上 下
23 / 60

23.本当のこと(カミーユ)

しおりを挟む
久しぶりにニネットに会って話してから、
オデットの機嫌は最悪だった。

それもそうだろう。
自分が侯爵の血をひいていないと、あそこまではっきり言われたのだ。
周りにたくさんの令息令嬢がいる前で。

ずっと不思議だった。
どうして侯爵だけでなく父上までニネットの方を大事にするのかと。

もし、オデットが不貞の子だというのが本当なら、それもよくわかる。
夫人が不貞した子よりも、侯爵の実の娘のニネットのほうを大事にするに決まってる。
たとえ愛人が平民だとしても、侯爵家の血をひいているのはニネットなのだから。

だが、それでも疑問は残る。
どうして俺と婚約したのがニネットだったのか。
ニネットが侯爵家の血を引いている唯一の娘なのなら、
ニネットが婿を取って継ぐべきだ。

俺と婚約解消した後も、ニネットは公爵家のルシアンと婚約を結んだ。
侯爵家の血をひいていないオデットに継がせるなんて意味がわからない。

考えてもわからず、それ以上考えるのはやめた。
とりあえず不機嫌なオデットを慰めながら学園から帰る。

王宮に戻ると、すぐに謁見室に呼び出される。
急に何の用だと思いながらも、ちょうどいいと思い向かう。
オデットのことが本当なのか聞けるかもしれない。

謁見室に入ると、父上だけでなく義母上もいた。
婚約解消の件からずっと二人には避けられていたから、
会うのは久しぶりだ。

「やっと来たか」

「ただいま戻りました」

「また学園で騒ぎを起こしたそうだな」

「え、いや、その。騒ぎというほどのことでは。
 オデットとニネットを仲直りさせようとしただけです」

「……またよけいなことを」

呆れたような父上に、眉間にしわを寄せたままの義母上。
俺がしたことはそれほど悪いことではないのに。

「よけいなことと言いますが、ニネットにとってもいいことだと思います。
 ニネットは今まで社交界で受け入れられていませんでした。
 ですが、公爵夫人になるのならこのままでいいわけはありません。
 だから、侯爵家を継ぐオデットと仲直りをすれば、
 お互いに支えあっていけると思い」

「そのことは断られたのだろう?以前、ルシアンに提案した時に」

「こ、断られたのはそうですけど、ルシアンは冷たすぎると思います。
 オデットは心から反省しています。もうあんな真似はしないと言っています。
 これからは家族として仲良くできると……」

家族として、と言って言葉が止まる。
本当にオデットとニネットは家族なのか?
家族じゃないというのが事実なら、俺がしたことは。

「そのニネットに、はっきり否定されたそうじゃないか。
 オデットと血のつながりはないと」

「……それは本当なのですか?」

「本当だ」

「!!」

ニネットが言ったことは本当だった……
では、オデットが不貞の子だというのも?
俺が聞いていいことなのか迷っていたら、父上のほうから話し出した。

「オデットは夫人が浮気してできた子だ」

「……まさか、本当に」

「夫人はそれがバレているとは思っていない」

「え?」

「どういう事情でわかったのかは言わないが、
 オデットが実の娘じゃないとわかった侯爵は、
 夫人の父であるグラッグ侯爵に打ち明けた。
 当時、事業を提携していたこともあり、関係を悪化するのは避けたかった。
 侯爵はそのままオデットを娘として育てることにした」

「そんなことが許されるのですか?」

「オデットには罪はない。まともに育つようであれば侯爵家を継がせ、
 どうしようもない娘だとわかればグラッグ家に戻し、
 バシュロ侯爵家は養子に継がせようと思ったらしい」

「罪はない……そうですね」

浮気したのは夫人であって、生まれてきたオデットには罪はない。
だから自分の娘にして育ててきた。

「だが、今回のことで侯爵はオデットを完全に見限った。
 夫人とはすでに離縁しているし、
 オデットが自分の子ではないと公表すると言っている」

「え?」

「お前との婚約は継続だ。だが、オデットはグラッグ家に戻る」

「は?バシュロ侯爵家はどうするんですか?」

オデットは俺と結婚してバシュロ侯爵家を継ぐはずなのに、
グラッグ家に戻してどうするんだ。
まさかニネットを婚約解消させて戻すつもりなのか?

「バシュロ侯爵家は養子に継がせると言っている。
 侯爵の妹の子どもに譲るつもりなんだろう」

「そんな……でも、グラッグ家に戻ると言われても」

「もちろん、グラッグ家はオデットの伯父である侯爵のものだ。
 侯爵の息子が継ぐことが決まっている」

「では、俺とオデットはどうしたら」

「学園の卒業までは王宮に置いてやる。
 その後は自分で生活する道を探せ。
 王宮文官や騎士を目指すのはかまわないが、
 王子としての扱いはされないと思っておけ」

「そんな……」

「今さら後悔しても遅い。
 ニネットを大事にしなかったお前が悪い」

「そんなことを言われても……
 侯爵の娘だとしても、どうして愛人の子と婚約させたのですか?
 ニネットが侯爵と夫人の間の子であれば、こんなことには」

「お前は本当に何もわかっていないんだな」

「は?」

そもそもニネットが愛人の子でなければ、
ニネットの容姿は貴族らしかったはずだし、精霊術も使えたはずだ。
それなら俺だってニネットを馬鹿にせずに、
ちゃんと婚約者として大事にしていたはずなのに。

今さらというなら、少しくらい文句を言いたかった。
返ってきたのは、父上と義母上の冷たい視線だった。

「こいつにちゃんと説明してやれ。お前が甘やかしたせいもあるんだぞ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。 二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。 しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。 元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。 そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。 が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。 このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。 ※ざまぁというよりは改心系です。 ※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』 魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!? 大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。 無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!! ******************* 毎朝7時更新です。

処理中です...