできない。
当主になるには、結婚しているか、子がいるかが必要だからだ。
だから、一時的に俺が継ぐことになったと国王に言う」
「それは父上が良いと言うのなら、俺は問題ないよ。
叔父上はそれでいいのか?」
「いい。ニナもいいな?」
「父様は貴族になって本当にいいの?」
「貴族にはなりたくない。
だけど、こうしなきゃお前たちは結婚できないのだろう。
多少のことは我慢してやる」
「ありがとう!父様!」
私のために父様まで巻き込んでしまった。
申しわけないと思いつつ、ルシアン様のそばにいるにはこうするしかない。
「ただし、ルシアンもニナも、覚悟はいいな?」
「覚悟?」
「ニナ以外のものは失うかもしれない覚悟だ。
俺は何かあればニナを選ぶ。
ルシアンにも、この国や公爵家よりもニナを選んでもらう。
俺が公爵家当主になるというのはそういうことだ」
「叔父上、俺はこの国も公爵家も大事だとは思っていない。
領民は守りたいと思うけど、ニナの方が大事だ。
ニナを失うくらいなら、全部捨てても惜しくはない」
「それならいい。ニナ、お前は悩むな。
俺もエマもルシアンも。
何かあれば、お前を優先にする。
そのことで起きるすべてを受け入れると約束しろ」
私を優先に……。父様もルシアン様も迷いなく私を見つめる。
ルシアン様が私以外のものをすべて失ったとしても……。
悩みそうだとは思う。私のせいで、と思うだろう。
それでも、父様を貴族にしてでもルシアン様のそばにいることを選んだ。
「……わかったわ。私もルシアン様といることを選ぶ。
ほかのすべてを失ったとしても、それでかまわない」
「よし。二人とも、今の約束を忘れるなよ?」
父様はそれからジラール公爵領に行き、すぐに戻ってきた。
手にはジラール公爵からの手紙を持って。
「さぁ、王宮に向かおうか」
謁見の許可はすぐに下りた。
ジラール公爵家の当主を交代したいと申し出たせいだ。
国王はルシアン様が継ぐのだと思って焦ったらしい。
なぜなら、父様が言ったように、
当主になるためには結婚するか子がいるという条件がある。
「ルシアン、どういうことだ。
当主になるための条件を知らないわけじゃないだろう?
まさかニネットを孕ませたとか言うんじゃないだろうな!」
やっぱり、すぐに謁見を許されたのは誤解していたから。
多分、誤解させるようなこと書いて送ったのだろうけど。
「陛下、まずは紹介させてください。
隣にいるのは私の叔父です」
3,009
お気に入りに追加
5,532
あなたにおすすめの小説
婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?
桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』
魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!?
大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。
無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!!
*******************
毎朝7時更新です。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる