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6.新しい婚約者
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「ニネットには新しい婚約者を用意する。
ここにいる候補者から、好きな者を選ぶがいい」
好きな者……ここにいる男性たちが。
先ほどから会話を楽しそうに聞いている男性たちは候補者だったのか。
出番が来たと思ったのか、私の方に近づいてくる。
どこかで見たことがあるのは、王族に近いものだからか。
「王弟のブルーノ、第二王子のランゲル、オスーフ侯爵家のカルロだ」
一人目の王弟ブルーノ様は薄茶色の髪に青目。
先代国王の側妃から生まれた王子。
たしか年は三十半ばだったと思うが、結婚はしていない。
「よろしく、ニネット。ブルーノだ」
にこやかな顔に見えるが、目は笑っていない。
ブルーノ様としても私と結婚したいわけじゃなさそうだ。
耳元で王宮にいる精霊が理由を教えてくれる。
"あの人、男性の恋人がいるんだって。
いつも一緒にいる侍従の彼と一生を共にしたいって言ってたよ"
ふうん。侍従と恋人関係にあるんだ。
だったら、私と結婚しても本当に形だけになるんだよね?
それはそれでいいけど、恋人から邪魔扱いされるのは困る。
二人目は第二王子のランゲル様。金髪青目の王子様らしい外見。
側妃の子のカミーユ様と違って、ランゲル様は王妃の子。
同じく王妃から生まれた第一王子はもうすでに結婚している。
二十歳を過ぎているのに婚約者もいないから候補にされたのだろうけど、
異母弟のカミーユ様の尻ぬぐいなんて嫌だろうし、
愛人の子だと思っている私との婚約なんて不服だろう。
「……ランゲルだ」
挨拶するのすら嫌そう。私との婚約が嫌なのを隠しもしない顔。
そんなに嫌なら、そっちから断ってくれてもいいのに。
”この王子は婚約したい令嬢の身分が低いから許されないんだって。
ニネットと結婚するなら愛人にしてもいいって国王が言ってた”
なるほど。そういう理由でここにいるんだ。
身分が低くて王子妃にはできなくても、
貴族令嬢であれば許可なく愛人にするわけにもいかない。
これが平民相手なら勝手に愛人にすることもできただろうけど。
恋人のそばにいるために私を利用したいってところか。
それでも愛想笑いもせずに不貞腐れたままなのは、
にっこり笑いかけて私が惚れたら困ると思ってたりするのかな。
私としてもあまり国王の近くにいたくないから、
王子妃になるのは避けたいけど。
国王としては一番この王子と結婚してほしいんだろうな。
最後は侯爵令息カルロ様。
黒髪黒目で中性的な顔立ちでにこにこと笑いかけてくる。
二男だけど長男が病弱だから嫡子になっていたはず。
この人と結婚するなら侯爵家に嫁げということ?
何かしら王家と関係があるのかもしれない。
「オスーフ侯爵家のカルロだ。
ニネット嬢に会えてうれしいよ。俺と仲良くしてくれる?」
この人は私と結婚したがってそうに見えるけど、これってどうなの?
”この人、女の子なら誰でも大好きなんだって~。
愛人との間に子どももいるよ。それも三人!”
あーなるほど。そういう人か。
私のことも大事にしてくれるかもしれないけど、
愛人がたくさんいるのはもめそうだよね。
うーん。どうしよう。誰も選びたくない。
「どうだ、誰を選ぶ?」
「……この三人から選ばなくてはいけないのですか?」
「ん?気に入らないのか?
もう一人呼んだのだが、まだ来ていないな」
候補はもう一人か。
私の相手になるような年齢で婚約していない令息なんて、
どの人も同じようなものかもしれないけど。
期待しないで待っていたら、謁見室の扉が開いた。
「……遅れました。もう決まりましたか?」
「いや、まだだ。ニネット、もう一人の候補。
ジラール公爵家のルシアンだ」
この人が最後の候補者。顔の横でゆったり結んだ金髪に紫目。
整った顔立ちだけでなく品があって、外見だけなら王子のようだ。
わざと遅れてきたのは、選ばれたくないってことだろうけど。
この国の公爵家は二つ。王妃の生家と、このジラール公爵家。
ジラール公爵家の令息って、令嬢たちがよく騒いでた。
夜会に出ても誰とも踊らないことで有名な令息。
女嫌いなんじゃないかって噂だった。
私と目が合ったと思ったら、ルシアン様の動きが止まる。
私をじっと見つめたまま、ぽつりとつぶやいた。
「……銀色」
「え?」
この人、銀色って言った。
”あの人、精霊が見えてるよ!
ニネットのこともちゃんと見えてる!”
嘘……見えているって、私の本当の姿が見えているってこと?
銀色の髪に紫目は精霊の愛し子だとすぐにばれてしまうからと、
精霊教会の者に姿を偽る術をかけられている。
だから、周りからは茶髪緑目で平凡な顔立ちに見えている。
カミーユ様とオデットには地味な容姿だと馬鹿にされても、
本当の姿ではないからまったく気にしていなかった。
そこで気がついた。
精霊を見えている人なら、私をないがしろにしないのでは?
この国は精霊の力で豊かになったにも関わらず、精霊が見えない人ばかり。
国王だって精霊の力を必要とするくせに、精霊を敬おうとしない。
だから、私を傷つけたとしても力づくで抑えればいいと考えている。
精霊が見えるルシアン様なら、私を傷つけないかもしれない。
「はじめまして、ルシアンだ。君の名は?」
「ニネットです」
挨拶をしている間も視線はそらされない。
名前を聞かれただけだったけれど、気持ちは決まった。
四人がそろったからか、国王が落ち着かない様子で決めさせようとする。
「さぁ、どうする?誰を選ぶ?」
「ルシアン様を選びます」
「……ルシアンか。ルシアンは女嫌いで有名でな」
たとえ女嫌いでも、他の三人よりかはマシな気がする。
国王はルシアン様を選んでほしくないようだけど。
もう一度、国王の目を見て言う。
「ルシアン様がいいです。
ダメなら、婚約そのものを断りたいです」
「そうか……だが、ルシアンは断るだろう?」
「いえ、婚約します」
「なにっ!?そんなことは」
「まぁ、ルシアンが婚約してもいいなんて。
よかったわね、ニネット。
ルシアンが婚約したら令嬢たちが泣いて騒ぐわね」
「あ、ああ、そうだな……」
国王は認めないと言いたかったのだろうが、
王妃が無邪気に祝福してしまった。
王妃が認めてしまった以上、何も言えないのか国王もうなずいた。
だけど、ルシアン様を狙っていた令嬢たちに何か言われるかな。
ルシアン様ってすごくもてるんだよね……。
私を傷つけなさそうだと思って選んだけど、
もう少し考えてからにすればよかった。
後悔し始めていたら、ルシアン様が私に近づいてくる。
「改めて、ルシアン・ジラールだ。よろしく」
「よろしくお願いします。ニネットです」
女嫌いというわりには積極的に交流しようとしてくれている?
穏やかに笑いかけてくれるルシアン様に、
これなら女嫌いでも問題なさそうとほっとする。
「ニネット嬢、今日から家に来ないか?」
「え?」
「話は聞いている。元婚約者と義妹が婚約したのだろう?
義妹がいる侯爵家には戻りたくないんじゃないのか?」
「いや!ニネットは連れて帰る!結婚するまでは私の娘だ!
オデットが嫌なら、オデットを追い出すから!」
私がいなくなると困る侯爵が叫んだが、
それは無視してルシアン様にお願いする。
「連れて行ってください」
「よし、行こうか」
「はい」
「それでは、失礼します。あとのことは書類を送ってください」
「待て!ニネットは私が連れて帰る!ニネット!!」
侯爵が私を捕まえようとしたけれど、ルシアン様が先に手を引いて助けてくれた。
そのまま、手をつないで謁見室から走って逃げる。
謁見室では何か叫んでいるのが聞こえたけれど、
それにはかまわずにルシアン様と馬車に向かった。
ここにいる候補者から、好きな者を選ぶがいい」
好きな者……ここにいる男性たちが。
先ほどから会話を楽しそうに聞いている男性たちは候補者だったのか。
出番が来たと思ったのか、私の方に近づいてくる。
どこかで見たことがあるのは、王族に近いものだからか。
「王弟のブルーノ、第二王子のランゲル、オスーフ侯爵家のカルロだ」
一人目の王弟ブルーノ様は薄茶色の髪に青目。
先代国王の側妃から生まれた王子。
たしか年は三十半ばだったと思うが、結婚はしていない。
「よろしく、ニネット。ブルーノだ」
にこやかな顔に見えるが、目は笑っていない。
ブルーノ様としても私と結婚したいわけじゃなさそうだ。
耳元で王宮にいる精霊が理由を教えてくれる。
"あの人、男性の恋人がいるんだって。
いつも一緒にいる侍従の彼と一生を共にしたいって言ってたよ"
ふうん。侍従と恋人関係にあるんだ。
だったら、私と結婚しても本当に形だけになるんだよね?
それはそれでいいけど、恋人から邪魔扱いされるのは困る。
二人目は第二王子のランゲル様。金髪青目の王子様らしい外見。
側妃の子のカミーユ様と違って、ランゲル様は王妃の子。
同じく王妃から生まれた第一王子はもうすでに結婚している。
二十歳を過ぎているのに婚約者もいないから候補にされたのだろうけど、
異母弟のカミーユ様の尻ぬぐいなんて嫌だろうし、
愛人の子だと思っている私との婚約なんて不服だろう。
「……ランゲルだ」
挨拶するのすら嫌そう。私との婚約が嫌なのを隠しもしない顔。
そんなに嫌なら、そっちから断ってくれてもいいのに。
”この王子は婚約したい令嬢の身分が低いから許されないんだって。
ニネットと結婚するなら愛人にしてもいいって国王が言ってた”
なるほど。そういう理由でここにいるんだ。
身分が低くて王子妃にはできなくても、
貴族令嬢であれば許可なく愛人にするわけにもいかない。
これが平民相手なら勝手に愛人にすることもできただろうけど。
恋人のそばにいるために私を利用したいってところか。
それでも愛想笑いもせずに不貞腐れたままなのは、
にっこり笑いかけて私が惚れたら困ると思ってたりするのかな。
私としてもあまり国王の近くにいたくないから、
王子妃になるのは避けたいけど。
国王としては一番この王子と結婚してほしいんだろうな。
最後は侯爵令息カルロ様。
黒髪黒目で中性的な顔立ちでにこにこと笑いかけてくる。
二男だけど長男が病弱だから嫡子になっていたはず。
この人と結婚するなら侯爵家に嫁げということ?
何かしら王家と関係があるのかもしれない。
「オスーフ侯爵家のカルロだ。
ニネット嬢に会えてうれしいよ。俺と仲良くしてくれる?」
この人は私と結婚したがってそうに見えるけど、これってどうなの?
”この人、女の子なら誰でも大好きなんだって~。
愛人との間に子どももいるよ。それも三人!”
あーなるほど。そういう人か。
私のことも大事にしてくれるかもしれないけど、
愛人がたくさんいるのはもめそうだよね。
うーん。どうしよう。誰も選びたくない。
「どうだ、誰を選ぶ?」
「……この三人から選ばなくてはいけないのですか?」
「ん?気に入らないのか?
もう一人呼んだのだが、まだ来ていないな」
候補はもう一人か。
私の相手になるような年齢で婚約していない令息なんて、
どの人も同じようなものかもしれないけど。
期待しないで待っていたら、謁見室の扉が開いた。
「……遅れました。もう決まりましたか?」
「いや、まだだ。ニネット、もう一人の候補。
ジラール公爵家のルシアンだ」
この人が最後の候補者。顔の横でゆったり結んだ金髪に紫目。
整った顔立ちだけでなく品があって、外見だけなら王子のようだ。
わざと遅れてきたのは、選ばれたくないってことだろうけど。
この国の公爵家は二つ。王妃の生家と、このジラール公爵家。
ジラール公爵家の令息って、令嬢たちがよく騒いでた。
夜会に出ても誰とも踊らないことで有名な令息。
女嫌いなんじゃないかって噂だった。
私と目が合ったと思ったら、ルシアン様の動きが止まる。
私をじっと見つめたまま、ぽつりとつぶやいた。
「……銀色」
「え?」
この人、銀色って言った。
”あの人、精霊が見えてるよ!
ニネットのこともちゃんと見えてる!”
嘘……見えているって、私の本当の姿が見えているってこと?
銀色の髪に紫目は精霊の愛し子だとすぐにばれてしまうからと、
精霊教会の者に姿を偽る術をかけられている。
だから、周りからは茶髪緑目で平凡な顔立ちに見えている。
カミーユ様とオデットには地味な容姿だと馬鹿にされても、
本当の姿ではないからまったく気にしていなかった。
そこで気がついた。
精霊を見えている人なら、私をないがしろにしないのでは?
この国は精霊の力で豊かになったにも関わらず、精霊が見えない人ばかり。
国王だって精霊の力を必要とするくせに、精霊を敬おうとしない。
だから、私を傷つけたとしても力づくで抑えればいいと考えている。
精霊が見えるルシアン様なら、私を傷つけないかもしれない。
「はじめまして、ルシアンだ。君の名は?」
「ニネットです」
挨拶をしている間も視線はそらされない。
名前を聞かれただけだったけれど、気持ちは決まった。
四人がそろったからか、国王が落ち着かない様子で決めさせようとする。
「さぁ、どうする?誰を選ぶ?」
「ルシアン様を選びます」
「……ルシアンか。ルシアンは女嫌いで有名でな」
たとえ女嫌いでも、他の三人よりかはマシな気がする。
国王はルシアン様を選んでほしくないようだけど。
もう一度、国王の目を見て言う。
「ルシアン様がいいです。
ダメなら、婚約そのものを断りたいです」
「そうか……だが、ルシアンは断るだろう?」
「いえ、婚約します」
「なにっ!?そんなことは」
「まぁ、ルシアンが婚約してもいいなんて。
よかったわね、ニネット。
ルシアンが婚約したら令嬢たちが泣いて騒ぐわね」
「あ、ああ、そうだな……」
国王は認めないと言いたかったのだろうが、
王妃が無邪気に祝福してしまった。
王妃が認めてしまった以上、何も言えないのか国王もうなずいた。
だけど、ルシアン様を狙っていた令嬢たちに何か言われるかな。
ルシアン様ってすごくもてるんだよね……。
私を傷つけなさそうだと思って選んだけど、
もう少し考えてからにすればよかった。
後悔し始めていたら、ルシアン様が私に近づいてくる。
「改めて、ルシアン・ジラールだ。よろしく」
「よろしくお願いします。ニネットです」
女嫌いというわりには積極的に交流しようとしてくれている?
穏やかに笑いかけてくれるルシアン様に、
これなら女嫌いでも問題なさそうとほっとする。
「ニネット嬢、今日から家に来ないか?」
「え?」
「話は聞いている。元婚約者と義妹が婚約したのだろう?
義妹がいる侯爵家には戻りたくないんじゃないのか?」
「いや!ニネットは連れて帰る!結婚するまでは私の娘だ!
オデットが嫌なら、オデットを追い出すから!」
私がいなくなると困る侯爵が叫んだが、
それは無視してルシアン様にお願いする。
「連れて行ってください」
「よし、行こうか」
「はい」
「それでは、失礼します。あとのことは書類を送ってください」
「待て!ニネットは私が連れて帰る!ニネット!!」
侯爵が私を捕まえようとしたけれど、ルシアン様が先に手を引いて助けてくれた。
そのまま、手をつないで謁見室から走って逃げる。
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